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第五話 思いがけないあれこれ
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チビッコ達との遊びにも一段落つき、迅は草原に大の字になって大地を感じていた。
どこまでいっても青い空と、気持ちのいい風が吹き抜け草原を靡く。
迅たちは、ここから何日かかけて、道中狩りをしながら一番近い村に向かう。
その獲物を村に卸して物々交換や、路銀を稼ぐとの事。
明日から、近場から狩りを始めるため、今日は下準備に時間を費やす。
主に弓での狩猟になるので、エルフのマーナは弓と矢の手入れに余念がない。魔獣との戦いでほとんどの矢を消耗したらしく、蛇種族のレンカとともに矢づくりと弓の補強をしていた。
翌朝、狩りの準備を終えた一行は、川に沿って上流方向に向かっていた。
川幅も狭くなり、大きな岩が目立つようになってくる。川を覆うような木々が現れ始め、渓流に差し掛かったのがわかった。
木の枝のすきまからは日光が差し、絶え間なく川の音と、鳥の囀りが聞こえてくる。
渓流の淀みが現れると、レンカが手前の大きな岩の上に乗り、全体を見回す。
そして指笛を鷹揚をつけながら鳴らした。
何の鳴き声かはわからないが、それはまさしく鳥の鳴き声。
静けさと笛音を、交互に感じるかのように吹き続けていると、羽ばたく音が聞こえた。
見ると大きなキジのようで、川を斜めに横切る感じで飛んできた。
その奥をみると、いつの間にかマーナが弓を構えていた。いや、すでに矢は放たれたあとだった。
矢で射抜かれたキジは、そのまま川に落ちて流れ、下流で待機していたチビッコと迅に捕獲された。
あっけにとられた迅が、次は凝視するようにマーナを観察する。
レンカの笛と、周りの気配にも反応しているのか、マーナの耳が、遠目にもよく動いてるように見え、更に目を瞑っているようにも見えた。
また羽ばたく音がして、弓が鳥を追いかけている。と思っていると矢は放たれ鳥を射抜いた。
それが、弓の弦を引きっぱで追いかけるのではなく、鳥が現れてから追いかけるように弦を引き、流れるように自然に溜めなく矢は放たれる。
この一連の流れに迅は見惚れてしまっていた。
いやいやいや、狩りってこんな感じだったのか。たまたまか。
なんか、昔見たジャングル奥地のドキュメンタリー映画みたいだ。それにマーナは刀と弓の違いこそあれ、ありゃ座頭市じゃん。
すげえもんみたなっ。浮き出る鳥肌を拭うかのように、腕を摩っていた。
そのあと何度か場所を変え狩りを続ける。
チビッコ達は飽きてきたのか、魚取りに興味が移っている。
それはそれで、中々感心だなと、見ていると今日は獣人ミクルが苦戦しているようだ。
渓流の魚は警戒心が強いのか気配を感じると、岩下に潜ってしまう。
だが、そこに手を突っ込みガッシと手掴みで魚を引っこ抜いている猛者がいた。鬼人ラオだった。
あっちこっち、ずぶ濡れになっては岩下に手を突っ込んでは鷲掴みしている。
「おい、すごい。へへっ」
「ふんぬっ。ふんぬっ」
と悔しがるミクルだが、それでも何匹かは例の手法で魚をエボーのキクリに向けて弾き、キクリはキクリで、『きゃっきゃっ』言いながら魚取りを楽しんでいた。
「はーい。終わるよー」
レンカの掛け声で狩りの終わりを告げる。
迅はレンカとマーナにそれぞれ『素晴らしい』と小さな拍手を贈り、讃えた。
二人とも ? な反応だったが、それでも何か伝えずにはいられなかった。
結構な収獲量となったので、少し拓かれた場所まで移動して、皆で手分して獲物を処理することになり、迅も教わりながら手伝う。
