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混血の子
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ルディは頭を悩ましていた。
夢の話を聞く限り、エイリアに何か隠されているのは明白だった。なので改めて、エイリアの両親をジールに調べさせることにした。
父親に変わった能力など無く、一般的なヴァンパイアと同じだったが、母親は手がかりどころか存在さえつかめなかった。
誰一人、目撃者がいなかったのだ。
「それは、本当なのか?」
「はい、ライディア家にいる最古の執事長も見たことがないと…私の推測ですが、前当主様が人間だったエイリア君のお母様に配慮し、存在を隠していたのではないかと」
珍しい金髪の人間がいるとわかれば、暇を持て余した貴族の格好の餌食になる。
それを踏まえて、前当主が隠したとしても不思議ではない。
「知り得た情報はエイリアから聞いた母親が、金髪で白ユリが好きだったということだけか…」
「そうですね」
「謎が残ったままか…まぁ、エイリアの匂いが俺達以外、効かないということだけでも分かって良かったけどな」
午後にも同じことをした結果、エイリアから漂う香りは他のヴァンパイアに効かないことが判明した。
ついでに飲んでもらった抑制剤が効いていないことも確認できた。つまり、匂いの原因はエイリアの能力ではなかった。
「はぁ…不満だ……」
いつも通りならエイリアの隣に座り、エイリアのそばでたわいもない話をしている。
頭を抱えたルディが、思わず本音を漏らしてしまう。
「…エイリアに触れたい」
「ダメですよ。原因が分かるか、匂いが消えるまで一定の距離でいてください」
「お待たせー」
ガチャリと部屋のドアが開き、エイリアが二人の元へと歩み寄った。手首には真新しい包帯が巻き付いている。
「…手首の具合はどうだ?」
「ルディが取り寄せてくれた塗り薬のおかげで、痛みは全くなくなったよ。あれ、高いんでしょ?医務室の先生、薬を塗る時に手が震えてたよ」
ニコッと笑うエイリアにルディも笑みを返した。
本当は謝っても謝り足りないルディだったが、会う度謝っていたらエイリアから謝ることを禁止されてしまった。
「…そうか、困った事があったらすぐに言ってくれ」
「うん」
「エイリア君、紅茶を淹れますから座ってください」
ジールに促され、エイリアはソファーへと腰を掛けた。テーブルには、いろとりどりなお菓子が置かれている。
(なんか、おかしい…)
お菓子を口に含み、エイリアは二人を見つめた。
(態度は変わらないけど、二人から距離を感じる。朝の事があってから、抑制剤を飲まされたり、知らない子が挨拶に来たり…僕に何か隠してる?)
「ねぇ、ルディ…」
「ルディ様、部屋の前に誰かいます」
ドアの前にいる人物の気配を察知し、ジールの赤い瞳がボンヤリと光っている。
「見てまいります」
そういうとジールは素早くドアの前へ行き、ドアを開けた。廊下には一人の学院生が立っていた。
「ジール様、初めてお目にかかります。サリーニァ=アルオと申します」
制服の裾を軽く上げながら、膝を曲げカーテシーをした。手入れされた長く美しい黒髪が、艶やかに光っている。
「サリーニァ嬢が、ルディ様に何用でしょうか?」
「こちらを、ジール様のお父様からお預かり致しました」
差し出された手紙を開け、中身を確認したジールが目を見開いた。
「わたくし、ルディ様のお相手として来ましたの」
「ジール、どういうことだ!?」
サリーニァの声に反応し、ルディが席を立った。申し訳なさそうにジールが言葉を続ける。
「父が…サリーニァ嬢を舞踏会へエスコートするようにと、ルディ様に手紙を寄越しました」
学院が主催の舞踏会は、月1で行われており、社交界に出ても、恥ずかしくないようにするための練習も兼ねている。
明日がその日であり、一度も参加していないルディ達はいつも通り欠席する気でいた。
「ルディ様にエスコートされて舞踏会に出られるなんて、夢のようでございます」
