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第一章 辺境の村~6歳~
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ポテトは素晴らしい。
揚げてよし、煮てよし、焼いてよし、蒸かしてよしで言うことなし。
サラダになり、スープになり、コロッケになり、チップスになり、中華料理では料理を盛り付けるバスケットにもなる。
痩せた土地でも寒冷地でも比較的簡単に栽培ができ、保存にも向いているとか、どれだけ優秀な食べ物なんだろう。
こんな身近に村のお宝があったんだ。
領主邸の地下室や村にいくつもある洞穴は、年間を通して涼しく、食材や種や種芋の低温貯蔵庫として使われている。
そこで食べられず、種芋にも選ばれず、捨てられるのを待つ去年のしわしわポテトを見つけた。もったいないけど消費しきれず廃棄するのは産地あるあるのこと。
そんなしわしわポテトが僕を助けてくれる。
すりおろしたポテトと水をボウルに入れて、撹拌と布巾による濾過をする。
その絞り汁を沈殿による分離方法で何度か水を入れ換えていくと白い沈殿物が得られる。
これを乾燥させてできる白い粉が片栗粉だ。
片栗粉はとろみをつけたり、粉から麺や皮を作る際には打ち粉としても使える。他にも、芋もち、ポテトガレット、揚げ物の衣にも。
揚げ物のあのサクサク食感は堪らないね。
この世界で食材ヒエラルキーの最下層にされようともポテトは本当に優秀なんだ。
村の洞穴で廃棄処分を待つポテトをもらった僕は、さっそく片栗粉を作った。
ただ、ポテトをすりおろす作業だけでも大変だったので、フィーネの水魔法に助けてもらい、布巾で絞った後の絞り汁から水分を除去。すぐに片栗粉ができた。魔法って便利。
そんなこんなで、場所は屋敷の調理場。
マーサさんと一緒にエプロンを着けた。
「よろしくね、マーサ」
「はい。でもハルト様、油を使うところは私がやりますから、離れていてくださいね」
「はーい」
二人で作るのは豚肉の竜田揚げ。といっても本物の豚肉ではなく、昨日兄上たちが倒した魔猪フォレストボアのお肉。通称ボア肉。
豚肉基準ならロースになるのかな。なのでボアロース。焼き肉で食べても美味しそう。
「ハルト様、よだれが」
「あ、ごめんなさい。えへへ」
浄化魔法をしてから踏み台に上がる。
一口大に切ったボア肉を、岩塩、酢、コリアンダーシードの粉末、ショウガ、ガーリック、白ワインで作った漬け込み液で揉み込む。冷蔵庫はないので冷水にボウルごと浮かべ、しばらく寝かせてお肉に味を染み込ませた。
お肉に味が染み込んだら、表面に付いた漬け込み液は浄化魔法で取り除く。多めの片栗粉をまぶしたら、フォレストボアのラードから作った揚げ油へ静かに入れる。
油の温度は勘! 己の目と耳で感じろ。
冗談ではなくて、熾火や炭火では正確な温度がわからないので、菜箸を入れてぷちぷちと油に小さな気泡ができる様子を観察して、だいたいこのくらいが百八十度だろうと揚げていく。
お肉を少し置いて休ませれば余熱が入るので、二度揚げすれば間違いない。一個切って確認すれば、生焼けの心配はないからね。
しっかり油を切ったら完成。
フォレストボアの竜田揚げ。
「マーサ、さっそく味見してみよう」
「はい。熱いので気を付けてくださいね」
「はーい」
それぞれのフォークに刺した竜田揚げは、光を浴びてキラキラ白金色に輝く。
鼻先に寄せれば幸せになる香ばしさだ。
では、いただきます。
口を大きく開けて、ゆっくりとかぶり付く。
カリッ、サクッ、じゅわあ~っと。
くぅうぅ~っ、もう美味しい!