チビッコ達が慣れた手つきで、鳥の羽をむしったり内臓を取り出してるのを見ておもわず『せんぱい』といいそうになるのを抑えた。
鳥や魚は内臓を取り出し、代わりに何かの草を詰め込んでいた。傷まなくなるらしい。食べれる内臓は塩漬けに保管するとのこと。羽も売れるし、自家製枕も作れるとか。
処理も終わって、日はまだ高いので村に歩みを進める。
道が獣道から路といえるようなものに変わっていく。
獲物はそれぞれ分担して、背負うか腰に巻き付ける感じで運ぶようにした。
両手は常に手ぶらの状態にするのだとか。確かに手持ちで一日中は歩けないよな。
迅は先頭を歩き、ミクルとラオを両隣に、何故か手をつなぐ。
ラオはもう片方の手に小枝を持ち、時折『トーウっ』といいながら、道端の藪を薙ぎ払う仕草をし、ミクルも小鳥や小動物を見かけるたび『シャー』と威嚇していた。
迅の後ろにレンカ。レンカの服の裾をつかみながらキクリ。
最後尾にはマーナの順で歩いていた。
後ろを窺うたびマーナと目が合う。常に微笑みを返してくれて、なぜか照れてしまった。その視線をまたぐようにレンカがひょこっと顔だし
「なーに迅さん」
と悪戯っぽい笑みでレンカと目が合う。と、これまた照れてしまった。
なんだ俺……
しばらく進んでいくと、立ち往生している旅の帆馬車と出くわし、迅が声を掛ける。
「こんにちは。どうしましたか? 」
帆馬車の御者らしき者がこちらを見受けると
「いや、参ってしまってね。車輪が外れて嵌らないんだよ」
見ると確かに帆馬車の車輪が、車軸から外れている。荷台自体はジャッキのような何本かのつっかえ棒で支えられていた。
どうやら商人一行らしく、商人と御者兼従業員、護衛の者、旅の者、の四人で商人と御者が悪戦苦闘しているようだった。
旅の者は途中で拾われたとの事。
「ちょっといいですか? 」
迅が車輪の方へ近寄る。特に馬車に詳しくはない迅だったが、単純な構造ゆえみれば仕組みはわかる。
しかし、直すとなるとどうしたものか見てみた。
「ああ、大丈夫ですね。直ります」
軸と軸受けが摩擦のしすぎで、留め具が緩んでいだけだった。留め具に木を仮止めで加えれば問題ないと思った。
ていうか、護衛さんと旅の者さん。何でなにもしないの?
我関せずといったような護衛は、剣を前に抱えるのみ。
旅人は乗せてもらってるのにも関わらず、荷台から『まだですか?』って感じでみてる。
マジかおいっ……
ひとしきり心の中で文句を叫んだあと迅は、商人に直してみることを伝えた。もちろん満面の笑みで。
迅が、マーナにナイフを借りて仮止め用の木を削っている間に、マーナ、レンカ、商人で会話が交わされていく。
「皆さんはどちらへ」
「私たちは旅の途中です。ヤタカ村に向かってました」
「ほう、そうですか」
「商人さん、何を運ばれてるんですか? 」
「色々生活用品です。衣料やら食料やら」
「へー。うちら、収獲したのあるけど交換できます? 」
「何ありますか? ……こりゃあいいですな。ちょっとお待ちください。おーい」
と商人が御者に声かけ、何やら帆馬車で始める。
そうこうしている間に迅も仮止めを終え、商人に説明する。
深々と商人と御者にお礼を言われたが『いえいえ』と迅なりに格好をつけた。
帆馬車の荷台を広げ、軽い屋台のように品物を並べ始める。
物珍しさにチビッコ達も荷台に前のめりになり、迅も加わり皆で品物を物色しはじまった。
旅の者は『はあ~』護衛の者は『我関せず』といったところだ。ほうっておくことにして商人の説明を聞く。
「ああ、それは乾物ですな。キギロ兔とオノ鹿の干物です。あと特にこのナイル熊の肝は、旅には重宝されますぞ」
「なかなかに良いものを扱っているな! 」
