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第五章 外からくる現実
第1.5話 錯覚と代替行為【注意】
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※見方によっては他カプっぽく見えるかもしれないです。
あの日から俺は家を出なくなった。
弦先輩に後遺症を負わせた事実が飲み込めなくて、せめてもの罪滅ぼしの様にずっと。だって立つこともできず、腕も殆ど動かない人を1人になんてできなかった。
それに、こうしていれば織理と顔を合わせなくて済む。なんて逃避行動でもあった。せめてこの人に償うことで、罪悪感から逃げようとしている。その自覚はちゃんとある。
弦の部屋に入り浸り、必要な時に手を貸す。
とは言え、彼との日々は穏やかではあった。薄らと開いた目に気がついて近寄る。
「弦先輩……調子は……どないですか?」
「心配しすぎ。全然問題ないよ」
へらへらと笑う先輩は、本当に何ともないかのようで頭が混乱する。本当に、声も表情もいつも通りだ。
「……と言うか弦って呼んでいいよ。いちいち先輩つけるの面倒でしょ」
何だか今更な事を。今日までずっと弦先輩と呼んできたのだから、そちらの方が言いやすいくらいだった。
「え、っと……弦? なんか、変な感じやな」
「あはは、そのうち慣れるよ」
少しだけ腕が動くようになって来たせんぱ……弦は、起きている時は本を読んだり、音楽を聴いたりと割と悠々自適に過ごしている。流石に両手を使って何かを、というのは難しい様だったがある程度工夫して。
その姿に少しだけ安心するが、起き上がることはないが精神面が健康そうで……本当に、何でこんな事をしてしまったんだろう。最低な自分の感情を全部ぶつけて、自分の感情すら制御できなくて、みっともない。
「……攪真、ほらおいで」
こうやって少し苦しくなるとすぐにこの人は俺を呼んで抱きしめようとする。力の入ってない軽い抱擁、よくもまぁ同居人如きにこんなこと出来るなと思わなくもないが。
ただ、悲しいくらいに安心するのだ。
胸元に頬を寄せると弦の心音がする、生きてる、異常がない。暖かくて、良い香りがする。……織理がこの人を好きになるのがよくわかる。この人のそばに居ると自分を全て受け入れてもらえるような、……安心感があった。
「弦……先輩、……」
「なぁに? 攪真……まだ、心配なの?」
幼子をあやす母親の様な、優しい声。男に対してその表現を使うのは気持ち悪いと思うが、そう思ってしまうのだ。
少し頭を押し付ける。もたれ掛かっては倒れてしまうから、本当に軽く。けれどその頭を彼は緩く抱え込んでくれる。
「……なんで、こんな……優しいんやろ」
――あぁ、織理にこうされてみたかったな。そう思うのに、このままでも良い様な気がしてきて困る、
「俺おかしくなりそう、……織理の姿を重ねて、しまって」
「ふふ、攪真の方が後遺症残ってるのかな……。いいよ、織理だと思っても。抱かれる気はないけどね」
揶揄うような声が心地いい、織理とは違う話し方なのに何かが似てる。……違う、織理がこの人に影響を受けたから似てるだけだ。思えば織理の行動を変えて来たのはこの人だった。振る舞い方を教えて、俺たちに織理の愛を振り撒いたのは。
「弦……弦さん、……キス、してもええですか。耐えられへん……織理のこと、こんなに好きなのに触れられへんくて……」
最低だな、俺は。弦を代わりにして、それで満たされようとしてる。織理に合わせる顔がないからこうして弦の解放をしているのに、余計に合わせる顔を無くす選択をしている。でま、抑えきれない。好きなのに、触れることも出来ないから。だから。
弦は少し困った様に笑った。
「……ちょっとやだかも。流石に何でもはしないよ」
そう言って俺の口を手で塞ぐ。そしてその上からこの人は唇を重ねた。掌越しに、キスを……。小さくなるリップ音に心臓がはち切れそうだった。ダメだこの人、ほんとうに人の転がし方をよく分かってる。
「寂しいからって俺にぶつけすぎないでね、きっと後悔するから。……本当織理も攪真も、衝動的なんだから」
ふふ、とまた笑う弦はどこか慈しむようで。こんな風に余裕のある振る舞いができたなら、どんなに良かったか。
悔しくなって弦の頭を抱え込み胸元に押し付ける。
「攪真?」
「ええから、黙っとって」
すると「しょうがない」とでも言うかのように弦は目を閉じて俺の胸元に頭をつけて、そのまま上目遣いで見上げる。
「かくま……きもちいい、ね」
ほらこうやってすぐ織理の真似をする。アレ以降、この人は織理の真似して俺を揶揄うようになった。一瞬ドキッとするのに、すぐに笑って空気を壊すから全然そこは靡かないのだが。
でも、少し怖くはなる。やっぱり脳にも後遺症が残ってしまったのではないか、とか。俺が織理を重ねて能力を使ったから、彼と織理が混ざってしまったのではないかと。それを彼自身が笑って否定するからまだ良いが、それすら演技だったらどうしよう、そう悪い方向に考えてしまう。
織理を重ねているのはこちらなのに、彼の演技が織理に重なりすぎるから頭が冷やされるようで。
けれど彼はそんな事を知る由もないだろう。
「早く治して、織理に会いに行かないとね……攪真もいつまでも付き合わせていたら本当に愛想尽かされそうだし」
「……本当にって何やねん! 人が気にしとることを……」
