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第二章 辺境の村~7歳~
88 マリアの誕生日
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光の月、三十日はマリアの誕生日。
兄として妹に何をプレゼントしたらいいのかわからず、フィーネとレンに聞いてみた。
「私は花の刺繍を施したスカーフをお贈りするつもりです」
「ボクは新しく作る二種類の炭ペンだよ」
フィーネはともかく、レンまでもう考えてあるとは。兄として負けられない。
魔法で簡単に出せるスイーツではダメだ。
他に喜んでもらえる物は何かないかと考えに考えて決めた。六歳の女の子が喜んでくれるか若干不安ではあるが、香りを贈ろうと。
村の生活においてアロマはとても大切で、みんなカモミールやラベンダーなどを摘んで、ドライフラワーやポプリにして楽しむ。
田舎にも色んな匂いがあるからね。
例えば、皮革製品の防臭剤としてハーブや燻香などのアロマは昔から利用されてきた。
魔物の皮から作られる革の胸当てや手袋やブーツなどの皮革製品は定期的な手入れが必要で、ミモザの木から得られるタンニンと魔物の獣脂から作られるクリームを革に塗る。
まあ、これがなかなか臭くて。
例えば、兄上のような美丈夫が片膝をついて、見目麗しいご令嬢の手の甲にキスしようとして臭かったら、それはもう台無しだろう。
だから高貴な人々にとってもアロマはとても大切であり、植物から抽出する精油、エッセンシャルオイルは重要なアイテムとして重宝されてきた。
前世、そんな精油の中でも三大香花であり、女王と呼ばれていたバラ。
かの有名なブルガリアのダマスクローズから抽出されるローズオイルは、一グラムを得るのに約三~五キログラムの花弁が必要だとか。
また抽出作業に丸一日かかり、本物はそこから六十日間寝かせるらしい。だからダマスクローズの精油はすごく高かった記憶がある。
ふふふ、まさに高貴なマリアに相応しい。
「ハルト様は本当に精油を作るおつもりなのですか? ここでできるのですか?」
「え? まあ、できると思うけど。フィーネはそんなに興味があるんだ」
フィーネが珍しく興奮してる。
薬士と錬金術士は、作業で少し似ているところがあるから興味があるのかな?
「だってすごいことなんですよ! 精油は名のある錬金術士が貴族や大商人の依頼を受けて作るものなんですから。大勢の人を使って畑で花を育てるところから始めるんです」
「それボクも知ってる」
テンション高めなフィーネに、レンが同意する。
「へー、領都でも精油を作ってたの?」
「うん。精油から香水ができるんだよ」
香水のための精油作りは、裕福な貴族や大商人たちがやる富と権力の象徴なんだな。
だとすれば、たとえ高い利益が見込めるとしても、ちゃんとリスクを考えずに香水や化粧品の商売をやるべきじゃないね。
フィーネとレンには口止めしとこう。
さて、レンも作業を見たいというので、三人で大釜のある皮革工房へやって来た。
抽出方法は水蒸気蒸留法。
大釜で湯を沸かしたら、その上に光壁を展開しバラの花を置いて水蒸気で蒸し上げる。
大釜にはサンタの帽子みたいな形の金属製の蓋をして、その先端から斜め下に伸ばした金属管はウォータースライダーのようにくるくると下へ巻く。これが冷却槽。
その冷却装置を外から水で冷やしてやると、金属管の口から精油のローズオイルと芳香蒸留水のローズウォーターが出てくる。
蓋と金属管はロンさんに作ってもらった。装置としてはシンプルな方だね。芳香蒸留水を得るだけなら家庭の鍋でもできるから。
セッティングを済ませたら始めよう。
「出でよ、ダマスクローズの花どっさり」
山のようなピンクの花が出現すると、工房はバラの甘く華やかな芳香に包まれる。驚いたフィーネの視線がバラの山と僕の顔を往復した。
バラの花もフィーネの表情も新鮮だ。
「このバラの花は食べられるんだよ」
食用花、エディブルフラワーという。
バラを食べたレンの反応は特になし。
ま、花だからね、そんな感じになるよ。
精油を保存するための濃い茶色の小瓶は、クラウスさんとマーサさんが持っていた空き瓶を譲り受け、ローズウォーターは浄化した空のワインボトルに詰める。
瓶の蓋は王冠を作り内側に薄いコルクを挟んで、密封瓶のように金具を付けて、簡単に開け閉めができる形にした。なお、力学的に王冠のひだは二十一個がベスト。これ前世の豆知識。
こうしてマリアの誕生日プレゼントに、バラの精油とローズウォーターを作った。
そして当日。
「マリア、お誕生日おめでとう!」
「ありがとうございます。ハルトお兄さま」
「僕からはアロマディフューザーをプレゼントするよ」
「アロマでぃふゅーざぁー?」
「うん。アロマオイルを入れた陶器の容器に、ハヤスギで作ったリードスティックを挿しておくと、部屋にバラのアロマが広がるんだ」
リードディフューザーだね。
アロマオイルは精油に無水エタノールが必要なので、魔法で出したウォッカスピリタスで代用して作り、サイドテーブルに置いてあげた。
「わあー、すてきなバラの香り~!」
「どうかな、気に入った?」
「はい、とっても!」
誕生日をみんなに祝福されて笑顔のマリア。それを見ることができて本当に良かった。
しかも、たくさんできたローズウォーターは、フィーネとマーサさんに進呈してとても喜ばれた。なんでも高価な化粧水らしい。
今度は村のバラ富豪になれるかも。
すぐに兄上の自重命令リストに入ったけど。
夕方、マリアと一緒に母上にご挨拶をして、墓石をバラの花でいっぱいにしてきた。