ふいに、後ろからいつもと別口調のレンカに、『ん? 』っと振り向く迅。ハッと思ったかのような感じで、色とりどりの石や貝殻の装身具を指さしながら
「あーら迅さん、これなんか素敵じゃない、買って? 」
いつもの口調に戻ってグイっと寄ってきた。『ん? 』それより近いって! めちゃ、嬉しいんだけど……
「買っても何も俺は一文無しですよ」
と無下に応えつつ、それよりも
「商人さん、靴と、この服一式あったりします? 」
迅は山や川を歩き通しでくたびれた靴と、上着を差しながら訊いた。
「はいはい。合うものがあればいいですがお持ちします」
「えっ、あるんだ。助かります」
迅は皆から少し離れ、商人が用意した物を着込んでみた。意外にしっくりしたので、身に着けている物と交換交渉しようかと思ったが、馬車のお礼ということでタダになった。
大したことはしていなかったので恐縮し、上着、シャツやら靴を譲った。商人は暫しの間、服の生地をさわったり、目の前に寄せ、じっくり眺めると、ひどくびっくりし、
「迅様と申されましたな。このようなものよろしいのですか。見たことの無い生地と作りです。どちらか高貴なお方でらしたのでしょうか」
「全然ですよ。ははっ。良かったら使ってください。」
「ふうむ……でしたら迅様、お嬢様方、坊ちゃん。こちらのお気に入りの物ございましたらどうぞお持ちください」
う~ん。そんなに違うもんかな。まぁね、価値あるなら利用してもらって、こちらも遠慮なく頂戴しますか。
「レンカさん、さっきの気に入ったヤツいただきましょう。マーナさん、遠慮しないで。商人さんのご好意ですから。顔立てましょう! ほら、みんなの好きなの選んで! 」
一瞬の間の後、皆、目を見合わせて歓声が上がった。
商人一行とも別れ、歩みを続けていくと、野川の音が聞こえてきたのでマーナを窺う。
思った通り、今日は野川を近くにして野宿場所を決めることにした。やっぱり水場があることが一番なんだな。
それから少し進むと川と路の落差も小さくなり、平地が見え、そのあたりで今夜は食事やら野宿の準備をすることになった。
野宿する場所が決まったので、各自荷物を下ろし、迅が何気なく川べりを散策していると、ラオが小便しているのをみかけ、『おーれも』っと、ラオの隣で一緒に立ち小便をしはじめた。
人がしてるの見るとしたくなるんだよなぁ。男同士連れションだ。
「へへっ」
「ふふっ」
この連れション同士の、会話ともいえない相づちみたいなのなんだろ。と迅が思っていると、マーナの呼ぶ声が聞こえてくる。
「ラーオ。迅さん」
こちらに近づく。うそだろっ。こんなお約束的な展開あるん。ヤベっ。止まれ俺の……マーナと目が合う。
「ここにいたんですね。なにやっ……やーっ。やーっ。やーっ」
と連呼して走って逃げていく。最後に『迅さんの変態! 』という言葉を残して。
いや。いや。てかまだ止まらん。するでしょ。みんな。
「へへっ」
とラオがニタニタしながら、小便がついた手を迅の服で拭きながら、屈辱な言葉を発して逃げる。
「ヘンターイ」
「う。ばっ。汚ねっ。このクソガキっ」
虚しさに声が漏れる。
「ははっ」
そのあと、マーナと対面すると、口を尖らせ若干頬赤らめしつつ
「もう、迅さんやめてください、あんなことするの」
とまたそっぽを向いてどこかへ行ってしまった。
へっ。いや理不尽な。無理っしょ。なに言うのこの人。
迅がふと思う。そういえば、エルフってそうゆうのしないのかな? んなバカな。俺なんかコソコソすましてるけど。そういったそぶりも何も感じなかったな。さすがはレディー。
チビッコ達は普通に、というかむしろあけっぴろげにしてるし、まだ羞恥心とかないんだろうな。ははっ
