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第四章 王道をなぞれ!な学園編
第7話 信頼の上に嫉妬は生えない
騒がしい1日が終わる。放課後を告げるチャイムが鳴り、織理は一息付いた。部活動など入っていない彼はもう帰るだけ。クラスメイトがちらほらと教室を出ていく様を感じながら、帰り支度を始める。
匠は委員会があると言って出てしまったし、在琉は寄りたいところがあるからと先に出てしまった。少しは織理を気にしてくれてはいたが、それを織理が帰らせた。そこまで負担になりたいわけではない。
そうしていると攪真から声を掛けられた。彼はすでに鞄を肩に掛けている。周りに人影はない。
「織理、一緒に帰ろうや」
「いい、けど……あの子は平気?」
あの子、つまり結菜のこと。姿が無いのは部活でも入っているのか、タイミングの問題なのかは分からない。織理は別に攪真を避けるつもりもない。この発言もどちらかと言えば両者が気まずくならないようにの配慮でしかない。どうせ家に帰れば会えるのだから、此処で両者に無駄な波風を立たせたく無いだけのこと。
「……あのな、あいつはマジで彼女やない。俺が好きなのは……織理だけで……」
攪真は寂し気に、そう吐き出した。その表情に織理の胸まで痛むようだ。別に好意を疑っているわけでも無いのに、何故そんなに思い詰めた顔をするのだろう。誰と付き合っていようと攪真が織理を囲い込んだ事実だけで、何一つ疑う余地などないのに。
縋るように彼は織理の腕を握った。
「在琉だけやなくて俺のことも見て……俺はほんまに織理がいなくちゃ……」
周囲の景色が僅かに歪む。腕を掴んだ手に力が込められている。久々の感覚に織理は眉を寄せつつ、攪真を宥める。
「攪真……わかった、から一緒に帰ろ?」
「ありがとなぁ……織理」
すっと歪みが消えていく。――攪真、自覚ないのかな。自分の能力が景色を歪めてる事に。織理はそう思いながらも攪真の手を引く。
言ってしまえば攪真は気分的に、不安定になると能力を使い始める。どうやらそれが無意識らしく自覚もなさそうな事に織理は気がついていた。勿論少し漏れ出しているだけのそれは人にそこまで影響もないだろう。おそらく。
ただ良いことではない。能力の使いすぎは何かしらの不調をもたらすことが多い。それに耐性のない人間には、悪影響が及ぶ可能性もある。能力者として織理はそこが心配だった。まして織理と同じく攪真は脳に作用する能力、簡単に他人を廃人に出来る可能性を秘めているのだから。
教室を出ても特に会話はない。織理は聞きたいことも今は無かったし、攪真も気まずそうな顔をしたままだった。
結局そのまま玄関までたどり着く。部活に励む生徒の声と、帰路につく生徒の話し声。まだまだ賑やかな時間だ。織理は無意識に攪真の手を離す。
「……織理?」
「人が居るから……」
万が一にも結菜などに見られては攪真の立場が危うくなる。そう考えてのことだったが、彼自身はそう受け取らなかった。
――俺と手を繋いでるとこ、見られるのが嫌なんか。人目を気にする程度の感情、自分を恋人だと匂わせたくないのだろうと察せる行動。胸がズキズキするような不快や感覚が走った。
「なぁ、織理……俺……」
手を離さないで、と織理に手を伸ばした。その時横から誰かが近づいてきた。
「あ、攪真先輩だ……! 今から帰りですか?」
話しかけてきたのは織理の知らない女子生徒だ。しかし攪真は知っている、2日前に校舎裏で告白してきた後輩。攪真の好きな人を織理だと当ててきた(攪真は否定したが)人物だ。
「脳繍先輩もこんにちは」
彼女は織理のそばに近寄る。珍しい行動に織理は避けることはなかった。
「あの、私攪真先輩と帰りたくて……」
小さな声で織理に彼女は伝えた。――また攪真がなんか女の子をひっかけたのだ、と織理は理解しつつ、自分を糾弾しない彼女に敵意を向ける気にもならなかった。自分は家に帰れば攪真とも会える、ならばここは彼女を優先しても良いだろう。折角の交友を邪魔する気はない。
織理は頷き、攪真に向き直る。
「先帰るね。彼女と楽しんで」
「な、っ……! だから俺に彼女は……!」
そこまで言って攪真はハッとした。第三者がまだいるのに彼女はいらない、織理だけだと叫ぶなんてあまりにもリスクが高すぎる。
止まった攪真を横目に、織理は会釈だけして玄関を出ていった。
「あの……お邪魔でしたか?」
――ほんまにな。なんでこうもうまくいかないのだろう、織理と一緒にいたいのに皆が邪魔をする。家でだって2人きりになれないのに、なんで、なんで――
叫びたい気持ちを抑えて攪真はにっこりと笑う。
「邪魔なんかやあらへんよ。俺のこと好いてくれてありがとな。さ、帰ろか」
