おもいでにかわるまで

名波美奈

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第二章

第百四話

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ん?過去形?と聖也は頭の中を整理した。

「聖也さん、宇野さんの事が好きだった事を隠していてすみませんでした。軽蔑しますか?それとも私の気持ちは、聖也さんにまだ間に合いますか・・・?」

水樹は眉をしかめて黙り込み、そしてその精一杯の告白に、聖也は胸が熱くなり水樹の頭を撫でた。それからもっと近寄り左手を水樹の後頭部に回すと、コツンとおでこをぶつけてから真剣に見つめた。

電話で話した事を覚えているだろうか。心が見えなくて不安な時は、肌で感じ合う。いつまでもそれが出来ないと、きっと自分達は破滅する。

水樹は逃げなかった。今日の水樹は変なのだ。誰が俺の水樹をおかしくしたんだ、と聖也は不必要な事を考える。

だけどもう止まらない聖也は目を閉じて水樹の唇に自分の唇を重ねた。

昇天する。何時間でもこのままでいたい。

「今度は大人のキス、するよ・・・?」

水樹は、え?とでも言いたげに見えたけれど、覚悟しているのか微かに頷いた。そして聖也は少し口を開きまたキスをした。今度のキスは、水樹の柔らかい唇を挟むように優しく刺激をするキスだった。

それから聖也は左手を水樹のセーターの下から忍ばせ、上半身に添えると少しだけ動かした。そこで水樹はもうたまらなくなって聖也の左手を掴み、制止した。

「すみません、やっぱり私にはまだっ・・・。」

それは聖也の想定内の反応で、そしてまた不必要な事を思う。

人間ってさ、自分の中に本当に二人の自分がいるんだね。馬鹿聞くなよそっとしとけよっていう自分と、裏切られているなら許すなよっ、ていう自分がいる。

「水樹・・・。勇利の事が、まだ好きなんだろ・・・?」

これが聖也だ。他の男を想う女を抱くなんて、そんな悪趣味な事は出来ない。

「好きじゃありません・・・。それはもうずっと前の事ですから・・・。」

水樹の顔から感情が消え、カラフルなはずの大好きな水樹の顔が白黒になる。そして聖也はその水樹の声で行き場のない悲しみの嘘に気付く。

好きな奴の事を胸張って好きだと言えないのは、一番残酷で哀れでかわいそうだと思った。

今水樹の頭の中を悩ませているのは勇利と聖也とどちらであり、仮にそれが勇利だとしても、聖也はそれを許す許さない、どちらの男なのだろうか。
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