レンカは……いや、ガッツリしてるな! あれは。
うんっ? 誰かの殺気を感じた気がした。
どこまでいっても青い空と、気持ちのいい風が吹き抜け草原を靡く。
迅たちは、ここから何日かかけて、道中狩りをしながら一番近い村に向かう。
その獲物を村に卸して物々交換や、路銀を稼ぐとの事。
明日から、近場から狩りを始めるため、今日は下準備に時間を費やす。
主に弓での狩猟になるので、エルフのマーナは弓と矢の手入れに余念がない。魔獣との戦いでほとんどの矢を消耗したらしく、蛇種族のレンカとともに矢づくりと弓の補強をしていた。
翌朝、狩りの準備を終えた一行は、川に沿って上流方向に向かっていた。
川幅も狭くなり、大きな岩が目立つようになってくる。川を覆うような木々が現れ始め、渓流に差し掛かったのがわかった。
木の枝のすきまからは日光が差し、絶え間なく川の音と、鳥の囀りが聞こえてくる。
渓流の淀みが現れると、レンカが手前の大きな岩の上に乗り、全体を見回す。
そして指笛を鷹揚をつけながら鳴らした。
何の鳴き声かはわからないが、それはまさしく鳥の鳴き声。
静けさと笛音を、交互に感じるかのように吹き続けていると、羽ばたく音が聞こえた。
見ると大きなキジのようで、川を斜めに横切る感じで飛んできた。
その奥をみると、いつの間にかマーナが弓を構えていた。いや、すでに矢は放たれたあとだった。
矢で射抜かれたキジは、そのまま川に落ちて流れ、下流で待機していたチビッコと迅に捕獲された。
あっけにとられた迅が、次は凝視するようにマーナを観察する。
レンカの笛と、周りの気配にも反応しているのか、マーナの耳が、遠目にもよく動いてるように見え、更に目を瞑っているようにも見えた。
また羽ばたく音がして、弓が鳥を追いかけている。と思っていると矢は放たれ鳥を射抜いた。
それが、弓の弦を引きっぱで追いかけるのではなく、鳥が現れてから追いかけるように弦を引き、流れるように自然に溜めなく矢は放たれる。
この一連の流れに迅は見惚れてしまっていた。
いやいやいや、狩りってこんな感じだったのか。たまたまか。
なんか、昔見たジャングル奥地のドキュメンタリー映画みたいだ。それにマーナは刀と弓の違いこそあれ、ありゃ座頭市じゃん。
すげえもんみたなっ。浮き出る鳥肌を拭うかのように、腕を摩っていた。
そのあと何度か場所を変え狩りを続ける。
チビッコ達は飽きてきたのか、魚取りに興味が移っている。
それはそれで、中々感心だなと、見ていると今日は獣人ミクルが苦戦しているようだ。
渓流の魚は警戒心が強いのか気配を感じると、岩下に潜ってしまう。
だが、そこに手を突っ込みガッシと手掴みで魚を引っこ抜いている猛者がいた。鬼人ラオだった。
あっちこっち、ずぶ濡れになっては岩下に手を突っ込んでは鷲掴みしている。
「おい、すごい。へへっ」
「ふんぬっ。ふんぬっ」
と悔しがるミクルだが、それでも何匹かは例の手法で魚をエボーのキクリに向けて弾き、キクリはキクリで、『きゃっきゃっ』言いながら魚取りを楽しんでいた。
「はーい。終わるよー」
レンカの掛け声で狩りの終わりを告げる。
迅はレンカとマーナにそれぞれ『素晴らしい』と小さな拍手を贈り、讃えた。
二人とも ? な反応だったが、それでも何か伝えずにはいられなかった。
結構な収獲量となったので、少し拓かれた場所まで移動して、皆で手分して獲物を処理することになり、迅も教わりながら手伝う。
チビッコ達が慣れた手つきで、鳥の羽をむしったり内臓を取り出してるのを見ておもわず『せんぱい』といいそうになるのを抑えた。
鳥や魚は内臓を取り出し、代わりに何かの草を詰め込んでいた。傷まなくなるらしい。食べれる内臓は塩漬けに保管するとのこと。羽も売れるし、自家製枕も作れるとか。