織理と顔を合わせにくいからこうして逃げて来てるのに。それもわかってるからこの人はそんなことを言う。
どこかで、このままこの人が壊れたままで織理に会わずにいてくれたらいいのにと思う自分がいることに本当に嫌になる。
あの日から俺は家を出なくなった。
弦先輩に後遺症を負わせた事実が飲み込めなくて、せめてもの罪滅ぼしの様にずっと。だって立つこともできず、腕も殆ど動かない人を1人になんてできなかった。
それに、こうしていれば織理と顔を合わせなくて済む。なんて逃避行動でもあった。せめてこの人に償うことで、罪悪感から逃げようとしている。その自覚はちゃんとある。
弦の部屋に入り浸り、必要な時に手を貸す。
とは言え、彼との日々は穏やかではあった。薄らと開いた目に気がついて近寄る。
「弦先輩……調子は……どないですか?」
「心配しすぎ。全然問題ないよ」
へらへらと笑う先輩は、本当に何ともないかのようで頭が混乱する。本当に、声も表情もいつも通りだ。
「……と言うか弦って呼んでいいよ。いちいち先輩つけるの面倒でしょ」
何だか今更な事を。今日までずっと弦先輩と呼んできたのだから、そちらの方が言いやすいくらいだった。
「え、っと……弦? なんか、変な感じやな」
「あはは、そのうち慣れるよ」
少しだけ腕が動くようになって来たせんぱ……弦は、起きている時は本を読んだり、音楽を聴いたりと割と悠々自適に過ごしている。流石に両手を使って何かを、というのは難しい様だったがある程度工夫して。
その姿に少しだけ安心するが、起き上がることはないが精神面が健康そうで……本当に、何でこんな事をしてしまったんだろう。最低な自分の感情を全部ぶつけて、自分の感情すら制御できなくて、みっともない。
「……攪真、ほらおいで」
こうやって少し苦しくなるとすぐにこの人は俺を呼んで抱きしめようとする。力の入ってない軽い抱擁、よくもまぁ同居人如きにこんなこと出来るなと思わなくもないが。
ただ、悲しいくらいに安心するのだ。
胸元に頬を寄せると弦の心音がする、生きてる、異常がない。暖かくて、良い香りがする。……織理がこの人を好きになるのがよくわかる。この人のそばに居ると自分を全て受け入れてもらえるような、……安心感があった。
「弦……先輩、……」
「なぁに? 攪真……まだ、心配なの?」
幼子をあやす母親の様な、優しい声。男に対してその表現を使うのは気持ち悪いと思うが、そう思ってしまうのだ。
少し頭を押し付ける。もたれ掛かっては倒れてしまうから、本当に軽く。けれどその頭を彼は緩く抱え込んでくれる。
「……なんで、こんな……優しいんやろ」
――あぁ、織理にこうされてみたかったな。そう思うのに、このままでも良い様な気がしてきて困る、
「俺おかしくなりそう、……織理の姿を重ねて、しまって」
「ふふ、攪真の方が後遺症残ってるのかな……。いいよ、織理だと思っても。抱かれる気はないけどね」
揶揄うような声が心地いい、織理とは違う話し方なのに何かが似てる。……違う、織理がこの人に影響を受けたから似てるだけだ。思えば織理の行動を変えて来たのはこの人だった。振る舞い方を教えて、俺たちに織理の愛を振り撒いたのは。
「弦……弦さん、……キス、してもええですか。耐えられへん……織理のこと、こんなに好きなのに触れられへんくて……」
最低だな、俺は。弦を代わりにして、それで満たされようとしてる。織理に合わせる顔がないからこうして弦の解放をしているのに、余計に合わせる顔を無くす選択をしている。でま、抑えきれない。好きなのに、触れることも出来ないから。だから。
弦は少し困った様に笑った。
「……ちょっとやだかも。流石に何でもはしないよ」
そう言って俺の口を手で塞ぐ。そしてその上からこの人は唇を重ねた。掌越しに、キスを……。小さくなるリップ音に心臓がはち切れそうだった。ダメだこの人、ほんとうに人の転がし方をよく分かってる。
「寂しいからって俺にぶつけすぎないでね、きっと後悔するから。……本当織理も攪真も、衝動的なんだから」
ふふ、とまた笑う弦はどこか慈しむようで。こんな風に余裕のある振る舞いができたなら、どんなに良かったか。
悔しくなって弦の頭を抱え込み胸元に押し付ける。
「攪真?」
「ええから、黙っとって」
すると「しょうがない」とでも言うかのように弦は目を閉じて俺の胸元に頭をつけて、そのまま上目遣いで見上げる。
「かくま……きもちいい、ね」
ほらこうやってすぐ織理の真似をする。アレ以降、この人は織理の真似して俺を揶揄うようになった。一瞬ドキッとするのに、すぐに笑って空気を壊すから全然そこは靡かないのだが。
でも、少し怖くはなる。やっぱり脳にも後遺症が残ってしまったのではないか、とか。俺が織理を重ねて能力を使ったから、彼と織理が混ざってしまったのではないかと。それを彼自身が笑って否定するからまだ良いが、それすら演技だったらどうしよう、そう悪い方向に考えてしまう。
織理を重ねているのはこちらなのに、彼の演技が織理に重なりすぎるから頭が冷やされるようで。
けれど彼はそんな事を知る由もないだろう。
「早く治して、織理に会いに行かないとね……攪真もいつまでも付き合わせていたら本当に愛想尽かされそうだし」
「……本当にって何やねん! 人が気にしとることを……」
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