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第二章 辺境の村~7歳~
76 春の準備と挨拶回り
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果樹の苗木を運んで教会から牧場へ。
ちょうど庭先に、ご近所の奥様たちと立ち話を終えたマオさんがいた。
粗相のないようみんなで挨拶をする。
「それで今日はどうしたんだい?」
「魔の森で見つけた果樹の苗木が育ったので持ってきました。植えてもいい場所を教えてもらえれば、今から僕たちで植えていきます」
「へぇ~、そりゃあ、ありがたいねぇ。最近ハルト様も男前の顔つきになってきたって、ちょうどみんなと話してたとこなんだよ~」
「そ、ソウデスカ、恐縮デス……」
「うちのゴロもねぇ~、誰にでも優しいところはいいんだけど、もうちょっと強引なところがあってもいいと思うんだよねぇ~」
結婚適齢期の子を持つ親の口癖だなあ。
農村では近所の幼馴染みか、近隣の街や村に住む親戚や友人の紹介ぐらいしか出会いがないから。そのうち本人の意志とは関係なく、両親が手当たり次第に声をかけるようになるんだ。
「フィーネちゃん、うちのゴロとどうだい?」
「ふぇっ!?」
フィーネが聞いたことないの声を発した。
いくらなんでも十三歳は早すぎるよ。
この村の大人たちは思春期の子供をからかってよくこういうこと言うんだ。
そんな意地悪に気づかないマリアは、一人慌てた様子でマオさんに抱きつく。
「マオさん、フィーネはダメなのです!」
「あっははは! 冗談だよ、マリアンヌ様」
呵呵大笑したマオさんは、マリアをひょいと持ち上げて自分の肩に座らせる。見上げる僕らに「ついといで」と言って歩き出した。
優しいゴロさんには色々と強い感じのお嫁さんが来てくれるといいな、と思っていたところへ、横から子山羊を抱いたご本人が登場。
「ああ、ハルト様とレンとフィーネちゃん、こんにちは。何か手伝いましょうか?」
「いえ、ゴロさん。僕の方こそできることがあれば可能な限りお手伝いしますから」
「ボクもゴロさん応援します」
「わ、私はごめんなさい……」
「えっ? なにが?」
春が来るといいなーと植樹をして、新しい農作物の栽培について話をしておいた。
引き続きボスと一緒に、今度は川に沿って南へ向かう。皮革職人の工房を訪ねた。
親方のコバさんには、まずラクロスボール騒動について謝った。ボールを作るために革の切れ端が欲しいと村人たちが殺到したんだ。
「まあ、最初はびっくりしたけどな」
「お騒がせしてすみません」
「ごめんなさい」
僕が謝るとレンも謝る。
「ははは、そんな謝るこたぁないさ。おお、そうだ、びっくりしたって言えば炭ペンだよ。あれ使ってみたら調子がよくてよう。うちでも何本か欲しいんだが、今からサブのところへ行くならレンに頼んでもいいか?」
「うん、いいよ。クダヤさんに話しておくね」
「おう、悪いな」
炭ペンと言っても芯の部分のこと。それが職人さんの間では使い勝手がいいと評判で、みんな自分で工夫して木で挟んだりして使ってるみたい。黒い炭の塊よりはだいぶマシだからね。
どうせなら完成品を贈ろうかな。
工房の周りに果樹を植えて、今度はホルダー家へ向かう。道中でレンと話した。
「なあレン」
「なに? ハルト様」
「マリアに作った金属ケースの炭ペンさあ、順番に村のみんなにも贈ろうかと思うんだけど、インゴットがあれば作ってくれる?」
「うん、いいよ」
即答なんだ。
「たくさんだよ?」
「ハルト様がそうしたいんでしょ?」
「うん、まあ、そうだけど」
「じゃあ、いいよ」
「そっか、ありがとう」
「うん」
美少年は性格までカッコいいのう。
親友を頼もしく思いながらやってきたのは、村の南門近くにあるホルダー家。二階建ての家屋と宿屋の続きに平屋の酒場や馬屋がある。