処理も終わって、日はまだ高いので村に歩みを進める。
道が獣道から路といえるようなものに変わっていく。
獲物はそれぞれ分担して、背負うか腰に巻き付ける感じで運ぶようにした。
両手は常に手ぶらの状態にするのだとか。確かに手持ちで一日中は歩けないよな。
迅は先頭を歩き、ミクルとラオを両隣に、何故か手をつなぐ。
ラオはもう片方の手に小枝を持ち、時折『トーウっ』といいながら、道端の藪を薙ぎ払う仕草をし、ミクルも小鳥や小動物を見かけるたび『シャー』と威嚇していた。
迅の後ろにレンカ。レンカの服の裾をつかみながらキクリ。
最後尾にはマーナの順で歩いていた。
後ろを窺うたびマーナと目が合う。常に微笑みを返してくれて、なぜか照れてしまった。その視線をまたぐようにレンカがひょこっと顔だし
「なーに迅さん」
と悪戯っぽい笑みでレンカと目が合う。と、これまた照れてしまった。
なんだ俺……
しばらく進んでいくと、立ち往生している旅の帆馬車と出くわし、迅が声を掛ける。
「こんにちは。どうしましたか? 」
帆馬車の御者らしき者がこちらを見受けると
「いや、参ってしまってね。車輪が外れて嵌らないんだよ」
見ると確かに帆馬車の車輪が、車軸から外れている。荷台自体はジャッキのような何本かのつっかえ棒で支えられていた。
どうやら商人一行らしく、商人と御者兼従業員、護衛の者、旅の者、の四人で商人と御者が悪戦苦闘しているようだった。
旅の者は途中で拾われたとの事。
「ちょっといいですか? 」
迅が車輪の方へ近寄る。特に馬車に詳しくはない迅だったが、単純な構造ゆえみれば仕組みはわかる。
しかし、直すとなるとどうしたものか見てみた。
「ああ、大丈夫ですね。直ります」
軸と軸受けが摩擦のしすぎで、留め具が緩んでいだけだった。留め具に木を仮止めで加えれば問題ないと思った。
ていうか、護衛さんと旅の者さん。何でなにもしないの?
我関せずといったような護衛は、剣を前に抱えるのみ。
旅人は乗せてもらってるのにも関わらず、荷台から『まだですか?』って感じでみてる。
マジかおいっ……
ひとしきり心の中で文句を叫んだあと迅は、商人に直してみることを伝えた。もちろん満面の笑みで。
迅が、マーナにナイフを借りて仮止め用の木を削っている間に、マーナ、レンカ、商人で会話が交わされていく。
「皆さんはどちらへ」
「私たちは旅の途中です。ヤタカ村に向かってました」
「ほう、そうですか」
「商人さん、何を運ばれてるんですか? 」
「色々生活用品です。衣料やら食料やら」
「へー。うちら、収獲したのあるけど交換できます? 」
「何ありますか? ……こりゃあいいですな。ちょっとお待ちください。おーい」
と商人が御者に声かけ、何やら帆馬車で始める。
そうこうしている間に迅も仮止めを終え、商人に説明する。
深々と商人と御者にお礼を言われたが『いえいえ』と迅なりに格好をつけた。
帆馬車の荷台を広げ、軽い屋台のように品物を並べ始める。
物珍しさにチビッコ達も荷台に前のめりになり、迅も加わり皆で品物を物色しはじまった。
旅の者は『はあ~』護衛の者は『我関せず』といったところだ。ほうっておくことにして商人の説明を聞く。
「ああ、それは乾物ですな。キギロ兔とオノ鹿の干物です。あと特にこのナイル熊の肝は、旅には重宝されますぞ」
「なかなかに良いものを扱っているな! 」
ふいに、後ろからいつもと別口調のレンカに、『ん? 』っと振り向く迅。ハッと思ったかのような感じで、色とりどりの石や貝殻の装身具を指さしながら
「あーら迅さん、これなんか素敵じゃない、買って? 」
いつもの口調に戻ってグイっと寄ってきた。『ん? 』それより近いって! めちゃ、嬉しいんだけど……
