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第六章 これから
第3話 すきなもの
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「おかえり~、織理、在琉」
2人が家に帰れば、玄関で弦が出迎えた。織理は思わず目を丸くする。
「弦さん、足……」
弦が立ってる、攪真がそばにいないのに。衝撃で惚けてしまったが、その手に持っている杖に目が行った。
「杖借りたんだ。だからもう大丈夫、痛み止めも貰ってるから無理もしてないよ」
安心して、と微笑む弦に織理は息を吐いた。――良かった、こうして立っているだけでも回復に向かっているように見えて嬉しい。
「良かった……」
「心配かけちゃったね」
でも本当に良かった、血ももう出ていないし……片目は閉じられたままだけれどそれを感じさせない程度には弦が気にしていないように見える。
「ねぇ織理……在琉も、抱きしめて良い?」
「え、オレも? なんで?」
「そうしたいから、だね」
ふふ、といつものように笑って弦は腕を前に差し出す。織理は躊躇うことなくその腕に収まった。在琉の手を引きながら。
在琉は溜め息を吐き、仕方ないかと織理の横に収まる。
――織さんも弦さんも、人を抱きしめるのが好きだな。在琉の頭にふとよぎった考え。
「……織さんって、……」
「? なに? 俺が何?」
しかし在琉は続けなかった。何か言わなくても良いことを言いそうになったからだ。織理が不思議そうに在琉を見ていたが続きがないようなので諦めた。
少しの間弦の腕に抱かれ、解放される。目を細め、喜びを隠さない弦に織理もつられて笑った。
「夕飯の準備するから」
「あ、ごめんね。……よろしく、在琉」
在琉は少し逃げるようにキッチンへ向かう。どうしたんだろう、織理もそれについていくことにする。
「俺も手伝ってきます。弦さん、また後で」
「ごめんね、引き留めて。……夕飯よろしくね」
キッチンでは在琉が袋から買ってきた野菜を取り出しているところだった。別に何も変わらない、逃げるように見えたのは気のせいだったのだろうか。
「切るの手伝うよ」
「いいよ、弦さんと話してくれば」
――もしかしてまた寂しいのかな。在琉の表情は分かりにくい。
織理は一度荷物を置いて在琉に腕を広げる。
「……ぎゅってしようか?」
「いらない。寂しいわけじゃないから。本当にそう言うのじゃないんだ」
普通に断られて腕を元に戻した。
それっきり、在琉は何も言わなかった。だが不思議と気まずさはない、不機嫌になっているわけではないからだろう。尚更謎だった。
「織さんって……」そのあとに続く言葉は思いつかなかった。
20分ほどして漸く夕食の時間となる。食卓にはご飯と味噌汁、そして織理が食べたいと言った刺身が置かれた。
「おおー、ええやん。久々に切り身見た気がするわ」
「……食べたくなっちゃって」
織理は恥ずかしそうに顔を俯かせた。自分の気分で普段食べないものを買ってしまった謎の罪悪感。しかも好みもわからないから値引きされたものを適当に選んできてしまった。
「たまには良いよね、俺も魚好き」
ふふ、と笑って弦は味噌汁に口をつけた。
「……そう言えばみんなの好きなものって何?」
ふと、織理はそんな問いを口に出した。夕食の当番は各々が好き勝手作っているが、基本的に無難なものが多い。炒め物、うどん、カレー……織理もその時の気分で作っている。故に今後食事に悩んだときの参考にしようと思っての話題だった。
「なんか今更やな。俺は麺類が好き。うどんとかラーメンとかな」
なんかそれっぽい。謎の感想を抱いた。少なくとも洋食のイメージが全くない。彼の食事当番の時もうどんや焼きそばなどを見かける気がする。
次に口を開いたのは弦だった。
「俺はそうだなぁ、和食好き。と言うか魚が好き、白身でも赤身でも……焼いてても生でも」
こっちはあまりピンと来なかった。彼の食事当番の際は偏りがない。あっさり目の味付けの、鶏肉や温野菜サラダなど割とヘルシー寄りのメニューが多い。どちらかというと洋食の印象だった。
弦はそのまま在琉に目を向ける。
「……オレ? 考えたことない。でも……まぁ辛い味付けは好きかもね」
「在琉たまに変なの食べてるもんね……」
麻婆パンだっけ、あのたまに食べてる変なパン。彼の食事も偏りは少ない、カレーも作れば魚も焼く。朝は食パン、昼は惣菜パン。
「織理は?」
攪真から聞かれて織理は少しだけ考える。何が好きかと言われると、確かに思い浮かばない。お金のなかった頃、つまり同棲する前は食べられるだけで十分だったのだ。今日刺身を買ったのはただ食べたかったからで1番好きかと言われるとわからない。
自分で質問しておきながら自分の答えが見つからないことに戸惑う。
「色々試してみようか。俺こう見えてもお金はあるし……その中で好きなもの、見つけていこう」
相変わらず人の心を読んだような弦の言葉に織理はさらに恥ずかしくなった。
「なら俺黒毛和牛食ってみたいわ。先輩奢ってくれへん?」
「じゃあオレ四川麻婆豆腐食べたい」
「んな辛いもんお前しか喰へんやろ」
「攪真お前意外と子供舌なんだ?」
