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咲
咲⑲
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「たっくん!」
拓人が部屋に入ってくると曽根は感極まり手で口元を覆った、そしてすぐ腕の三角巾に気が付いた。
「この子、今朝学校行く途中で転んだみたいで肘の骨に罅が入ってるんです」
多重子が淑やかに言った。
「あら、それは大変でしたね」
「拓人、曽根さんあんたに会いに遠くからわざわざ来てくれたんよ」
「…ありがとうございます」
「それじゃ曽根さん、ごゆっくりしていってください」
「すみません、夕方の忙しい時にお邪魔して」
「いえいえ」
多重子が出て行き、拓人はテーブルを挟んで曽根の正面に座った。
「たっくん、久しぶりね」
「…はい」
「肘、痛いだろうね。大変だったねえ」
「大丈夫です」
「どう?こっちの生活には慣れた?」
「はい」
曽根は距離を感じた。以前は無邪気に話していた拓人が萎縮している姿を見ると胸が痛んだ。
「おじさんは元気ですか?」
「うん、おじさんも元気よ。今日は一緒に来られなかったけど、たっくんのこと心配してた」
拓人は日が差し込む障子を見ると小さな声で訊いた。
「お父さん、今どうしてるの?」
「……たっくんのお父さんね、会いに行ってみたんだけど、面会させてもらえなかったの」
「どうして?」
「お父さんはね、もうちょっとひとりにしてあげないといけないみたい」
拓人はその意味を理解した。
「じゃあ、僕達の家はもう誰か住んでる?」
「知ってたんだね。まだ誰も住んでないよ」
「そうなんだ」
曽根は目を伏せる拓人の小さな姿を見つめると覚悟を決めて切り出した。
「たっくん、おばさん謝らないといけないことがあるの」
拓人が顔を上げた。
「たっくんのおばあちゃんのこと、おばさん1年前から知ってたの」
「どういう意味?」
「お父さんには前から連絡がとれる親戚はいないって聞かされてたんだけど、突然おばあちゃんがうちに来たの」
「おばさんの家に?」
「そう。おばあちゃんね、たっくんのお父さんと喧嘩してたんだって。それで連絡がとれなくなっちゃって、心配で様子見に来たけど声かける勇気がないからって言って、隣に住んでるおばさんのところに来たの」
拓人は動揺した。
「これから時々様子を教えてほしいっておばさんの家に電話をかけてくるようになって、おばさんも力になりたいって思ってたから教えてあげてた」
曽根は次の言葉を言おうとするも声が震えてしまうのかまた手で口元を覆った。
「もっと早くに会わせてあげられてたら、あなたのお父さんも壊れなくて済んだのかもしれない。私が入院なんてしてなければ……」
静かな嗚咽が部屋に響いた。
「おばさんのせいじゃないよ、泣かないで」
曽根は目を閉じ首をゆっくりと横に振った。拓人が障子の方に目をやるとそこにはいつの間にか影があった。
拓人が部屋に入ってくると曽根は感極まり手で口元を覆った、そしてすぐ腕の三角巾に気が付いた。
「この子、今朝学校行く途中で転んだみたいで肘の骨に罅が入ってるんです」
多重子が淑やかに言った。
「あら、それは大変でしたね」
「拓人、曽根さんあんたに会いに遠くからわざわざ来てくれたんよ」
「…ありがとうございます」
「それじゃ曽根さん、ごゆっくりしていってください」
「すみません、夕方の忙しい時にお邪魔して」
「いえいえ」
多重子が出て行き、拓人はテーブルを挟んで曽根の正面に座った。
「たっくん、久しぶりね」
「…はい」
「肘、痛いだろうね。大変だったねえ」
「大丈夫です」
「どう?こっちの生活には慣れた?」
「はい」
曽根は距離を感じた。以前は無邪気に話していた拓人が萎縮している姿を見ると胸が痛んだ。
「おじさんは元気ですか?」
「うん、おじさんも元気よ。今日は一緒に来られなかったけど、たっくんのこと心配してた」
拓人は日が差し込む障子を見ると小さな声で訊いた。
「お父さん、今どうしてるの?」
「……たっくんのお父さんね、会いに行ってみたんだけど、面会させてもらえなかったの」
「どうして?」
「お父さんはね、もうちょっとひとりにしてあげないといけないみたい」
拓人はその意味を理解した。
「じゃあ、僕達の家はもう誰か住んでる?」
「知ってたんだね。まだ誰も住んでないよ」
「そうなんだ」
曽根は目を伏せる拓人の小さな姿を見つめると覚悟を決めて切り出した。
「たっくん、おばさん謝らないといけないことがあるの」
拓人が顔を上げた。
「たっくんのおばあちゃんのこと、おばさん1年前から知ってたの」
「どういう意味?」
「お父さんには前から連絡がとれる親戚はいないって聞かされてたんだけど、突然おばあちゃんがうちに来たの」
「おばさんの家に?」
「そう。おばあちゃんね、たっくんのお父さんと喧嘩してたんだって。それで連絡がとれなくなっちゃって、心配で様子見に来たけど声かける勇気がないからって言って、隣に住んでるおばさんのところに来たの」
拓人は動揺した。
「これから時々様子を教えてほしいっておばさんの家に電話をかけてくるようになって、おばさんも力になりたいって思ってたから教えてあげてた」
曽根は次の言葉を言おうとするも声が震えてしまうのかまた手で口元を覆った。
「もっと早くに会わせてあげられてたら、あなたのお父さんも壊れなくて済んだのかもしれない。私が入院なんてしてなければ……」
静かな嗚咽が部屋に響いた。
「おばさんのせいじゃないよ、泣かないで」
曽根は目を閉じ首をゆっくりと横に振った。拓人が障子の方に目をやるとそこにはいつの間にか影があった。
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