【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第二章 辺境の村~7歳~

91 近衛騎士と情意投合

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 翌日。
 僕は屋敷の庭で木剣を手にしていた。
 目の前にはギルダスさんがいる。
 でっかいなー、二メートルはあると思う。
 向こうでは兄上とロドリさんが剣を交えている。ロドリさんたっての希望で、兄上と模擬戦をすることになって、なぜか僕はギルダスさんに稽古をつけてもらうことになったんだ。
 まーったく望んでいないのに。

 話の流れで「弟のハルトはすごいんだ」とかなんとか兄上がギルダスさんに言ったらしい。
 それで「そんなに言うなら、どんなもんか見てやろうじゃないか」という流れになったと。

 夕べ、客間の外でマリアと立ち聞きしてたけど、途中でクラウスさんに勘づかれちゃて、その辺は聞いてないんだよね。
 知っていたらすぐ牧場へ逃げたのに。
 ただ、兄上のこととセントリス王国を取り巻く情勢は少しだけ知ることができた。

 まず、王国と東にあるサフリア獣王国とは、あまり友好的な関係ではなかったようだ。
 そこで、例のジェシーラ王女殿下と獣王国の第三王子の政略結婚があり、先日予定通りに嫁がれたという。そのことについては、兄上にとっても王国にとっても良い話なんだけど。

 問題は、学院生時代に兄上と帝国のご令嬢に対して行った王女殿下の愚行、それがヘクサル公爵家による謀だったのではないかという。
 証拠はなく憶測でしかないが、ギルダスさんたちはかなりの確信を持っているらしい。
 
 王国貴族は西と東で仲が悪いんだ。
 フィールド辺境伯家は西側陣営の大貴族、ヘクサル公爵家は東側陣営のそれというわけ。

 しかも王女殿下の横恋慕と愚行は、ヘクサル公爵家による頭角を現してきたアベル兄様への嫌がらせ、という単純な話でもないらしい。
 というのも、王国西にあるクロストラ帝国からはキナ臭い話が聞こえてきていて、帝国内は主戦派と和平派で揉めているそうだ。
 その和平派の重鎮の一人、スペンサー外務卿のお嬢様が、王立学院で王女殿下が嫌がらせをした人物、つまり兄上の想い人ということ。

 帝国外務卿の愛娘、スペンサー嬢という平和の使者に王女殿下が嫌がらせをして、王国と帝国の平和外交に大ダメージを与えてしまった。
 帝国内における和平派への風当たりは強くなるだろうし、帝国領に近い王国貴族の西側陣営は有事に備えておかなければならない。

 この状況で最も利する人物は誰か?
 ギルダスさんはヘクサルの老害と呼んでた。
 興味本位で聞かなきゃ良かったよ。
 厄介事は知らなければ幸せなんだ。
 どのみち辺境で野菜作りに励む少年は、女神様に平和を祈るぐらいしかできないよ。

「おい、ハルト」
「あ、はい、なんですか? ギルダスさん」

 僕はギルダスさんを前にしてぼーっとしてた。ちなみに「『様』なんかいらないぞ」と仰るので『さん』付けで呼んでる。

「いや、なんですかじゃないだろう? せっかく近衛騎士の俺が稽古をつけてやろうっていうのに、全然嬉しそうじゃないじゃないか。王国貴族の令息なら、もっとこう目をキラッキラさせて喜ぶもんだろう?」

 そういうもの?
 近衛騎士様だカッコいいー、て感じかな。

「すみません。僕、武術は苦手なんです」
「アベルの言うことと全然違うじゃないか」
「兄上は家族思いの優しい人なので、僕への評価も甘々なんです」
「氷炎のアベルが? 優しい?」

 氷炎のアベル……。
 兄上の変な二つ名を知ってしまった。

「へぇー。ま、いいや。ほら、いくぞ」

 ギルダスさんは軽く大剣を振ってきた。
 え? 木剣使わないの?

「盾モード、光壁」

 僕は光の盾を作って受け止める。
 大剣の側面とはいえ、これ受け止められなかったらどうするつもりだったんだ? 兄上のご友人だからなあ、あまり深く考えてなさそう。

「はあーっ!? ちょっと待て! ハルトは光盾を使えるのか! お前いくつだ?」
「七歳です」
「ちっ、アベルの奴、そういうことかよ。俺は悪党と神聖騎士は嫌いだってのに」

 神聖騎士は教会所属の剣士や魔導士のこと。教会の荒事担当だと思うけど、職種だけで悪党と並べるのはさすがに酷いと思う。

「あのー、ギルダスさんはどうして神聖騎士がお嫌いなんですか?」
「だってあいつらの方が近衛騎士より人気があってモテるだろ? サングラスなんて洒落たもん着けやがって、いざ戦いになるとピッカピカ光魔法使いやがる。こっちは眩しいんだよ!」

 なんだろう、人気があるとかモテるとか、どうでもいい理由だった。でも兄上のご友人だし、ここは気を遣っておいた方がいいか。

「僕は白銀の鎧に赤いマント姿の近衛騎士様の方がカッコいいと思います」
「ほう、ハルトは見所があるな。俺の攻撃を防いだら、遠慮なく打ち込んでこい」

 うん、お世辞は人付き合いの潤滑油だね。
 言われた通り何度か防御して打ち込むと、ギルダスさんはすぐに手を止めた。

「ハルト、盾で攻撃を受ける時は、相手が武器を振り切るのを待たなくていいぞ。勢いに乗る前に間合いを詰めて、相手の手や腕を小突いて勢いを殺すんだ」

 一歩踏み込み相手の攻撃の出足を挫けと、手取り足取り教えてくれるギルダスさん。僕はあまりに意外な出来事に言葉を失くした。

「おい、そんなに驚いた顔してどうした?」
「兄上はこういう風に教えてくれたことがないから。僕、ギルダスさんに感動しました」
「あー、なんかわかる気するわ」
「ですよね?」
「あいつは天才肌だからな」
「そうなんです。無茶振りが過ぎるんです」
「苦労してんだな。ハルト、頑張れよ」
「ギルダスさぁん!」

 片膝をつき、慈愛の眼差しで微笑むギルダスさんの逞しい胸に飛び込む。僕は思いがけず兄上に対する共感者に巡り合えたんだ。

「おい、二人で何をしている?」

 兄上は怪訝な顔で僕らを睥睨へいげいした。

 翌朝。
 国王陛下との謁見には従者を伴うのが慣例らしく、兄上の旅にはカインさんが同行する。
 旅装に身を包んだ二人は、ギルダスさんとロドリさんと一緒に王都へ向けて旅立った。帰郷の予定は土の月、収穫祭の前になるそうだ。
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