「買っても何も俺は一文無しですよ」
と無下に応えつつ、それよりも
「商人さん、靴と、この服一式あったりします? 」
迅は山や川を歩き通しでくたびれた靴と、上着を差しながら訊いた。
「はいはい。合うものがあればいいですがお持ちします」
「えっ、あるんだ。助かります」
迅は皆から少し離れ、商人が用意した物を着込んでみた。意外にしっくりしたので、身に着けている物と交換交渉しようかと思ったが、馬車のお礼ということでタダになった。
大したことはしていなかったので恐縮し、上着、シャツやら靴を譲った。商人は暫しの間、服の生地をさわったり、目の前に寄せ、じっくり眺めると、ひどくびっくりし、
「迅様と申されましたな。このようなものよろしいのですか。見たことの無い生地と作りです。どちらか高貴なお方でらしたのでしょうか」
「全然ですよ。ははっ。良かったら使ってください。」
「ふうむ……でしたら迅様、お嬢様方、坊ちゃん。こちらのお気に入りの物ございましたらどうぞお持ちください」
う~ん。そんなに違うもんかな。まぁね、価値あるなら利用してもらって、こちらも遠慮なく頂戴しますか。
「レンカさん、さっきの気に入ったヤツいただきましょう。マーナさん、遠慮しないで。商人さんのご好意ですから。顔立てましょう! ほら、みんなの好きなの選んで! 」
一瞬の間の後、皆、目を見合わせて歓声が上がった。
商人一行とも別れ、歩みを続けていくと、野川の音が聞こえてきたのでマーナを窺う。
思った通り、今日は野川を近くにして野宿場所を決めることにした。やっぱり水場があることが一番なんだな。
それから少し進むと川と路の落差も小さくなり、平地が見え、そのあたりで今夜は食事やら野宿の準備をすることになった。
野宿する場所が決まったので、各自荷物を下ろし、迅が何気なく川べりを散策していると、ラオが小便しているのをみかけ、『おーれも』っと、ラオの隣で一緒に立ち小便をしはじめた。
人がしてるの見るとしたくなるんだよなぁ。男同士連れションだ。
「へへっ」
「ふふっ」
この連れション同士の、会話ともいえない相づちみたいなのなんだろ。と迅が思っていると、マーナの呼ぶ声が聞こえてくる。
「ラーオ。迅さん」
こちらに近づく。うそだろっ。こんなお約束的な展開あるん。ヤベっ。止まれ俺の……マーナと目が合う。
「ここにいたんですね。なにやっ……やーっ。やーっ。やーっ」
と連呼して走って逃げていく。最後に『迅さんの変態! 』という言葉を残して。
いや。いや。てかまだ止まらん。するでしょ。みんな。
「へへっ」
とラオがニタニタしながら、小便がついた手を迅の服で拭きながら、屈辱な言葉を発して逃げる。
「ヘンターイ」
「う。ばっ。汚ねっ。このクソガキっ」
虚しさに声が漏れる。
「ははっ」
そのあと、マーナと対面すると、口を尖らせ若干頬赤らめしつつ
「もう、迅さんやめてください、あんなことするの」
とまたそっぽを向いてどこかへ行ってしまった。
へっ。いや理不尽な。無理っしょ。なに言うのこの人。
迅がふと思う。そういえば、エルフってそうゆうのしないのかな? んなバカな。俺なんかコソコソすましてるけど。そういったそぶりも何も感じなかったな。さすがはレディー。
チビッコ達は普通に、というかむしろあけっぴろげにしてるし、まだ羞恥心とかないんだろうな。ははっ
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うんっ? 誰かの殺気を感じた気がした。
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