外はラード特有のコクとうま味を吸ってカリッと揚がった衣のサクサク食感。香ばしさに、ハーブの爽快な香りと岩塩の塩味が続く。
中からフォレストボアの脂の甘い肉汁が溢れてきて、口の中がうま味で満たされる。
揚げ油がラードで重いかなと心配だったが、全然そんなことなかった。もちろんレモンなど柑橘系の酸味や、この前見つけた山椒なんかとも相性は良さそうだ。やるなボア肉。
ゆっくり咀嚼して飲み込むとため息が出た。
「はふぅ~、美味しい~」
「あぁ~、美味しい~」
僕とマーサさんは、唇を油でテカテカにした幸福な顔を見合わせる。なんとなく罪悪感から顔を寄せて声を潜めた。
「ハルト様! とても美味しいですよ!」
「うんうん! もう一個味見してみようよ」
「そうですね。今のがたまたま美味しくできただけかもしれませんしね」
「そうそう、確認は大事だよ」
後方を確認して再び、竜田揚げをぱくり。
「はふはふ、ん~っ! おいひい~」
「はああ~、本当に美味しいお料理ですね~」
肉汁溢れるから揚げを咀嚼する度に、頭の中でセロトニンだかアナンダマイドだか、幸福を感じる脳汁がドバドバ溢れ出てくる感じ。
「ねぇマーサ、もう一個ずつ食べちゃう?」
「ハルト様、さすがにそれは……」
「じゃあ、僕がマーサに食べさせてあげる」
「そ、それでは、私はハルト様に食べさせて差し上げないといけませんね、ええ」
「お返しは大事だよね」
「ええ、そうですとも」
僕とマーサさんが食欲に従い三個目の竜田揚げに手を伸ばした時、「ゴホン」と咳払いが聞こえた。二人でビクッと体を震わせ、人の気配を感じてゆっくりと振り返る。
「ハルト、その料理の説明を願おうか?」
調理場の入り口には、腕組みした兄上と笑顔のクラウスさん、その後ろにマリアとフィーネとレンもいた。どうやらみんな、竜田揚げの匂いに誘われて集まってきたらしい。
その日から、わが家は夏の竜田揚げ祭り。
その勢いで揚げ油をオリーブオイルに変えて、ナスやポテトの天ぷら祭りへ。
みんなポテト由来の白い粉の虜になった。
揚げてよし、煮てよし、焼いてよし、蒸かしてよしで言うことなし。
サラダになり、スープになり、コロッケになり、チップスになり、中華料理では料理を盛り付けるバスケットにもなる。
痩せた土地でも寒冷地でも比較的簡単に栽培ができ、保存にも向いているとか、どれだけ優秀な食べ物なんだろう。
こんな身近に村のお宝があったんだ。
領主邸の地下室や村にいくつもある洞穴は、年間を通して涼しく、食材や種や種芋の低温貯蔵庫として使われている。
そこで食べられず、種芋にも選ばれず、捨てられるのを待つ去年のしわしわポテトを見つけた。もったいないけど消費しきれず廃棄するのは産地あるあるのこと。
そんなしわしわポテトが僕を助けてくれる。
すりおろしたポテトと水をボウルに入れて、撹拌と布巾による濾過をする。
その絞り汁を沈殿による分離方法で何度か水を入れ換えていくと白い沈殿物が得られる。
これを乾燥させてできる白い粉が片栗粉だ。
片栗粉はとろみをつけたり、粉から麺や皮を作る際には打ち粉としても使える。他にも、芋もち、ポテトガレット、揚げ物の衣にも。
揚げ物のあのサクサク食感は堪らないね。
この世界で食材ヒエラルキーの最下層にされようともポテトは本当に優秀なんだ。
村の洞穴で廃棄処分を待つポテトをもらった僕は、さっそく片栗粉を作った。
ただ、ポテトをすりおろす作業だけでも大変だったので、フィーネの水魔法に助けてもらい、布巾で絞った後の絞り汁から水分を除去。すぐに片栗粉ができた。魔法って便利。
そんなこんなで、場所は屋敷の調理場。
マーサさんと一緒にエプロンを着けた。
「よろしくね、マーサ」
「はい。でもハルト様、油を使うところは私がやりますから、離れていてくださいね」
