混血

雛田

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混血

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「私たちのお母さんってどんな人だろ」
夏と秋の間。夜の生ぬるい風が私たちの頬をかすめる。
私と唯は物心ついた時からここに居る。親がいない子供たちが集められた施設。
衣食住が必要最低限与えられているので、特に目立った不満はない。
「あっ。流れ星」
唯が見つけた。
「えっと。えっと。将来結婚して子供が沢山できますように」
「真尋はいつも言ってるよね」
「うん。だって憧れるんだもん」
血の繋がった人がいないからこそ憧れる。確かに唯たちは家族だ。けれど血縁関係ではない。血の繋がりがある家族がほしい。これが最大の私の夢だ。

「真尋!結婚と子供おめでとうすぎるよ!」
あれから順調に高校を卒業して、就職。職場で出会った人と交際してそのままゴールイン。そして数日前に妊娠がわかったのだった。全ての人生が怖いくらい上手くいっていた。

けれど。

「俺が帰ってくるまでに全部家事終わらせとけよ。楽チンな専業主婦さんなんだからよ」
「きゃっ」
右肩を押されて、床に手をついてしまう。身重になり、反射神経が鈍くなってしまっているので受け身がとれない。
ストレスと軽度の暴力を受けていた私の身体は悲鳴をあげた。

「残念ながらお子さんは…」
続きを聞かなくても医者が言いたいことはわかった。ずっと大事にするって決めたのに。
当然家に帰る気になんてなれなかった。

「もしもし」

無意識のうちに私は唯を呼び出していた。大人になった私たちはあの頃のようにブランコに座っていた。 
「なんかあった?」
優しく問いかけてくれる唯の声を聞いた途端、全てが溢れ出た。 
言葉も涙も。
唯は何も言わず、温かさで包み込んでくれた。
「血の繋がりがある存在が欲しかった。けどもう。もう。生きていけないよ…」
「私にいい考えがあるんだ」
そう言って彼女はかばんからカッターを取り出した。
いたずら好きな子供のような笑みを浮かべた彼女はおもむろに。

自分の手首を切り出した。

血が滴る。状況理解の前に心が言う。私も切らなきゃと。
白い表面に刃を押し付け、深呼吸をする。そしてひと思いに。
どんどん血があふれ出てくる。そこに唯が自分の傷口を擦り付ける。
「真尋。これで血。つながったね」
薄れゆく意識の中感じた。血のつながりを持つ本当の家族になった彼女の温もりを。
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