トレジャーキッズ ~救いしもの~

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ

文字の大きさ
20 / 50
【3‐3】救済

シルビナの言葉

しおりを挟む
「そろそろ歩くのがつらいわ」
「もともとスマートだったせいか、これでちょいポチャくらいだな。男の子かな、女の子かな?」
「どっちでもいいじゃない。それより卒業論文は終わったの?」
「おっといけねぇ、楽しみで仕方ないからとっととやっちまわないとな。って何をしようとしているんだ? ゆっくりしてろ」
「体を動かさないと、この子に悪いじゃない」
「お前、この頃、顔色が悪いけどどうした?」
「血圧が高いみたいなのよ。もともと病弱だったから、本来は低血圧だったはずなのよね。この子ができてからかしら」
「……すまない」
「あら、好いてできた子じゃないですか。子どもならたくさんほしいわ。街に溢れて、子どもだけで国を作れちゃうくらいに」
「そいつは頑張らないと」
「卒業したら何をしたいの? お友だちとお揃いで学者さん?」
「そいつも悪くねぇが、コレかな?」
「まぁ、何ですかケーシスったら。聴診器? お医者さん? 魔法とは全然無縁な方向に振り切れちゃったの?」
「お前、病弱ですぐに風邪をひくし、体を粗末にするだろ? だからだよ」
「あらぁ、それは、愛ですか?」
「そうじゃなかったら何だって言うんだ?」
「まぁ、どうしましょう。こんなに愛されて、幸せですよ」
「先代の養子、こんなどこの馬の骨かもわからない俺を好きになってくれたんだ。生きてる価値も見出せねぇし、とっくに死んでたのかもしれねぇ奴をさ」
「……ケーシス?」
「……」
「この世に生きてちゃいけない命なんてないわ。あなたも、私も、この子だってそう」
「俺はとんでもない女を好きになったんだな。ありがとう、シルビナ」
「学校でナンパして来たのはあなたではありませんか。乗ったのはいいですが、軽い女に見られるのもどうかと。価値ある人になりたくて、ね?」
「シルビナは軽い女なんかじゃないさ。俺の見る目があったってことだな?」
「まぁ、あなたって人は」
「だから動くなって、あー、カネはあるんだから召使いでも雇うか」
「あなたがしてはくださらないの?」
「……まいったなぁ」


「フィリップスにでも別荘を買うか? 沙蘭はだだっ広くて退屈だろう?」
「この静かなところが好きなのですよ。ほら、小川に立派な鯉が」
「ん? 橋の下? あそこに人が? 何をしているんだ」
「あれは、魚の卸をしている若竹さん?」
「ロープなんて持って、何をしていやがるんだ!?」
「あぁっ、ちょっと、ケーシス!!」
「シルビナはここにいろっ!!」

「くぉら、馬鹿なことはよさないかっ!! ってぇ、思ったより高かった」
「け、ケーシスさん……」
「娘に何てことをしようってんだっ!! ってやべぇ、腰打った……」
「我々のことは放っておいてください」
「見ちまったモンは放っておけねぇ。理由を話せ、役人を呼ぶぞ」

「待って、ケーシス!! 若竹さんもっ!!」
「シルビナは動くなって!」
「若竹さん、奥様、先日亡くなられたのですよね。だからって、娘さんと心中など」
「し、心中!? おい、何も死ぬこったぁないだろ!!」
「も、もう生活できないのです。妻だけならまだしも、壱子だって」
「何て目ぇしていやがる……」
「助かる助かると信じて大金を、でしたよね」
「結局、金を持って逃げてしまいました。この子だって満足に学校行かせてあげられず、稼げど、稼げど、借金は……」
「ねぇ、ケーシス……」
「あぁ、そうだな? 別荘なんかよりずっと高い買い物だ」
「あ、あのぉ、ケーシスさん?」
「その女、俺が買う」
「ケーシス、雇うって言いなさいっ!!」
「どっちでも一緒だろ。いくらあれば転べる? こんなモンか?」
「こ、こんなに!! いけませんっ!!」
「いいのですよ、若竹さん。そうだ、若竹さんは奥様と料亭もなさっていましたよね。その味、沙蘭の方々に広めてください。屋台なんてすぐにできますでしょう?」
「し、シルビナ様……」
「生きてさえいればいくらでも立ち直れます。死ぬなんてもったいない」
「必ず、必ずお返しします……」

「おい、黙ってないで挨拶ぐらいできないのか?」
「…………」
「生きることを諦めやがって、気に食わねぇ目をしていやがる」
「……」
「俺はケーシスだ。名前くらい名乗れねぇのか、あぁっ?」
「どうせ、あなたもわたくしを騙そうと言うのでしょう!?」

 バンッ!!

「はぁっ?! 何だ、お前。格闘技ができるのか?」
「壱子っ!! いきなり殴り掛かるなんて何と失礼な!!」
「……」
「ってぇな。だが、腰の入ったいいパンチだ。いいか、お前、俺の家に仕えろ」
「……!!」
「死んだ目をしながら俺を殴ったこと、一生後悔させてやる」
「なっ、誰があなたになど……」
「俺が嫌でもいいから、シルビナに楽させてやってくれ。ってことで、そのみすぼらしい着物も何とかしてやるからついて来い」
「くっ、あなた、人さらいみたいですよ」
「うるせぇな、ったく」
「ケーシス様まで!!」
「ま、卒業したらもっとひいきにして面倒見てやるから、うまい寿司でも握ってくれ」


「さて、お前はこれからシルビナの面倒を見てやってほしい。これからフィラノスに行くからこれでも着ろ。あっちは都会だ」
「わ、わたくしは……」
「俺は卒論もあってシルビナに付きっ切りにはなれない」
「わ、わたくしと大きく離れているわけではないのに、なぜそんな大金を……」
「別に俺の金じゃねぇ。だけど困ってる人に使う金ならいいだろ」
「あの、奥様に何をすればよいのですか」
「もうすぐ赤ん坊が生まれる」
「えっ、まだ、あなた、若いのでは」
「そうだ。若いし、これから色んなことをやりたい」
「あなたは何をしようと言うのですか」
「医者になるんだよ」
「藪医者にですか」
「そう言えばお前の親、藪医者どころか詐欺師に当たったんだっけか」
「何も知らないくせにっ!! 金持ちに何がわかる!!」
「わかんねぇが俺は病弱な嫁に苦労はさせたくねぇ。信じられるのは俺自身だ」
「……」
「その擦り切れた着物を脱げ。着替えねぇとそんなので都会を歩かせられない。俺を憎むのは勝手だが、下を向いていると不思議と幸せは逃げていくし、なぜか遠退く」
「わたくしに生きる意味など……」
「この世に生きてちゃいけねぇ命なんてない」
「!?」
「受け売りだから気にすんな」
「……わたくしは、壱子と申します」
「なかなかいい根性してるじゃねぇか。まっ、頑張って俺に金返せよ」
「まだ、こんな世の中にもお優しい方がいるのですね」
「俺ぁてめぇの白馬の王子様じゃねぇ。妄想するのはかまわねぇけどな」
「妄想?」
「ま、頑張れや。よろしくな?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...