【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第一章 辺境の村~6歳~

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 領主邸の食堂。
 暖炉の前の上座に兄上が、僕とマリアがいつもの席に並んで座る。ドレスコードは半裸じゃないこと。

 最低限のカトラリーを配したテーブルには、村の実力者たるマオさんを筆頭に、もとい村長さんを筆頭に有力者たちが順に席に着いた。

 教会神官のジルオ様。
 村の騎士、カインさん。
 ハンター兼なんか色々、ユカさん。
 きこり衆の親方、サブさん。
 皮革職人衆の親方、コバさん。
 村の若者のまとめ役、ゴロさん。

 皆さんお忙しい中をお集まりいただいたので、ほんの卵ばかりのおもてなしに、僕も口やら手やらを出しまくって卵料理を振る舞う。

 ポーチドエッグ、チーズ入りふわとろオムレツ、そしてハチミツ風味のカスタードプリン。
 プリンを作るのにどれほど苦労したことか。卵とミルクとハチミツの配分を試行錯誤しつつ、熾火の扱いに苦心してようやくできた。

 この村ではあり得ない豪華な料理とその美味しさに、みんなそれぞれ驚きと感動を口にした後、ぽつぽつと不安を口にし始めた。
 人って不思議な生き物だよね。

「アベル様? 一体なにがあったのですか?」

 そう切り出したのはカインさん。
 兄上はクラウスさんに目線を送ると、クラウスさんは例の古びた日記を見せた。
 母上が書き遺したという設定の小道具だ。

「今からお話しすることは、しばらくはこの場にいる皆さんだけの秘密にしていただきたい。いずれ準備が整いしだい本格的に売り出すまで、村人以外に口外することを固く禁じたいんです。これは村の存亡に関わることです」

 秘密の話と聞いてみんなの表情が固くなる。
 しかも村の存亡に関わるときた。
 質問はなく兄上の話の続きに耳を傾ける。

「実は、ソフィア様が遺してくださったこの日記に、ヘルヒクイ鳥の飼育方法などが記されていました」

「「「ヘルヒクイ鳥ーっ!?」」」

 やっぱり普通にそんな反応なんだ。
 改めて生きてて良かったー。
 ボスのおかげだよ。

「では、今いただいたのは全部ヘルヒクイ鳥の卵で作ったお料理なんですか?」
「ええ、そうです」

 興奮気味なユカさんに首肯する兄上。

「ふむ。つまりハルト様やマリアンヌ様たちの肩におる、ヒヨコと呼んでいるそれがヘルヒクイ鳥のひな鳥というわけじゃな?」

「はい、その通りですジルオ様。僕たちは内緒にするために親鳥をニワトリ、ひな鳥をヒヨコと呼んでいます」
「とても大人しい子たちなんですよ」

 僕とマリアは肩の上で眠っていたヒヨコを、大事に掌に移してみんなに見せた。

「「ピィ~?」」

 寝ぼけ眼で可愛らしく小首を傾げて。
 なかなか芸達者な子たちだよ。

「驚くのも無理はないが、ヒヨコが人に対して大人しいのは理解してもらえたと思う。猫のような夜行性でとくに昼は大人しいんだ」

 兄上の言葉にみんなは「ほぉー」と頷く。
 ジルオ様とサブさんは、僕が連れてるヒヨコとは以前に対面済みだしね。

「すごいじゃないか! それはあたしたちでも飼えるのかい? 卵はどのくらいの頻度でいくつ産むんだい?」

 さすがマオさん、ガツガツくる。
 魔鳥ごときなんの問題もないようだ。

「飼育情報に関しては、まだ不明な点が多いということはご理解いただきたい。
 その上で、卵は雄と離して飼っている雌がほぼ毎日一つ産む。それらはすべて孵化することのない卵で無精卵というそうです。
 反対に雌雄を一緒に飼った際に産む卵を有精卵という。抱卵日数はおよそ二十日で、その間は産卵をしない。こんなところです」

「エサはなんだい?」
「とくに選びません。草でも虫でも」
「うんうん、そいつは素晴らしいね」

 わあ、マオさん目がギラギラしてる。

「今後は飼育と繁殖を手伝ってもらえる者と情報を共有して、いずれ村人全員がこの恩恵を受けられるように協力してもらいたい」

 そのための卵料理でおもてなし。

「うちは喜んで協力するよ。ねぇ、あんた? ゴロ? 異存はないだろ?」
「あ、ああ……そうだな」
「まあ、大丈夫そうだしな」

 村長さんもゴロさんも嫌とは言わない。
 いやあ、家族仲がいいんだなあ。

「もちろん、今すぐ決断を求めているわけじゃない。ただ、この価値を理解した上で秘密厳守をお願いしたい。この事業がうまくいけば村の生活は必ず豊かになる。どうか未来の子供たちのために、皆さんの協力をお願いします」

 頭を下げる兄上、僕とマリアも続く。
 みんな納得してくれて深く頷いた。

 それから全員を引き連れて鳥小屋へ。
 特別な秘伝の食べ物として、チョコレート菓子をそれぞれヘルヒクイ鳥に与えてもらい、その効果と安全性を実感してもらった。

 続けてハニークマビーの紹介と友好関係を結ぶための砂糖水やりに移る。強面のサブさんですら若干腰が引けてた。
 マオさんはウケたのか爆笑してたけどね。
 魔蜂の巣がこんなに近くにあって共存できていることが信じられないらしい。
 
 こうしてお披露目会を終え、僕は兄上の横で帰宅する皆さんを玄関から見送る。

「兄上、お疲れ様でした」
「ふぅ、嘘つきは疲れるな。ハルト、お前はあまり嘘をつかなくていい生き方を選ぶんだぞ」
「はい、兄上……」

 自分はだいぶ手遅れであります。
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