トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ

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【3】明かされた真実

築きあげたもの・気づけなかったもの・傷つけたもの

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 窓から入り込む夜風が心地よい。
 久しぶりにふかふかの布団に身を包んだが、どうも眠れなかった。次々と謎が浮かび上がり、明かされていく真実に体は興奮を覚えていた。
「みんな寝ちゃったよね……」
 この冷めない興奮を共感してくれる仲間はいないだろうか。
 ミティアは体を起こし、部屋のベッドを確認する。キッドもローズも寝息を立てていた。疲れて熟睡しているようだ。二人とも規則正しく呼吸が上下している。
 ミティアは部屋を出て廊下へ出た。明かりはなく、屋敷の窓から差し込む月明りで場所を把握するのがやっとだった。
 誰も歩いていない、誰も起きていない。夜の静けさが物悲しい。
 大きな窓を見つけ、エントランスだと把握した。ミティアは軽装のまま外へ出た。

 澄んだ夜空に広がる星々、屋敷の前に広がる湖には月に光が反射していた。特別な理由はないが、水辺を散策して気持ちを落ち着かせる。木々のざわめきが心地よかったからだ。昼間とはまた違う森の姿にミティアは癒されていた。
 しばらく散策をしていると、木陰に黒い影を見つけ、足を止めた。聞き覚えのある男の声がした。
「体力を消費せず、戻って休む方が賢明だと思うが……」
 ミティアは自分の腰を確認するが、丸腰だ。武器も道具も持っていない。
 声の男は銀の長髪に黒いマントのクディフだ。会ってはいけない人に出会ってしまったとミティアは後ろ足になり、身を引いた。
 一度は言われるがまま、去ろうと思った。だが、ミティアの中でずっと気になっていたことがあり、恐怖を押し殺しながら質問をした。
「あ、あなたは、わたしの敵……なの?」
 声は震え、もしかしたら何を言っているのか聞こえていない可能性もある。だが、ミティアは逃げてばかりではなく、自身も立ち向かおうと意識を持った。
 クディフは呆れるように息をつき、首を横に振った。
「俺は剣神を敵だと断定した。貴女は違う。これでは答えにならないか?」
 その言葉でミティアの中にあった恐怖が幾分か和らいだ。逃げずに情報を聞き出そうとさらに試みる。
「あなたは、わたしの何を知っているの……?」
 クディフの行動が奇妙であることはミティアもわかっている。なぜ彼は自分を殺さないのか。ひと思いにさらうこともできたはずなのに、その様子はない。
「本当はわかっているのではないか?」
「えっ……?」
「貴女は縛られていたものから解放されたかったのだろう?」
 ミティアは眉をひそめた。背筋に悪寒が走り、身を縮める。
 確信した。クディフは敵ではない。だが、自分の素性を知っている。ミティアにはそれが怖かった。
 クディフは表情を緩めて言う。
「心配しなくても仲間に話すつもりはない。貴女の懸念は仲間にそのことが知られることだろう?」
「どうしてそれを……」
「俺は『あの男』とは違う。貴女を陥れるつもりはない」
 ミティアは目を丸くし、緊張から生唾を飲み込んだ。声を震わせて質問をする。
「まさか、あなたが兄さんを殺したの?」
 木々がざわめく。緊張と興奮を抑えるように冷たい夜風が吹き抜けた。
 クディフの黒いマントが風になびく。ミティアも風に流される髪を気にしながら答えを待った。
 答えてくれるだろうか。ミティアは真っすぐな視線を向ける。
 クディフは左の肩を押さえた。怪我が痛むのだろうか。険しい表情で視線を伏せ、答えた。
「あの男は生きている……」
 ミティアは声を発せず、震え上がった。聞き間違いかと思ったくらいだ。できれば聞き間違いであってもらいたい。全身から血の気が引いた。鳥肌は立ち、寒気を感じる。喉の奥から何かがこみ上げてきそうだ。
 ミティアが顔色を悪くした様子を見て、クディフは身を引いた。
「ま、待って!!」
 クディフは去るつもりだ。そう感じたミティアはやっと声を発した。だが、体は悲鳴を上げてしまい、膝から崩れて座り込んでしまった。信じられない恐怖が体を蝕む。
「『今』を壊されたくなければ、自身でも手を打たねばならない。また俺が助けてやれるとは限らないからな」
「たす、ける……あなたが?」
 クディフの言葉を耳にしたミティアは、ゆっくりと顔を上げる。自身の震えが止まったのを不思議に思っていた。
 さらに確信が持てた。クディフは自分や仲間が思っているような悪い人ではない。だが、確信とともに疑問が浮かんだ。なぜ知っていて、自分で自分を知るという選択肢を与えてくれたのだろうか。ミティアはとある可能性を口にした。
「あなたの目的は禁忌の魔法なの?」
「否定はしない。だが、どちらかというと悪用されるのではないかと懸念をしている」
「悪用……?」
 ミティアの疑問に対し、クディフは口角を上げた。嘲笑なのだろうか、ミティアは顔をしかめる。
 何を考えているのかがわからない。わざわざ自分の前にあらわれて、助言のつもりなのだろうか。
 ミティアは立ち上がって身なりを整えた。彼女を見て、クディフが目を細める。
「いい目つきになったな。あの男に預けたのは間違いではなかった……」
 クディフは別れ際の言葉を残す。マントを広げ、夜闇のカラスが飛び立つようにして去った。彼が残す言葉は意味深なものばかりだ。その言葉には自分が背負う運命のヒントが隠されている。ミティアはできるだけ悪い解釈をしないように心がけた。
 ひんやりとした夜風で冷静を取り戻す。ミティアは屋敷へと足を戻した。
 屋敷に戻って玄関の扉を閉じ、寄りかかる。暖かい空気を吸って、ミティアは現状を見据えた。

 今まで点だった情報が、少しずつ線になったと実感した。
 自分の目で自分を知る目的が佳境に入る。今は目的があるから皆とともに行動ができている。目的を達成してしまったら……自分はどういった印象抱かれるだろう。このままの関係は続くのだろうか。ミティアは考えながら不安に思っていた。
 仲間と過ごす『今』がいつか壊れてしまいそうで恐れていた。気がかりだったのは、死んだと思っていた兄が生きている話だ。もし本当なら、クディフが言うように自身でも手を打たなくてはならない。いつまでも怯えているわけにはいかない。せっかく『彼』に戦う術を教えてもらい、自分の足で立ち上がる勇気をもらったのだから。
 だが、本当に『彼』に頼っていいのだろうか。
 ミティアはもどかしくも切ない思いを抱いていた。自分の中で『彼』の存在は大きくなっている。ただの恩人ではない。ただの仲間ではない。友だちという器にはとても収まらない存在だ。この思いに偽りはない。思いはいつしか淡い想いへと変わっていた。
 心が苦しい。胸の奥底が軋むような痛みを覚えている。この気持ちを打ち明けるにはまだ『彼』を知らなさすぎる。そして自分も、いつか打ち明けなくてはならない『秘密』がある。いつまで隠し通せるだろうか、聞いた『彼』はどんな反応をするだろうかと怖かった。

 いつの間にかミティアの興奮はどこかへ消え去り、体は休息を求めた。考えることが多く、抱え込んでしまう自分を静めてくれる。
 ミティアは暖かい布団に包まり、瞼を閉じた。
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