「腹立つわアンタの言い方! 辛いもんでイキがるのは厨二病のガキやろが」
織理の悩みの隣で攪真と在琉が不毛な争いをしてる姿に、つい笑ってしまった。そう色々試そうと思えば試せるのか。弦の資金頼りになってしまうけれど、その選択肢が広がっていく感覚がなんとなくむず痒かった。
2人が家に帰れば、玄関で弦が出迎えた。織理は思わず目を丸くする。
「弦さん、足……」
弦が立ってる、攪真がそばにいないのに。衝撃で惚けてしまったが、その手に持っている杖に目が行った。
「杖借りたんだ。だからもう大丈夫、痛み止めも貰ってるから無理もしてないよ」
安心して、と微笑む弦に織理は息を吐いた。――良かった、こうして立っているだけでも回復に向かっているように見えて嬉しい。
「良かった……」
「心配かけちゃったね」
でも本当に良かった、血ももう出ていないし……片目は閉じられたままだけれどそれを感じさせない程度には弦が気にしていないように見える。
「ねぇ織理……在琉も、抱きしめて良い?」
「え、オレも? なんで?」
「そうしたいから、だね」
ふふ、といつものように笑って弦は腕を前に差し出す。織理は躊躇うことなくその腕に収まった。在琉の手を引きながら。
在琉は溜め息を吐き、仕方ないかと織理の横に収まる。
――織さんも弦さんも、人を抱きしめるのが好きだな。在琉の頭にふとよぎった考え。
「……織さんって、……」
「? なに? 俺が何?」
しかし在琉は続けなかった。何か言わなくても良いことを言いそうになったからだ。織理が不思議そうに在琉を見ていたが続きがないようなので諦めた。
少しの間弦の腕に抱かれ、解放される。目を細め、喜びを隠さない弦に織理もつられて笑った。
「夕飯の準備するから」
「あ、ごめんね。……よろしく、在琉」
在琉は少し逃げるようにキッチンへ向かう。どうしたんだろう、織理もそれについていくことにする。
「俺も手伝ってきます。弦さん、また後で」
「ごめんね、引き留めて。……夕飯よろしくね」
キッチンでは在琉が袋から買ってきた野菜を取り出しているところだった。別に何も変わらない、逃げるように見えたのは気のせいだったのだろうか。
「切るの手伝うよ」
「いいよ、弦さんと話してくれば」
――もしかしてまた寂しいのかな。在琉の表情は分かりにくい。
織理は一度荷物を置いて在琉に腕を広げる。
「……ぎゅってしようか?」
「いらない。寂しいわけじゃないから。本当にそう言うのじゃないんだ」
普通に断られて腕を元に戻した。
それっきり、在琉は何も言わなかった。だが不思議と気まずさはない、不機嫌になっているわけではないからだろう。尚更謎だった。
「織さんって……」そのあとに続く言葉は思いつかなかった。
20分ほどして漸く夕食の時間となる。食卓にはご飯と味噌汁、そして織理が食べたいと言った刺身が置かれた。
「おおー、ええやん。久々に切り身見た気がするわ」
「……食べたくなっちゃって」
織理は恥ずかしそうに顔を俯かせた。自分の気分で普段食べないものを買ってしまった謎の罪悪感。しかも好みもわからないから値引きされたものを適当に選んできてしまった。
「たまには良いよね、俺も魚好き」
ふふ、と笑って弦は味噌汁に口をつけた。
「……そう言えばみんなの好きなものって何?」
ふと、織理はそんな問いを口に出した。夕食の当番は各々が好き勝手作っているが、基本的に無難なものが多い。炒め物、うどん、カレー……織理もその時の気分で作っている。故に今後食事に悩んだときの参考にしようと思っての話題だった。
「なんか今更やな。俺は麺類が好き。うどんとかラーメンとかな」
なんかそれっぽい。謎の感想を抱いた。少なくとも洋食のイメージが全くない。彼の食事当番の時もうどんや焼きそばなどを見かける気がする。
次に口を開いたのは弦だった。
「俺はそうだなぁ、和食好き。と言うか魚が好き、白身でも赤身でも……焼いてても生でも」
こっちはあまりピンと来なかった。彼の食事当番の際は偏りがない。あっさり目の味付けの、鶏肉や温野菜サラダなど割とヘルシー寄りのメニューが多い。どちらかというと洋食の印象だった。
弦はそのまま在琉に目を向ける。
「……オレ? 考えたことない。でも……まぁ辛い味付けは好きかもね」
「在琉たまに変なの食べてるもんね……」
麻婆パンだっけ、あのたまに食べてる変なパン。彼の食事も偏りは少ない、カレーも作れば魚も焼く。朝は食パン、昼は惣菜パン。
「織理は?」
攪真から聞かれて織理は少しだけ考える。何が好きかと言われると、確かに思い浮かばない。お金のなかった頃、つまり同棲する前は食べられるだけで十分だったのだ。今日刺身を買ったのはただ食べたかったからで1番好きかと言われるとわからない。
自分で質問しておきながら自分の答えが見つからないことに戸惑う。
「色々試してみようか。俺こう見えてもお金はあるし……その中で好きなもの、見つけていこう」
相変わらず人の心を読んだような弦の言葉に織理はさらに恥ずかしくなった。
「なら俺黒毛和牛食ってみたいわ。先輩奢ってくれへん?」
「じゃあオレ四川麻婆豆腐食べたい」
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