【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第二章 辺境の村~7歳~

74 計略とスパルタ

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「日本の国技は相撲、ではカナダの国技は?」

 あれはオリンピックイヤーだったかな。
 確か居酒屋で先輩に訊かれたんだ。

 村の子供たちの人気者、レダンの弱体化を思いついてから数日後のこと。
 薄く雪が積もる広場で、離れて立つ僕とレンは木と蔓で作ったスティックを振る。
 革の切れ端を巻いて作ったボールは、僕が振り下ろしたスティックヘッドから飛び出して、まっすぐレンのスティックヘッドに収まった。
 うん、いい感じ。
 扱いはもうだいぶ慣れた。

「レン、上手い上手い!」
「ハルト様、行くよー!」
「おー!」

 レンがスティックをブンッと振る。
 ボールはホップして飛んできた。

「ひっ、こわっ!」

 今の軽く時速百キロは超えてるでしょ?
 なんとかヘッドでキャッチするが、一生懸命作ったラクロススティックがもう壊れそう。
 ヘッドは金網を張った方がいいかも。

 そういえば、ラクロスは地上最速の格闘スポーツとか呼ばれてたっけ。ボールのスピードが時速百六十キロを超えることもあるとか。

「レーン、もう少し優しくー」
「はーい」

 そうして二人で遊んでいると、武術鍛練の試合目当てに子供たちが集まってきた。
 ふふふ、みんな見てる見てる。
 もう少しパスを続けてから声をかけよう。

「レン、ありがとう。はい、ボール」
「うん」

 僕は見ていた子供たちの方へ向き直る。

「おーい、誰かこれをやってみたい人ー。僕は剣術の鍛練があるから貸してあげるー」

 手を挙げて見せると、興味はあるが遠慮している様子で周りの友達と顔を見合わせている。ここはやはり人気者のレンに任せよう。

「それじゃあ、レン、あとはよろしく。ボールは優しく投げてあげて」
「うん、わかったよ」

 レンにスティックを渡して、僕はこちらに向かって歩いてくる兄上たちと合流した。

「ハルト、あれはなんだ?」
「あれはラクロスというスポーツです」
「すぽーつ?」
「遊びながらできる戦闘訓練です」
「あれが戦闘訓練?」
「はい。あれは手軽に石を投げることができる投擲武器なんです。弓矢との大きな違いは、訓練時間も費用もほとんど必要とせず、中距離攻撃ができるようになります」
「ほう……」

 レンたちの方に目をやれば、みんな順番に並んでスティックを使ったパスを始めている。
 レンは意外と面倒見がいいんだよな。
 美少年だし、まあ、美少年だし。

 ラクロスは二つあるカナダの国技の一つで、ネイティブアメリカンが起源らしい。詳しいことは忘れてしまったけど、部族間の儀式や戦闘訓練などで行われていたのが原型だとか。
 スポーツのラクロスも激しい接触プレーがあって、安全のためにプロテクターを着けて行われるほどだった。
 ここでは投擲が目的だけどね。
 というのも、シュガー村にはまともに弓矢を扱える人が五人しかいないんだ。
 まっすぐに飛ぶ矢を一本自作するのも一朝一夕にはいかないし、遠くへ飛んでいってしまう金属製の矢尻はタダではないしね。
 そんなわけで、ラクロスによる投擲練習は万が一の時にも役に立つと思う。

 興味深く見つめていた兄上も、カインさんたちが来るといつも通り鍛練を始めた。
 試合が進む中、聞こえてくるのはラクロスでボールをパスして楽しむ子供たちの声。試合を見ている村人たちもずっと気にしている。

 作戦が成功した僕は、心の中で笑っていた。
 ククク……これで僕とレダンの試合も注目されなくなる。応援がなければレダンの弱体化は必至。怖いくらいに計画通りだ……ククク。

 そして僕とレダンの試合。
 集中できない様子のレダンはいつもより攻めに精彩を欠き、守るのが楽だった。騎士の息子といってもまだ九歳か十歳の子供だからね。
 ククク……しょうがないさ~。 
 これで楽ができるよ~、と思っていたら。

「ハルト、レダン、そこまでだ」

 やや声音低く不機嫌に見える兄上から止めの声がかかり、兄上はカインさんと短く話し合ってミユカを呼んだ。三人がこっちを見てる。
 なんだろう、なんとなく不穏な雰囲気。

「では、ハルト」
「はい」
「ミユカとレダンとの試合だ。頑張れよ」
「はい?」

 大きく首を傾げる七歳の僕の前には、短い木剣をそれぞれ両手に持った兎耳のミユカと、彼女に叱咤激励されたレダンが木槍を構える。

「レダン、しっかりしなさい。余裕綽々のハルト様に一泡吹かせてやるわよ!」
「うん。わかってるよ姉さん」
「余裕なんてないよ、僕は必死なんだよ!」

 視界の端ではフィーネがにっこり笑ってる。
 いや、笑ってないで助けて。

「ふん、嘘ばっかり。さっきからニヤニヤしちゃって。覚悟しなさい、いくよレダン!」
「はい、姉さん! はあああっ!」
「二人ともちょっと待って!」

 盛大に勘違いしたまま問答無用で向かってくる二人。僕はミユカの攻撃を光盾で防ぎ、レダンの攻撃を木剣でしのぎながら声を上げる。

「兄上! カインさん!」

 しかし助けを求めた兄上とカインさんは、張り付けたような真剣な表情の下で、ニマニマと愉悦に頬を緩めている。そんな風に見えた。
 あ、ダメだこの人たち、と悟ったよ。

 それから間もなく、村では大人たちを巻き込んでラクロスブームになった。
 田舎の子供たちは逞しく、スティックやボールを自作して遊び始め、中には的を作って当てる新しいゲームを始める子たちも出てきたり。
 これまでは待ち遠しかった春が来るのが嫌だと言う子もちらほらと。
 僕は農作業が始まる春が待ち遠しい。
 だって鍛練の時間が減るからね。
 春よ、早く来て!
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