56 / 79
東京
東京⑭
しおりを挟む
「機材の使い方とかは勉強してるんですけど、実践はできてません」
「……」
「仕事としてさせてもらってるのは料理の撮影とかで」
「あーもういい」
北見は長い溜息をついた。
「来週火曜」
次の言葉を待ったが北見は冷ややかな表情のまま拓人の顔を見ている。
「あの、それは何の日程ですか?」
「新入りは朝7時出社。スケジュールとかはさっき一緒に入ってきた木下が教える」
「…すみません、まだ今の職場に退職するって言ってないんです」
「だから?」
「ちょっと、来週から入るのは難しいです…」
北見は鋭い眼光で瑠香を見た。
「瑠香、こいつやる気あんのか?」
「北見さんお願いっ!あたしがいきなり話したから都合つかなくって」
北見はわざとらしく大きな溜め息をついた。
「いつから入るつもりだ?」
「最短でも8月末に辞めるので、9月からお世話になれたらと思ってます」
「試用期間」
重低音ある声が響いた。北見はその先を続けた。
「やる気あんなら採用するまでの間、休みの日はうちに来い。アシスタントで使えるか見てやる」
拓人は一瞬ひるんだ。
「シフト制なので、曜日がバラバラなんですけど大丈夫でしょうか」
「ああ。誰かしら撮影してるからお前がスケジュールに合わせて現場にくればいいだけだ」
「…はい」
「なんだその返事は?やりたくねぇなら言えよ。簡単に入れると思うなよ」
瑠香は咄嗟にフォローした。
「ちょっと北見さん怖いよ~。大丈夫、この子絶対頑張れるから」
「頑張ればできるとかじゃねんだよ」
「わかってるって~。ね?」
「はい」
覇気のない返事が気に入らない様子の北見だったが、やがて見下すように鼻で笑った。
「とりあえず来週からだ。木下に連絡させるから今日は帰れ」
「わかりました。面接していただいてありがとうございました」
拓人と瑠香は立ち上がりドアに向かった。出る前に一礼しようと拓人が振り返ると北見は言った。
「試用期間は無給な」
どんな表情をしているか口元を見るだけでわかった。
「わかりました。失礼します」
そっとドアを閉めた。妙な緊張感が余韻を残している。瑠香は軽やかな足取りで早速事務所の出口へと向かって行く。周りを見渡すとさっきまでいた社員らは何人かいなくなっていた。こちらを見る者はおらず、ただパソコンのマウスをカチカチと鳴らす音が聞こえている。
「失礼します」
出口に立った拓人の声が響いた。
「……」
「仕事としてさせてもらってるのは料理の撮影とかで」
「あーもういい」
北見は長い溜息をついた。
「来週火曜」
次の言葉を待ったが北見は冷ややかな表情のまま拓人の顔を見ている。
「あの、それは何の日程ですか?」
「新入りは朝7時出社。スケジュールとかはさっき一緒に入ってきた木下が教える」
「…すみません、まだ今の職場に退職するって言ってないんです」
「だから?」
「ちょっと、来週から入るのは難しいです…」
北見は鋭い眼光で瑠香を見た。
「瑠香、こいつやる気あんのか?」
「北見さんお願いっ!あたしがいきなり話したから都合つかなくって」
北見はわざとらしく大きな溜め息をついた。
「いつから入るつもりだ?」
「最短でも8月末に辞めるので、9月からお世話になれたらと思ってます」
「試用期間」
重低音ある声が響いた。北見はその先を続けた。
「やる気あんなら採用するまでの間、休みの日はうちに来い。アシスタントで使えるか見てやる」
拓人は一瞬ひるんだ。
「シフト制なので、曜日がバラバラなんですけど大丈夫でしょうか」
「ああ。誰かしら撮影してるからお前がスケジュールに合わせて現場にくればいいだけだ」
「…はい」
「なんだその返事は?やりたくねぇなら言えよ。簡単に入れると思うなよ」
瑠香は咄嗟にフォローした。
「ちょっと北見さん怖いよ~。大丈夫、この子絶対頑張れるから」
「頑張ればできるとかじゃねんだよ」
「わかってるって~。ね?」
「はい」
覇気のない返事が気に入らない様子の北見だったが、やがて見下すように鼻で笑った。
「とりあえず来週からだ。木下に連絡させるから今日は帰れ」
「わかりました。面接していただいてありがとうございました」
拓人と瑠香は立ち上がりドアに向かった。出る前に一礼しようと拓人が振り返ると北見は言った。
「試用期間は無給な」
どんな表情をしているか口元を見るだけでわかった。
「わかりました。失礼します」
そっとドアを閉めた。妙な緊張感が余韻を残している。瑠香は軽やかな足取りで早速事務所の出口へと向かって行く。周りを見渡すとさっきまでいた社員らは何人かいなくなっていた。こちらを見る者はおらず、ただパソコンのマウスをカチカチと鳴らす音が聞こえている。
「失礼します」
出口に立った拓人の声が響いた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる