福猫

雛田

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福猫

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今日もまた同じ日が始まる。

「朝ご飯何食べる?」
「ミルクがいいのである!」
「分かったわ」
どこで覚えてきたのか問いたくなるほど変な日本語を使っているのは太郎。黒猫なのに言葉を話せる。ちょっぴり変なのだ。
「ミルク飲み終わったらお散歩行ってくるのである!」
「分かったわ。気をつけるのよ」
元気いっぱいの太郎と二人で暮らすのはとっても楽しい。
「いってくるのであるよ!」
「はーい。いってらっしゃい」
玄関から元気な声が聞こえてくる。
トントントン。
太郎が出てから少ししてドアが叩かれる。
誰だろう?疑問を抱きながらドアを開ける。
「マリアちゃん!」
私の名を呼んだのは隣の家のナーシャおばさん。
「りんごをたくさん貰ったからおすそ分けに来たわ」
と言いながらたくさんのりんごを見せる。
「わぁ!美味しそう。こんなにいっぱいいいの?」
「いいの。いいの。太郎ちゃんと一緒に食べてちょうだい」
「ありがとう!」
何か違和感を覚えつつもナーシャおばさんに感謝を伝えた。太郎が帰ってくるまでりんごジャムでも作ろうかしらと鍋を用意する。
コトコト。コトコト。作っているうちに。
「ただいまなのである!」
元気のいい太郎の声が私の耳に届く。
「おかえり」
私がジャムを作っている匂いが太郎の鼻に届いたのであろう。
「何作ってるのであるか?」と聞かれた。
「りんごジャムを作っているのよ。そこにあるりんごも自由に食べていいからね」
「やった!」
そう会話をしている時に、さっき感じた違和感の正体に気付く。ナーシャおばさんは太郎のこと「太郎ちゃん」ではなく「たろちゃん」と呼ぶ。
つまりさっき来たのは偽物のナーシャおばさん。もしかしたらりんごに毒が入っているかもしれない。
「太郎!食べちゃ……」
私が気づいた頃には時すでに遅し。毒りんごを飲み込んだ太郎はその場に倒れ、息を引き取っていた。
私は四つ葉のクローバーの葉を一枚ちぎって太郎の手に握らせ、魔法をかけた。

「ミルクがいいのである!」
さっきと同じ場面に戻ってきた。私の名はマリア。魔法が使える一族の子孫。ついでに人の寿命も見える。
残り十六時間。
これは太郎の寿命だ。私は今日一日太郎を守ってこの寿命を伸ばそうと頑張っている。
「お散歩行ってくるのである!」
前回と同じように太郎がお散歩に出かける。
少しして。トントントン。
「偽物のナーシャおばさんだわ」
居留守を使って偽物を追い払う。そしてすぐ後に。
「ただいまなのである!」
前と同じように太郎の元気な声が聞こえる。
「おかえり」
と返事をすると太郎は
「天気がいいから屋根で日向ぼっこしてくるのである!」
「気をつけるのよ」
あとでサンドウィッチでも持っていってあげようかしらと思い冷蔵庫の中を見る。その時。
「うわぁ!」
外から太郎の声が聞こえる。急いで外いくと黒マントに身を包んだ誰かが足早に逃げていったのが見える。そしてドアの近くには。
「太郎!」
太郎が足を痛そうに抱えながら息を引き取っていた。
私は四つ葉のクローバーの葉を一枚ちぎって太郎の手に握らせ、魔法をかけた。

「朝ご飯何食べる?」
「ミルクがいいのである!」
「分かったわ」
今日もマリアと朝食を食べれるなんて僕は幸せ者すぎるのである!
「お散歩に行ってくるのであるよ」
とマリアに声をかけいつも通り散歩に出かける。いつもの道を歩いていると。
「太郎ちゃん。りんご要らない?」
とナーシャおばさんに声を掛けられる。
「ひとつ欲しいのである!」
「はいどうぞ」
「ありがとうなのである!」
帰ったらマリアと一緒に食べるのである!と思いながら散歩道を歩く。
のんびり歩いていると家が見えたきた。
「ただいまなのである!」
「おかえり。って何持ってるの?」
「ナーシャおばさんにもらったりんごなのである!」
「そう。」
なにか元気がなさそうであるな。
「一緒に日向ぼっこしようのである!」
「だめよ。」
冷たい。マリアが冷たい。
「一人でしてくるのである!」
「だめだってば!」
怖くて視界がぼやける。
「ごめんなのだ。マリア」
僕が謝るとマリアが抱きしめてくれた。あたたかい。
「んーん。私こそ大きな声出しちゃってごめんね」
僕が泣き止むまでマリアは抱きしめてくれた。
そして二つ葉のクローバーの一枚をちぎって僕にプレゼントしてくれた。
「これ持って気をつけて日向ぼっこしてきてね」
「わかったなのである!」
屋根に登り呑気に日に当たっていると
ドン。
誰かに背中を押された感覚に襲われた。
落ちている途中で窓からマリアが見える。一つの葉になってしまったクローバーを見ている。落ち込んだ顔で。それを見て全てを思い出す。
過去に二回僕は死んだことがあるって事を。マリアが呪文を唱えて生き返らせてくれたってことを。
あぁ。今日も死ぬのか。
地面と自分の距離がゼロになった時白い光に包まれた。包まれてクローバーの葉が消えてなくなった。
そういう事か。全てを察した僕はマリアから離れることにした。
あてもなくとぼとぼと歩いていると四つ葉のクローバーが敷き詰められた草原にたどり着いた。
マリアの悲しむ顔を見たくないというみがってな理由でマリアから離れた。
今日も天気がいいなと思っていると
「太郎!」
マリアの声が聞こえた。馬鹿になっちゃったのかな僕。なんて思っていると「太郎!」とまた聞こえた。
声のした方をそこにはマリアがいた。
「居なくならないでよ」
と涙まじりの声で言われる。
「ごめんなのである」
僕も涙まじりの声で言う。するとマリアは優しくハグをしてくれた。
「うぅ…」
誰か違う人の声が聞こえた。泣き声だろうか。声の主を探しているとナーシャおばさんがいた。
「あっ!ナーシ……」
僕が声をかけようとすると
「貴方は誰なの」
冷たくマリアが言い放った。僕が困惑しているとナーシャおばさんが白い煙に包まれた。白煙の中から現れたのは隣町のハンスだった。
「マリアさんに一目惚れしてしまって。この黒猫がいなかったら一緒に暮らせたりしないかなって。本当にごめんなさい。」
ハンスは僕たちの友情に心を打たれたみたいだった。
「太郎を殺そうとしたのは許せないわ。けどもう太郎に危害を加えないというのならお友達ならなってあげてもいいわよ」
と心優しいマリアが言った。魔女といえば紫色の毒々しいスープだが、マリアはその作り方など知らない。心優しい魔女なのだ。
「ありがとう。本当にありがとう」
泣きながらお礼を言ったハンスはおもむろにそこにあった四つ葉のクローバーを二つ手に取って魔法をかけた。
クローバーの飾りが付いたネックレスを作り出し、僕たち二人にプレゼントしてくれた。
「ありがとうなのである!」
澄んだ晴れた空の下。僕はハンスに感謝を伝えた。

「おはよう、太郎。朝ごはんは何がいいかしら?」
「おはようである。今日のご飯は魚がいいのである」
マリアは太郎のために魚を用意する。
「今日の予定はなんであるか?」
「今日は」微笑みながらマリアは言う。
「一緒にピクニックに行かない?」
「行くのである!」
マリアと太郎は新しい一日へ踏み出していく。
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