ゴールドレイン

小夏 つきひ

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咲⑥

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翌日、翌々日と雨が降った。拓人は寄り道をあきらめて部屋で本を読んだ。時々あの草原で聞こえた音を思い出した。そして、あれは誰かが自分に対して鳴らしていたんじゃないだろうかと思った。
多重子が大きな荷物を持って出かけて行った。夜になっても帰らず、拓人はほっとした。
自分の白飯を茶碗によそっていると由雄が言った。
「これ食べろ」
「…」
食卓には魚の煮付けと惣菜が乗っている。拓人は由雄の向かい側に座り茶碗を置いた。
「いただきます」
週末は白飯だけのつもりでいただけに嬉しく感じた。


日曜、拓人は晴れ渡る空の下あの草原へ向かった。すると、辺り一面に桃色の花が咲いていた。
可憐なその花々を見て母親のめぐみを想った。もしも一緒にいたならばきっとこの景色を気に入るはずだ、と。そして無性に会いたくなった。気持ちを紛らわすように、持ってきていた手提げから本を取り出した。
2、3ページ読み進めるとピーっと音が鳴った。振り向くと咲が立っていた。
「ここ、気に入った?」
驚いて黙っていると咲は隣に座った。小さな枝を咥えて吹くと、あの音が鳴った。
「それ、この前も吹いてた?」
「うん!」
咲は笑った。
「これ、枝で作った笛なんだ」
小枝には切り込みなどがあり拓人はそれを珍しそうに見た。
「自分で作ったの?」
「ううん、父ちゃんが作ってくれたの」
「…そうなんだ」
咲は拓人の顔を見た。
「ねえ、ここのお花綺麗でしょ?私がこの花の種蒔いたんだよ」
「え、そうなの?」
「うん。ちゃんと咲いた、今年も」
「…」
「一緒に遊ぼう」
「…何して?」
「こっち来て!」
咲は立ち上がって歩きだした。拓人は本を手提げに入れて咲の後に続いた。
咲が連れていく場所は拓人がまだ行ったことのないところばかりだった。小川や草の茂み、様々なところに小さなカニや虫を見つけた。咲は草をちぎって音を鳴らすことを教えたり、その辺に咲いてるものとは違う花を探したりした。最初は無口でただ咲についていくだけの拓人だったが次第に笑みを浮かべて虫を捕まえるようになった。
「田舎はお店とかほとんどないけど、結構楽しいんだ」
咲は三つ葉を編みながら言った。
「原君は岡山から来たんだよね?」
「うん。早川はずっとここ?」
「私は東京から来たの。なんでそれ聞いたの?」
「みんなと話し方が違うから」
「そっか」
「いつこっちに来たの?」
「2年生の時。だから私も原君と同じ転校生」
「そうなんだ」
咲はポケットから枝笛を出して吹いた。空には夕日が広がり、辺り一面を橙色で包んでいる。拓人はこの時間を尊く感じた。
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