きっとジルオ様はびっくりするだろうね。
兄として妹に何をプレゼントしたらいいのかわからず、フィーネとレンに聞いてみた。
「私は花の刺繍を施したスカーフをお贈りするつもりです」
「ボクは新しく作る二種類の炭ペンだよ」
フィーネはともかく、レンまでもう考えてあるとは。兄として負けられない。
魔法で簡単に出せるスイーツではダメだ。
他に喜んでもらえる物は何かないかと考えに考えて決めた。六歳の女の子が喜んでくれるか若干不安ではあるが、香りを贈ろうと。
村の生活においてアロマはとても大切で、みんなカモミールやラベンダーなどを摘んで、ドライフラワーやポプリにして楽しむ。
田舎にも色んな匂いがあるからね。
例えば、皮革製品の防臭剤としてハーブや燻香などのアロマは昔から利用されてきた。
魔物の皮から作られる革の胸当てや手袋やブーツなどの皮革製品は定期的な手入れが必要で、ミモザの木から得られるタンニンと魔物の獣脂から作られるクリームを革に塗る。
まあ、これがなかなか臭くて。
例えば、兄上のような美丈夫が片膝をついて、見目麗しいご令嬢の手の甲にキスしようとして臭かったら、それはもう台無しだろう。
だから高貴な人々にとってもアロマはとても大切であり、植物から抽出する精油、エッセンシャルオイルは重要なアイテムとして重宝されてきた。
前世、そんな精油の中でも三大香花であり、女王と呼ばれていたバラ。
かの有名なブルガリアのダマスクローズから抽出されるローズオイルは、一グラムを得るのに約三~五キログラムの花弁が必要だとか。
また抽出作業に丸一日かかり、本物はそこから六十日間寝かせるらしい。だからダマスクローズの精油はすごく高かった記憶がある。
ふふふ、まさに高貴なマリアに相応しい。
「ハルト様は本当に精油を作るおつもりなのですか? ここでできるのですか?」
「え? まあ、できると思うけど。フィーネはそんなに興味があるんだ」
フィーネが珍しく興奮してる。
薬士と錬金術士は、作業で少し似ているところがあるから興味があるのかな?
「だってすごいことなんですよ! 精油は名のある錬金術士が貴族や大商人の依頼を受けて作るものなんですから。大勢の人を使って畑で花を育てるところから始めるんです」
「それボクも知ってる」
テンション高めなフィーネに、レンが同意する。
「へー、領都でも精油を作ってたの?」
「うん。精油から香水ができるんだよ」
香水のための精油作りは、裕福な貴族や大商人たちがやる富と権力の象徴なんだな。
だとすれば、たとえ高い利益が見込めるとしても、ちゃんとリスクを考えずに香水や化粧品の商売をやるべきじゃないね。
フィーネとレンには口止めしとこう。
さて、レンも作業を見たいというので、三人で大釜のある皮革工房へやって来た。
抽出方法は水蒸気蒸留法。
大釜で湯を沸かしたら、その上に光壁を展開しバラの花を置いて水蒸気で蒸し上げる。
大釜にはサンタの帽子みたいな形の金属製の蓋をして、その先端から斜め下に伸ばした金属管はウォータースライダーのようにくるくると下へ巻く。これが冷却槽。
その冷却装置を外から水で冷やしてやると、金属管の口から精油のローズオイルと芳香蒸留水のローズウォーターが出てくる。
蓋と金属管はロンさんに作ってもらった。装置としてはシンプルな方だね。芳香蒸留水を得るだけなら家庭の鍋でもできるから。
セッティングを済ませたら始めよう。
「出でよ、ダマスクローズの花どっさり」
山のようなピンクの花が出現すると、工房はバラの甘く華やかな芳香に包まれる。驚いたフィーネの視線がバラの山と僕の顔を往復した。
バラの花もフィーネの表情も新鮮だ。
「このバラの花は食べられるんだよ」
食用花、エディブルフラワーという。
バラを食べたレンの反応は特になし。
ま、花だからね、そんな感じになるよ。
精油を保存するための濃い茶色の小瓶は、クラウスさんとマーサさんが持っていた空き瓶を譲り受け、ローズウォーターは浄化した空のワインボトルに詰める。
瓶の蓋は王冠を作り内側に薄いコルクを挟んで、密封瓶のように金具を付けて、簡単に開け閉めができる形にした。なお、力学的に王冠のひだは二十一個がベスト。これ前世の豆知識。
こうしてマリアの誕生日プレゼントに、バラの精油とローズウォーターを作った。
そして当日。
「マリア、お誕生日おめでとう!」
「ありがとうございます。ハルトお兄さま」
「僕からはアロマディフューザーをプレゼントするよ」
「アロマでぃふゅーざぁー?」
「うん。アロマオイルを入れた陶器の容器に、ハヤスギで作ったリードスティックを挿しておくと、部屋にバラのアロマが広がるんだ」
リードディフューザーだね。
アロマオイルは精油に無水エタノールが必要なので、魔法で出したウォッカスピリタスで代用して作り、サイドテーブルに置いてあげた。
「わあー、すてきなバラの香り~!」
「どうかな、気に入った?」
「はい、とっても!」
誕生日をみんなに祝福されて笑顔のマリア。それを見ることができて本当に良かった。
しかも、たくさんできたローズウォーターは、フィーネとマーサさんに進呈してとても喜ばれた。なんでも高価な化粧水らしい。
今度は村のバラ富豪になれるかも。
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夕方、マリアと一緒に母上にご挨拶をして、墓石をバラの花でいっぱいにしてきた。
きっとジルオ様はびっくりするだろうね。
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