【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第二章 辺境の村~7歳~

67 ナイフとマフラー

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 新年は色々と行事がある。

 風の月の五日目は、今年最初の土の日。
 この日はドワーフ族の仕事始めという話を聞いて、僕は鍛冶場にお邪魔した。
 軽い気持ちで「見てみたい」なんて言ったけど、ドワーフ族には特別な儀式らしい。

 鍛冶炉の熱気で顔が火照る。
 真剣な表情のロンさんとレンがリズムよく魔鋼鉄に金槌を打つと、明々と燃えた鋼は高い音を響かせて暗闇に火花を散らした。
 前世、関市で正月二日に『古式日本刀鍛練打ち初め式』を見たことを思い出す。

 暗い鍛冶場に舞い上がる火の粉は、羽が生えた小さな精霊たちが飛び交っているように見えて、とても幻想的な光景だった。

 戦いと鍛冶を司る火の女神イグニビスカ様と、古来ドワーフ族の主神であり豊穣と物作り、酒や料理を司る土の女神ノームマルド様。
 ロンさんとレンは、この二柱の女神様に奉じるためのナイフとスプーンを作った。
 そして儀式が終わると、レンは作ったナイフを真新しい鞘に入れて僕に差し出してきた。

「え? これ僕がもらっちゃっていいの?」
「うん。ハルト様、三日がお誕生日だったでしょ? アルダン様たちは、お誕生日になるとプレゼントをもらっていたから」

 本当に驚いた。
 自分の誕生日を忘れていたわけじゃないけど、わが家は貧しかったり、みんな忙しかったりしてお祝いなんてしたことなかったから。
 何もしないのが当たり前だったんだ。

 それがまさかレンからこんなサプライズを受けるとは。きっと僕のために革製の鞘も作ってくれたんだろう。驚きのあまり涙が出てきた。
 ナイフを受け取った僕は、気恥ずかしそうなレンを強く抱き締める。

「ありがとう、ありがとうレン! 父さんはレンの成長が嬉しいよ。ありがとう!」
「ハルト様はボクのお父さんじゃないよ!」
「そういう気持ちなんだからいいじゃん」
「やだよう」

 そんな僕とレンの様子を見ていたロンさんが、がははと豪快に笑う。

「良かったじゃねぇか、レン」
「うん」
「ハルト様、そのナイフは解体用だがいい出来だ。大事に使ってやってくれ」
「はい。ロンさんもありがとうございます。大切に使わせてもらいます」

 そっかー、あのレンがなあ。
 お返しをしなきゃ、とレンの誕生日を聞くと土の月の三十五日らしい。美味しい食べ物じゃあ、お手軽すぎるかな。何がいいだろう? 時間はあるからじっくり考えよう。

 儀式が終わると、鍛冶場には続々と村人たちがやって来て、冬の間に修理を済ませておきたい鍬や大鎌などの農具を置いていく。
 レンはこれから仕事があるというので、僕は大事にナイフを抱えて屋敷へ戻ってきた。

「ただいま、フィーネ」

 暖炉の前にはフィーネがいて、器用にくるくるとスピンドルを回して羊毛を紡いでいた。帰ってきた僕に気づいて立ち上がる。

「お帰りなさいませ、ハルト様。ふふ、レンは無事にプレゼントを渡せたみたいですね」
「フィーネは知ってたの?」
「はい。ハルト様にはいつも驚かされていますからね。たまには私たちが驚かせようと、レンと相談して黙っていました」

 そうだったのか、全然気がつかなかった。

「ですから私からも。マフラーを編んだので受け取ってくださいますか?」

 フィーネは毛糸の入った箱から白いマフラーを取り出して、僕の首に巻いてくれた。
 寒風で冷えた頬を手編みのマフラーに埋めると、彼女と同じ花の香りがする。

「お誕生日、おめでとうございます」

 これ以上優しくされると泣いちゃう。
 ここでは編み物をするにも、羊毛を紡いで毛糸を作るところから始めなきゃならない。糸一本を作るのもとても手間がかかるんだ。
 
「ありがとうフィーネ。すごく嬉しいよ」
「ハルト様に喜んでいただけて良かったです。驚かれましたか?」
「うん、すごく驚いた」
「ふふふ、やりました」

 目を細めて嬉しそうに笑うフィーネ。
 負けたみたいでちょっと悔しい。

「やられたよ。お返しをしたいから、フィーネの誕生日を教えて欲しいな」

 少し口を尖らせてそう言うと、フィーネは気まずそうに目を逸らした。

「ごめん、聞いちゃまずかったかな?」
「いえ、そういうわけではないんですが……。その、明日なんです」
「え、明日? 本当に?」
「はい。だからお返しとか、そんなことは気になさらないでください。私はハルト様に喜んでいただければそれで幸せですから」

 そんなことを言われても「じゃあ、いいか」なんて納得できないわけで。
 何かないかと誕生日プレゼントを考えた。
 でも、翌日までに気の利いた物を用意できるはずもなく。その日は子供たち四人のいつものお茶会で誕生日のお祝いをした。
 フィーネはイチゴのショートケーキをとても喜んでくれたけど、少し遅くなっても何か喜んでもらえるものをプレゼントしよう。
 そう考えて一つ挑戦してみることにした。
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