ここがシュガー村の繁華街だ。
マリアとボスにちびっ子たちを、フィーネとレンに果樹の苗木を任せて、僕は一人で近くの馬屋の陰に身を隠した。ミユカとレダンに見つかると面倒だからね。僕が嫌いだからと言って、持ってきた果樹まで嫌いになられても困るし。
「もう、なにも隠れなくたっていいのに」
「わっ!? びっくりした!」
不意に背後から聞こえた女の声。
頭上の苗木を落とさないように振り向くと、むくれた顔のユカさんがいた。背後を取られたことに全然気づかなかったよ。
さすがは現役のハンター。
「ユカさん、驚かせないでください」
「だってこうでもしないとお話もできないでしょう? ハルト様ったら、うちに遊びにも来てくれないんだから」
「遊びにって……」
嫌われている僕がホルダー家でどう過ごすのか、まったく想像がつかない。
「ミユカとレダンなんて、毎日欠かさずハルト様のことを話してくれるのよ?」
「それってほとんど悪口では? ユカさん? わかりやすく目を逸らさないでください」
「で、でも関心がある証拠よ。なにかきっかけさえあれば仲良くなれると思うの」
仲良くか……僕も最近までそう思ってた。
でも兄上とカインさんの鍛練を受けていると、僕らは反目し合っている方が、ミユカとレダンの鍛練にはいい影響が出るのかなーとか思ったり。嫌われるのは本意ではないけど。
「僕はどうかなーと思います。えへへ」
「もう! 頑固者ばっかりなんだから!」
少し怒ったユカさんに強くハグされた。
毎日の子育てお疲れ様です。
実はユカさん、僕とマリアの乳母の一人なんだ。村では困っている家の子にお乳を与えてあげるのは普通のことで、乳母が複数いたりする。みんな家族みたいなものなんだよね。
とはいえ、この状況が恥ずかしくないわけではないので、そろそろ解放して欲しい。
「ハルト様?」
「ふぁい」
すごいタイミングでフィーネが来た。
「何をされているのですか?」
「ハグを、されているね……あはは」
仕方なく笑って誤魔化しておいた。
ちょうど庭先に、ご近所の奥様たちと立ち話を終えたマオさんがいた。
粗相のないようみんなで挨拶をする。
「それで今日はどうしたんだい?」
「魔の森で見つけた果樹の苗木が育ったので持ってきました。植えてもいい場所を教えてもらえれば、今から僕たちで植えていきます」
「へぇ~、そりゃあ、ありがたいねぇ。最近ハルト様も男前の顔つきになってきたって、ちょうどみんなと話してたとこなんだよ~」
「そ、ソウデスカ、恐縮デス……」
「うちのゴロもねぇ~、誰にでも優しいところはいいんだけど、もうちょっと強引なところがあってもいいと思うんだよねぇ~」
結婚適齢期の子を持つ親の口癖だなあ。
農村では近所の幼馴染みか、近隣の街や村に住む親戚や友人の紹介ぐらいしか出会いがないから。そのうち本人の意志とは関係なく、両親が手当たり次第に声をかけるようになるんだ。
「フィーネちゃん、うちのゴロとどうだい?」
「ふぇっ!?」
フィーネが聞いたことないの声を発した。
いくらなんでも十三歳は早すぎるよ。
この村の大人たちは思春期の子供をからかってよくこういうこと言うんだ。
そんな意地悪に気づかないマリアは、一人慌てた様子でマオさんに抱きつく。
「マオさん、フィーネはダメなのです!」
「あっははは! 冗談だよ、マリアンヌ様」
呵呵大笑したマオさんは、マリアをひょいと持ち上げて自分の肩に座らせる。見上げる僕らに「ついといで」と言って歩き出した。
優しいゴロさんには色々と強い感じのお嫁さんが来てくれるといいな、と思っていたところへ、横から子山羊を抱いたご本人が登場。
「ああ、ハルト様とレンとフィーネちゃん、こんにちは。何か手伝いましょうか?」
「いえ、ゴロさん。僕の方こそできることがあれば可能な限りお手伝いしますから」
