【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第一章 辺境の村~6歳~

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 女神様の前で散っていったラーメンを埋葬して、礼拝堂の掃除一日目は終わった。
 実に虚しい気持ちだ。ジルオ様に声をかけなくていいや、勝手に帰ろう。
 今日は授業がない日でよかった。

 今はただ、朝ラーメンを失った喪失感を癒したい。そう思って牧場へ足を向ける。
 ボスにもふもふさせてもらおう。あと、山羊のミルクでも飲ませてもらおう。

 食べ物召喚魔法の欠点は、マジックアウトになるタイミングがわからないことだ。ラーメンの場合は二杯目でアウトかもしれないし。
 安全な場所で限界を検証しておかないと、気楽におかわりなどできない。
 そうして、とぼとぼ牧場へやって来た。

「おお、ボス~。心の友よ~」
「わふっ……? くんくん、ベロン」

 さっそく白狼のボスにハグしようと近づいたら、もふもふして癒されるどころか、ボスのざらざらした舌でベロベロ舐められた。
 確実にラーメンをこぼしたせいだな。
 やっぱり水場を借りて洗おうか。

「おや? なんだい、ハルト様じゃないか」
「あ、マオさん、こんにちは」

 昨日、美声を轟かせていた村長夫人だ。多くの村人たちも働くこの牧場を実質的に取り仕切っている人間のボスであらせられる。
 腕組みしているラーメン屋の大将みたいな感じの人で、決して逆らってはいけない。
 出会ってしまったら、とりあえず謝ろう。

「えっと、今までマオさんにもたくさんご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「へぇー、本当に人が変わったみたいだねぇ。亡くなられたソフィア様もきっと喜んでるよ」
「そうだと嬉しいです」
「今日もなんか手伝ってくれるんだろ?」
「はい?」
「あん?」
「あ、はい!」
「そうこなくちゃね、山羊のミルクを搾って」
「はい」

 なんか流れるようにシフトに入れられた。
 これでもまだ六歳なんだけど。
 貴族の令息だろうがそんなの関係ねぇ。
 さすが魔王と噂されるだけのことはある。

「ん? なんか言ったかい?」
「いえ、なにも! (怖い人だ)」

 山羊のミルクは癖はあるけどあっさり系。
 牛と同じで青草を食む時期や、暑さで水を多く飲む時期などで味はその都度変化するが、人間だけでなく犬や猫も普通に飲めるミルクだ。
 一方、牛のミルクのほとんどがチーズやバターの加工に使われる。死ぬ気で保存食を作るのは、毎年寒い冬が来る北方地方の定めだろう。
 小型の搾乳缶を置いて搾乳スタート。
 一応、辺境伯令息ですが、なにか?

 手を動かしながら別のことを考えよう。
 僕を取り巻く今の環境をシンプルにまとめると、ここは、田舎、過疎、貧乏、これといった産業はなく、度々魔物に襲われる辺境の地。
 はっきりとした四季があって雨は少なめ。
 川があるので水には恵まれている。

 辺境伯領という土地に縛られて、貴族であっても勝手に逃げ出すことは許されない。
 貴族だからこそ、ここで領民のために土地を守り豊かにすることを目指すのが義務なんだ。他家へ婿養子としてドナドナされない限りは。

 そもそも五男坊なんて貴族でいられる?
 勉強を頑張れば文官にでもなれるかな。
 いや、たぶん商家にでも出荷されるだろう。
 そうすればお金と人脈が手に入るからね。
 貴族に生まれた者の運命だよ。

 まあ、考え方によっては前世で独身だったわけだし、結婚相手がいい人だったら頑張れる。婿入りもそれはそれで幸せなのかもしれない。

「ハルト様!」
「はい!?」
「手、止まってるよ」
「すみません」

 いつの間にか後ろにマオさんがいた。
 やっぱり結婚は憧れるもんじゃない。
 幸せは歩いてこないんだ。
 仮に王都にある王立学院へ行かせてもらえるとしても、今六歳の僕の自由な時間は残り八年くらいだろう。
 その間にマリアの目を治したい。

 治癒魔法を覚えられれば万事解決だが、駄目だった場合に必要なのはお金だ。それも驚くほどの大金だろう……そうすると商売か。

 子供の僕にできることはなんだろうか?
 食べ物召喚魔法で香辛料や砂糖を出して、町で売れば手っ取り早く稼げる。
 そう考えるところだが、それはあまりにも短絡的で危険な選択だろう。僕には身を守るチート能力も偽装する術もないのだから。

 取引相手によほど信頼できる人物を見つけられても、向こうも出所のわからない商品は警戒するはず。まっとうな商人が盗品を扱ったとなれば、プロとして一発アウトだろうから、必ず仕入れ先を問われるし調べられる。

 だからと言って正直にステキ魔法で出せますなんて教えるのは、ぜひ僕を誘拐して一生監禁してくださいと言っているようなものだ。
 まさに金の卵を産むニワトリと同じだよ。

 ニワトリ……うん、ニワトリか。
 そういえばいないんだ、家畜のニワトリ。

 たまに食卓にのぼる目玉焼きは、大人たちが狩りや魔物の討伐に出て、森で偶然手に入れてきてくれた貴重な卵で作る珍品料理。
 そんな貴重な卵が手軽に手に入ったら、村の食卓は劇的に変わると思う。

 あ、そうだ!
 ちょっとアイデアが浮かんできたぞ!
 僕の魔法をうまく使えばどうにかできるんじゃないだろうか? うん、いける気がする。
 閃いた僕は鳥の情報を集めることにした。
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