何よりも、攪真は人に嫌われるのが嫌だった。だからこんな時でも織理を追いかけるよりその場を取り繕うことしか選べなかった。
――――
攪真と別れてそのまま玄関を出る。すると校門の手前に丁度弦がいるのが見えた。彼は2人の女の子に囲まれているようだった。邪魔したら悪いかな、と彼は思って少し大回りに歩こうとした。
が、弦は織理に気がつくと視線を向けて手を振った。そしてそのまま近づいてくる。
「織理、今帰り? 一緒に帰る?」
にこにこと人好きな笑みを浮かべる弦につい頷いた。良いのかな、と女の子の方に目を向けるとやはり少し不満そうな顔をしている。
「えー! 先輩、私たちと帰りましょうよ」
女の子の1人はそう言って弦に詰め寄る。攪真に告白してた女の子達と同じ感じがするな、と織理は戸惑いながら弦を見あげた。
「ごめんねぇ、折角だけど好きな子と帰りたいから」
織理の肩を抱き寄せながら、申し訳なさそうにしながらもどこか甘い言葉。――好きな子、その言葉に織理の顔が少し染まる。こうして口に出されて紹介されてしまうと気恥ずかしい。人前で照れ照れとはしたく無かったが、こればかりは許して欲しい。そんな気持ちで俯く。
そんなやりとりを見たもう1人の女の子から、奇妙な声が漏れた。
「BL……ってこと!? 萌えるんだが?」
彼女の目には明確に違う何かが見えていた。俗に言う腐女子だ、弦への憧れよりも目の前の供給に喜んだ。尊敬する優しくてイケメンでえっちな先輩に、小柄で女顔のオドオド系後輩。灰色の脳細胞が活性化するのは必然だ。なおこの評価は彼女の独断である。
「ちょっと何言ってるの!」
その頭を、先ほどの1人が叩く。生もので想像するのも大概だが目の前でやるなと。
「……でも邪魔しません! そう言うことなら! でも次は一緒に帰ってください!」
意外なことに彼女もまた物分かりが良かった。友人の奇怪な発言だけツッコミ、しかし弦に迷惑を掛ける気はない。なんせ彼女らは恋人になりたい以前に弦が推しなのだ。
弦はくすくす笑いながら彼女達に手を振る。
「気が向いたらねー」
そのまま弦は織理の手を引いて歩き出す。戸惑いから抜け出せない織理はただ弦の歩調に合わせて進む。
「嫌だった? 返事聞かずに連れ出しちゃった」
「いえ……弦さんが慕われてるの見て嬉しくなりました」
――なんだか楽しそうな集まりだった、弦さんって後輩からも慕われててすごい。織理の頭の中はそんな感想しかない。
「嫉妬とかしてくれないんだ? ま、彼女達は本当に後輩なだけなんだけど」
くすくす笑う弦の言葉は半分以上冗談だった。別に嫉妬されたいわけではない。ただセオリー通りなら、の冗談。
「嫉妬……」
そう言えば、どうなのだろう。織理は少しだけ考える。思えば何かを羨むと言う感覚を、最後に抱いたのはいつだったか。弦が女の子に囲まれているのを見ても『それが彼の交友関係』としか思わなかった。だって家では側に居るし……髪だって乾かしてもらったりたまに一緒に同じベッドに寝ることだってある。今一番弦のそばに居るのは自分だと、確信が――
織理はそこで顔を赤くした。なんて傲慢な思考だろう。改めて考えると自分は弦からの想いを享受し過ぎていて、それを当然かのように受け止めてしまっていた。
「ごめん、なさい……弦さん」
「何を謝られるの俺」
「俺何も弦さんに返せてないのに……、側にいるのが当たり前だと思ってしまってて……その、嫉妬とかする余地なくて……」
織理の発言に弦は思わず小さく吹き出した。
「何を真剣な顔して言うかと思ったら……。それだけ俺の想いが通じてるってことだね、なら良かった。嫉妬する余地ないくらい俺を信頼してくれてるなんて……織理は可愛いね」
微笑む彼は織理の頭を撫でる。添えられた言葉に織理も照れながら微笑む。
――優しい手つき、ずっとそうだった。同棲を始める前から弦は自分を可愛い後輩として扱って、ずっと優しくて、何よりも自分でも自覚していないところまで包んで甘えさせてくれる。自分のうまく伝えられない真意を掬い上げて、そこに感情を返してくれる。
その包容力に恐ろしくなる一方、どこまでも甘えて堕ちて行きたくなる自分もいる。そして彼はそれを咎めないだろうとも思う。
ただ、弦は明確に織理を依存させないように『絶対に離れない』とは言わなかった。だから織理もあと一歩で留まれる。
織理は思うのだ、『きっと俺が弦さんを心から求めない限り彼は今のまま、心地よい距離で止まってくれる』と。それが嬉しいのか寂しいのかは今の織理には判断できなかった。
――でも、不安にはならない。弦さんは嫌いになってもきっと言ってくれるから。俺が察さなくても、全部……言葉にしてくれそう。
どこまでも甘えた考えに嫌気は差すものの、そう思えてしかたなかった。
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