【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第二章 辺境の村~7歳~

97 シュガー男爵の帰還

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 土の月。

 もうすぐ収穫祭。
 白菜とオニオンの苗が順調に育ち、そろそろダイコンの種蒔きの準備でも始めようかという頃、アベル兄様とカインさんが帰ってきた。

 アベル・フィールドは、名をアベル・シュガー男爵に改め、シュガー村の正式な領主となったんだ。村は祝福ムードに包まれて、飲めや歌えの大騒ぎ。一足早い収穫祭のようだった。
 当の兄上はぐったりしてたけど。

 きっと王都でも、英雄の帰還に際して多くのご令嬢に狙われたのは想像に難くない。
 当然、シュガー村の正式な領主になることに辺境伯夫人のカルメラ様はお怒りだったらしい。兄上とクラウスさんの話を小耳に挟んだ。

 これは作ったサウナがさっそく役に立つぞと、兄上を誘おうとしたら逆に誘われた。

「ハルト、明日は北の山へ狩りに行くか」
「はい、お供します」

 兄上も気分転換したかったのだろう。
 翌朝、兄上と僕とフィーネの三人で狩りに出かけた。去年もこうして出かけたな。

「一年ってあっという間だね」
「ええ、そうですね」

 などと馬上でフィーネと話しながら山へ。
 フィーネが周囲を警戒してくれる中、僕は頭の上に光壁を展開して、キノコをはじめとする秋の味覚の採取する。今年も豊作だよ~。

 兄上は……なんというか、凄まじく。
 出てくるブラックボアをバッサバッサと、一刀のもとに斬り伏せていく。討伐数が二十匹を数えるくらいで「ブラックボアさん、もう逃げてー」て思ったもの。
 相当イライラが溜まっていたんだ。
 あと、去年は明らかに手を抜いてたね。

「ハルト、フィーネ、そろそろ帰るか……」
「「あ、はい……」」
 
 昼までに、一人で三十匹倒しちゃった。
 フィーネと二人でドン引きだよ。これはコバさんたち叫ぶだろうなあ。

「「「ぎゃあああーっ!」」」

 大量のブラックボアを持って村へ戻ると、秋の空にコバさんたちの叫び声が響いた。今年も徹夜の解体作業、お疲れ様です。
 お肉が届いたら、またベーコンとコンフィと枯節を作ろう。ブラックボアの枯節は使い勝手がよくて、出汁の味は絶品だからね。

「兄上、これからサウナに入りませんか?」
「サウナとはなんだ?」
「体験すればわかりますよ」

 僕は兄上を誘って二人でサウナへ。
 男同士、裸の付き合いだ。
 いやあ、対面に布一枚の絶景かな。

「兄上、蒸気で剣が錆びませんか?」
「問題ない」

 剣は手放せないらしい。
 さらに兄上は長身痩躯に見えて、シックスパックのセクシーマッスルボディを標準装備。僕なんか前世を含めてつるんとしたモチ腹なのに。僕だって男だから、男だからこそーー。

「うん? どうしたハルト?」
「セクシーマッスルが羨ましいです!」
「お前は何を言っている?」

 ロウリュをやりすぎたのか、兄上のセクシーボディにのぼせた後、二人でリクライニングチェアへ横になり、外気浴でリラックスする。

「ハルト、サウナとは良いものだな」
「はい。兄上のお役に立てて良かったです」
「ああ、ありがとう」

 アベル兄様はようやく穏やかに微笑んだ。
 お帰りなさい、兄上。

 翌日。
 僕とマリアは執務室に呼ばれた。
 執務机の上には、厚い法律書や書類が山と積まれている。王国法や男爵としての振る舞いなど、色々と覚えることがあるらしい。

「帰ってすぐ渡すつもりだったんだが、二人に旅の土産があるんだ。ただ、正直こういうものに疎くてな。すまないが、二人で話し合って気に入った方をもらって欲しい」

 渡されたのは緋石と碧石のペンダント。

「それぞれ火の女神イグニビスカ様と、水の女神ウンディーネ様の加護があるそうだ」

 魔宝石というらしい。

「マリアはどちらがいいかな?」
「えっと、イグニビスカ様は戦いの女神様なので、ハルトお兄さまに合っていると思います」

 うーん、それはどうだろう。

「じゃあ、美と慈愛を司るウンディーネ様はマリアにぴったりだね。僕が着けてあげる」
「ありがとうございます」

 僕は緋石、マリアは碧石のペンダントを身に着けた。魅力値がアップした気がする。

「兄上、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ああ」
「あのぅ、アベルお兄さま?」
「うん? どうしたマリア?」
「このペンダントは、女の人からのプレゼントですか?」

 ん? どういうこと?
 マリアの質問の意味がよくわからず、思わずクラウスさんと目が合った。二人でマリアから兄上へ視線を向ける。

「マリアは鋭いな。実は、王都近くの街道で賊に襲われている商人一家を助けてな。礼はいらないと断ったんだがどうしてもと言うので、お前たちへのプレゼントを選んでもらったんだ」

 当たり前のように、さらりと語る兄上。
 たぶん兄上の勇姿に心奪われた妙齢のお嬢様とかなんだろう。十中八九間違いない。
 兄上は歩く度にイベントが起きるのかな? 英雄の義務? イケメン神の加護ですか?

「マリアンヌお嬢様?」
「はい」
「お嬢様は、なぜ女性が選ばれたものであると、お分かりになられたのですか?」
「なんとなくです。ペンダントから激しい気持ちと悲しい気持ちの両方を感じたの」

 え、激しい気持ち? 激情?
 心なしか肩が重くなった気がするけど大丈夫かなあ。これ兄上への想いが変異して呪いのアイテムとかになってないよね。

「どうした、ハルト?」
「兄上は、助けられたご令嬢に対して、プレゼントする相手が誰なのか伝えましたか?」
「ん? いや、領地で帰りを待つ者がいるとは言ったと思うが……」

 なんかこう、イケメンにありがちな曖昧なやり取りが盛大な誤解を生むんだろうな。

「……ん? ハルトはなぜ商人一家に令嬢がいたのがわかったんだ?」
「それはまあ、ねぇ」

 マリアもクラウスさんもただ深く頷いた。
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