【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第一章 辺境の村~6歳~

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 翌日。
 朝食を終えて、きこり衆のところへ行こうと部屋を出るとフィーネが待っていた。
 暗い表情。
 何か話したいことがあるようだ。

「フィーネ? 何かあったの?」
「はい、マリアお嬢様のことで……」
「マリアがどうしたの?」
「実は夕べから元気がないご様子で。何か悩み事があるのではないかと思いまして、先ほど伺ってみたのですが」
「答えてくれない?」

 こくりと頷くフィーネ。
 僕には今朝もいつも通りに見えた。

「僕は全然気がつかなかったけど」
「ハルト様にはご心配をかけたくないと、隠していらっしゃるからだと思います」
「そうなんだ……わかったよ、部屋へ行く。レンにちょっと待っていてって伝えて」
「はい。すみません」
「フィーネが謝ることはないよ、元気出して。教えてくれてありがとう」

 フィーネを励ましてからマリアの部屋へ。
 不安な気持ちで部屋を訪ねると、マリアはベッドに腰掛けてヒヨコを撫でていた。

「マリア、隣に座ってもいい?」

 こくりと頷くマリア。
 確かに元気がないようだ。

「あのね、マリア……」
「フィーネから聞いてきたのですか?」

 う、四歳の妹に先手を取られた。

「うん。マリアは何か悩み事があるのかな? 僕は兄として頼りない方だけど、よかったら話を聞かせてくれない?」

 マリアはぶんぶんと首を横に振る。

「僕ではだめ?」
「違います、そうじゃないです」
「うん?」
「ハルトお兄さまは頼りなくなんかないです。みんなのために色々すごく頑張っていて。でもマリアは、お兄さまのお手伝いができなくて」
「え? どうして? マリアは一緒に卵を温めてくれたよ? キリカのことも解決してくれたじゃない? すごく助かってるよ」
「でも……」
「うん?」
「マリアはみんなのお役に立てません。みんなに迷惑ばかりかけているから……」
「みんな迷惑だなんて思ってないよ。僕はマリアがいてくれるから頑張れるんだよ」

 とっさにそう返したものの正直面食らった。
 まだ幼いマリアが、そんな風に感じて悩んでいるとは夢にも思わなかった。

 それから落ち込むマリアを頑張って励ましたが、動揺した僕の慰めの言葉では、彼女を笑顔にすることはできなくて。
 事情を知って来てくれたマーサさんが、微笑んで「お任せください」と頷くので、僕は後ろ髪を引かれる思いで部屋を出た。

 無力だ。兄妹がいたこともなければ子育ての経験もないから、こういう時どうしたらいいのかまるでわからない。
 顔を上げるとフィーネとレンがいた。

「マリアがね、自分は役に立てない、みんなに迷惑をかけてるって言うんだ」
「ハルト様ごめんなさい」
「ボクもごめんなさい」
「二人ともどうして謝るの?」

「マーサさんが、最近私たちがハルト様のお話ばかりしていたからだろうって。マリアお嬢様は責任感がお強いから、ご自身と比べて落ち込んでしまったのではないかと言ってました」

 マリアが僕と比べる……そうなのか。
 以前の僕はやり場のない寂しさから兄上からは逃げていたし、マリアに対しては、どこかでつまらない嫉妬の感情を抱いていたと思う。
 僕がみんなに迷惑をかけてばかりだった。
 それが急に変わってしまって、マリアは自分が取り残されてしまったような、そんな孤独を感じているのかもしれない。

 マリアは賢くて責任感がある子だから、僕が彼女のために頑張れば頑張るほど辛かったのかも。フィーネやレンから僕の話を聞いて落ち込むほどに。

 僕はどうしたらいいんだろう?
 少なくともここで落ち込んでいてはダメだ。
 それは前世で学んできたことで、どんなに落ち込んだとしても問題の解決にはならない。

 じゃあ、今のマリアにとって大事なことはなんだろう? 僕ができることはなんだろう?
 僕は沈思黙考した。

 兄として目が見えない妹を守らなきゃいけないと思っていたけど、本当は彼女を可哀想だと思っていただけなのかな。目が見えないから不幸だと、勝手に思っていたのかもしれない。
 その点は、大いに間違っていたと思う。

 少なくとも兄である僕が、マリアのことを可哀想だ、不幸だなんて思っちゃいけない。
 目が見えないことは不幸じゃない。
 マリアがみんなの役に立ちたいと願うなら、兄の僕は彼女がスタート地点に立てるように導いてあげるべきだろう。本当にマリアのことを大事に思うのなら、時には心を鬼にすることも必要だ。

 たとえマリアの目が見えないままだとしても、彼女自身がこれからの人生を幸せだと思えるように。僕は兄としてできることを頑張る。

「うん。今できることを頑張るしかない」
「あの、ハルト様?」
「フィーネ、僕もう一度マリアと話してくる」

 再びマリアの部屋をノックする。
 マーサさんの返事で中へ入ると、マリアはマーサさんの胸で泣いていた。

「ハルト様、どうかされましたか?」
「マーサちょっとごめんね。マリア、僕はマリアの気持ちを察してあげられなくてごめんね。今は辛いと思うけど、僕が言うことをよく聞いていて欲しいんだ」

 まず僕が変わらなきゃ、心を鬼にして。

「あのね、誰かの役に立ちたいっていうマリアの気持ちはとても素晴らしいことだと思う。でも、誰かを助けるためには力がいるんだ。
 力っていうのは知力だったり体力だったり。
 今のマリアのままでは難しいと思う。
 本当ならまだ焦ることではないんだよ。ただ、マリアが誰かの役に立ちたいと心から望むのであれは、僕は全力で応援する。
 それでね、その一番の近道は勉強をすることだと思うんだ。マリアの勉強については僕に考えがあって、準備に少し時間がかかるから。
 えーと、そうだな、十日後に勉強を始める気持ちがあるかどうか聞くから、それまでにマリアが自分でよく考えて決めておいて欲しい。
 なんか一方的に話しちゃってごめんね。じゃあ、僕は出かけてくるから」

 マリアもマーサさんも驚いている様子。
 僕自身これでいいのか不安はある。
 振り返って部屋を出ると、フィーネもレンも揃って驚きに目を丸くしていた。

「フィーネ、マリアをお願いね。レン、牧場へ行ってボスと一緒にサブさんのところへ行くよ。レンにやってもらいたいことがあるから」
「うん、わかった」

 まだ幼いマリアの心境に驚いた。
 気づかなかった自分を不甲斐なく思った。
 だけど、おかげで覚悟は決まった。
 僕は優しいだけのお兄さまから変わるんだ。
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