「ボクもゴロさん応援します」
「わ、私はごめんなさい……」
「えっ? なにが?」
春が来るといいなーと植樹をして、新しい農作物の栽培について話をしておいた。
引き続きボスと一緒に、今度は川に沿って南へ向かう。皮革職人の工房を訪ねた。
親方のコバさんには、まずラクロスボール騒動について謝った。ボールを作るために革の切れ端が欲しいと村人たちが殺到したんだ。
「まあ、最初はびっくりしたけどな」
「お騒がせしてすみません」
「ごめんなさい」
僕が謝るとレンも謝る。
「ははは、そんな謝るこたぁないさ。おお、そうだ、びっくりしたって言えば炭ペンだよ。あれ使ってみたら調子がよくてよう。うちでも何本か欲しいんだが、今からサブのところへ行くならレンに頼んでもいいか?」
「うん、いいよ。クダヤさんに話しておくね」
「おう、悪いな」
炭ペンと言っても芯の部分のこと。それが職人さんの間では使い勝手がいいと評判で、みんな自分で工夫して木で挟んだりして使ってるみたい。黒い炭の塊よりはだいぶマシだからね。
どうせなら完成品を贈ろうかな。
工房の周りに果樹を植えて、今度はホルダー家へ向かう。道中でレンと話した。
「なあレン」
「なに? ハルト様」
「マリアに作った金属ケースの炭ペンさあ、順番に村のみんなにも贈ろうかと思うんだけど、インゴットがあれば作ってくれる?」
「うん、いいよ」
即答なんだ。
「たくさんだよ?」
「ハルト様がそうしたいんでしょ?」
「うん、まあ、そうだけど」
「じゃあ、いいよ」
「そっか、ありがとう」
「うん」
美少年は性格までカッコいいのう。
親友を頼もしく思いながらやってきたのは、村の南門近くにあるホルダー家。二階建ての家屋と宿屋の続きに平屋の酒場や馬屋がある。
ここがシュガー村の繁華街だ。
マリアとボスにちびっ子たちを、フィーネとレンに果樹の苗木を任せて、僕は一人で近くの馬屋の陰に身を隠した。ミユカとレダンに見つかると面倒だからね。僕が嫌いだからと言って、持ってきた果樹まで嫌いになられても困るし。
「もう、なにも隠れなくたっていいのに」
「わっ!? びっくりした!」
不意に背後から聞こえた女の声。
頭上の苗木を落とさないように振り向くと、むくれた顔のユカさんがいた。背後を取られたことに全然気づかなかったよ。
さすがは現役のハンター。
「ユカさん、驚かせないでください」
「だってこうでもしないとお話もできないでしょう? ハルト様ったら、うちに遊びにも来てくれないんだから」
「遊びにって……」
嫌われている僕がホルダー家でどう過ごすのか、まったく想像がつかない。
「ミユカとレダンなんて、毎日欠かさずハルト様のことを話してくれるのよ?」
「それってほとんど悪口では? ユカさん? わかりやすく目を逸らさないでください」
「で、でも関心がある証拠よ。なにかきっかけさえあれば仲良くなれると思うの」
仲良くか……僕も最近までそう思ってた。
でも兄上とカインさんの鍛練を受けていると、僕らは反目し合っている方が、ミユカとレダンの鍛練にはいい影響が出るのかなーとか思ったり。嫌われるのは本意ではないけど。
「僕はどうかなーと思います。えへへ」
「もう! 頑固者ばっかりなんだから!」
少し怒ったユカさんに強くハグされた。
毎日の子育てお疲れ様です。
実はユカさん、僕とマリアの乳母の一人なんだ。村では困っている家の子にお乳を与えてあげるのは普通のことで、乳母が複数いたりする。みんな家族みたいなものなんだよね。
とはいえ、この状況が恥ずかしくないわけではないので、そろそろ解放して欲しい。
「ハルト様?」
「ふぁい」
すごいタイミングでフィーネが来た。
「何をされているのですか?」
「ハグを、されているね……あはは」
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