「はーい」
二人で作るのは豚肉の竜田揚げ。といっても本物の豚肉ではなく、昨日兄上たちが倒した魔猪フォレストボアのお肉。通称ボア肉。
豚肉基準ならロースになるのかな。なのでボアロース。焼き肉で食べても美味しそう。
「ハルト様、よだれが」
「あ、ごめんなさい。えへへ」
浄化魔法をしてから踏み台に上がる。
一口大に切ったボア肉を、岩塩、酢、コリアンダーシードの粉末、ショウガ、ガーリック、白ワインで作った漬け込み液で揉み込む。冷蔵庫はないので冷水にボウルごと浮かべ、しばらく寝かせてお肉に味を染み込ませた。
お肉に味が染み込んだら、表面に付いた漬け込み液は浄化魔法で取り除く。多めの片栗粉をまぶしたら、フォレストボアのラードから作った揚げ油へ静かに入れる。
油の温度は勘! 己の目と耳で感じろ。
冗談ではなくて、熾火や炭火では正確な温度がわからないので、菜箸を入れてぷちぷちと油に小さな気泡ができる様子を観察して、だいたいこのくらいが百八十度だろうと揚げていく。
お肉を少し置いて休ませれば余熱が入るので、二度揚げすれば間違いない。一個切って確認すれば、生焼けの心配はないからね。
しっかり油を切ったら完成。
フォレストボアの竜田揚げ。
「マーサ、さっそく味見してみよう」
「はい。熱いので気を付けてくださいね」
「はーい」
それぞれのフォークに刺した竜田揚げは、光を浴びてキラキラ白金色に輝く。
鼻先に寄せれば幸せになる香ばしさだ。
では、いただきます。
口を大きく開けて、ゆっくりとかぶり付く。
カリッ、サクッ、じゅわあ~っと。
くぅうぅ~っ、もう美味しい!
外はラード特有のコクとうま味を吸ってカリッと揚がった衣のサクサク食感。香ばしさに、ハーブの爽快な香りと岩塩の塩味が続く。
中からフォレストボアの脂の甘い肉汁が溢れてきて、口の中がうま味で満たされる。
揚げ油がラードで重いかなと心配だったが、全然そんなことなかった。もちろんレモンなど柑橘系の酸味や、この前見つけた山椒なんかとも相性は良さそうだ。やるなボア肉。
ゆっくり咀嚼して飲み込むとため息が出た。
「はふぅ~、美味しい~」
「あぁ~、美味しい~」
僕とマーサさんは、唇を油でテカテカにした幸福な顔を見合わせる。なんとなく罪悪感から顔を寄せて声を潜めた。
「ハルト様! とても美味しいですよ!」
「うんうん! もう一個味見してみようよ」
「そうですね。今のがたまたま美味しくできただけかもしれませんしね」
「そうそう、確認は大事だよ」
後方を確認して再び、竜田揚げをぱくり。
「はふはふ、ん~っ! おいひい~」
「はああ~、本当に美味しいお料理ですね~」
肉汁溢れるから揚げを咀嚼する度に、頭の中でセロトニンだかアナンダマイドだか、幸福を感じる脳汁がドバドバ溢れ出てくる感じ。
「ねぇマーサ、もう一個ずつ食べちゃう?」
「ハルト様、さすがにそれは……」
「じゃあ、僕がマーサに食べさせてあげる」
「そ、それでは、私はハルト様に食べさせて差し上げないといけませんね、ええ」
「お返しは大事だよね」
「ええ、そうですとも」
僕とマーサさんが食欲に従い三個目の竜田揚げに手を伸ばした時、「ゴホン」と咳払いが聞こえた。二人でビクッと体を震わせ、人の気配を感じてゆっくりと振り返る。
「ハルト、その料理の説明を願おうか?」
調理場の入り口には、腕組みした兄上と笑顔のクラウスさん、その後ろにマリアとフィーネとレンもいた。どうやらみんな、竜田揚げの匂いに誘われて集まってきたらしい。
その日から、わが家は夏の竜田揚げ祭り。
その勢いで揚げ油をオリーブオイルに変えて、ナスやポテトの天ぷら祭りへ。
みんなポテト由来の白い粉の虜になった。
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