部屋の中へと入ってきたサリーニァがルディの手を取ろうとするが、ルディはそれをかわした。
「ジール!」
サリーニァから離れ、ルディはジールの元へと駆け寄り何やら話し出した。
二人には、険悪な雰囲気が漂っている。
「あら、貴方が噂のシュノタル家の混血の子ね」
座っているエイリアに気づいたサリーニァが、話しかけてきた。エイリアは慌てて立ち上がり、令嬢に向けてお辞儀をする。
「そうです、サリーニァ様。失礼ですが、どんな噂かお聞きしても?」
「本当に失礼ね。わたくしは、ルディ様には劣るけどこれでも三大貴族の縁の者なの。混血の子が容易に話しかけていい相手ではないと、教わらなかったのかしら?」
知っていたとは言え、エイリアは面と向かって差別を口にされたのは初めてだった。
見下した令嬢の瞳が冷たく、心に突き刺さる。
「あの方は、尊き元祖の血を引く者なのよ。混血は、ルディ様に近づくべきではありません。早く離れてくださいませ」
吐き捨てるように言葉を投げかけ、「明日お待ちしておりますわ」とルディ達に笑顔で応え、サリーニァは去っていった。
エイリアは下を向いたまま、しばらく顔を上げることができなかった。
夢の話を聞く限り、エイリアに何か隠されているのは明白だった。なので改めて、エイリアの両親をジールに調べさせることにした。
父親に変わった能力など無く、一般的なヴァンパイアと同じだったが、母親は手がかりどころか存在さえつかめなかった。
誰一人、目撃者がいなかったのだ。
「それは、本当なのか?」
「はい、ライディア家にいる最古の執事長も見たことがないと…私の推測ですが、前当主様が人間だったエイリア君のお母様に配慮し、存在を隠していたのではないかと」
珍しい金髪の人間がいるとわかれば、暇を持て余した貴族の格好の餌食になる。
それを踏まえて、前当主が隠したとしても不思議ではない。
「知り得た情報はエイリアから聞いた母親が、金髪で白ユリが好きだったということだけか…」
「そうですね」
「謎が残ったままか…まぁ、エイリアの匂いが俺達以外、効かないということだけでも分かって良かったけどな」
午後にも同じことをした結果、エイリアから漂う香りは他のヴァンパイアに効かないことが判明した。
ついでに飲んでもらった抑制剤が効いていないことも確認できた。つまり、匂いの原因はエイリアの能力ではなかった。
「はぁ…不満だ……」
いつも通りならエイリアの隣に座り、エイリアのそばでたわいもない話をしている。
頭を抱えたルディが、思わず本音を漏らしてしまう。
「…エイリアに触れたい」
「ダメですよ。原因が分かるか、匂いが消えるまで一定の距離でいてください」
「お待たせー」
ガチャリと部屋のドアが開き、エイリアが二人の元へと歩み寄った。手首には真新しい包帯が巻き付いている。
「…手首の具合はどうだ?」
「ルディが取り寄せてくれた塗り薬のおかげで、痛みは全くなくなったよ。あれ、高いんでしょ?医務室の先生、薬を塗る時に手が震えてたよ」
ニコッと笑うエイリアにルディも笑みを返した。
本当は謝っても謝り足りないルディだったが、会う度謝っていたらエイリアから謝ることを禁止されてしまった。
「…そうか、困った事があったらすぐに言ってくれ」
「うん」
「エイリア君、紅茶を淹れますから座ってください」
ジールに促され、エイリアはソファーへと腰を掛けた。テーブルには、いろとりどりなお菓子が置かれている。
(なんか、おかしい…)
お菓子を口に含み、エイリアは二人を見つめた。
(態度は変わらないけど、二人から距離を感じる。朝の事があってから、抑制剤を飲まされたり、知らない子が挨拶に来たり…僕に何か隠してる?)
「ねぇ、ルディ…」
「ルディ様、部屋の前に誰かいます」
ドアの前にいる人物の気配を察知し、ジールの赤い瞳がボンヤリと光っている。
「見てまいります」
そういうとジールは素早くドアの前へ行き、ドアを開けた。廊下には一人の学院生が立っていた。
「ジール様、初めてお目にかかります。サリーニァ=アルオと申します」
制服の裾を軽く上げながら、膝を曲げカーテシーをした。手入れされた長く美しい黒髪が、艶やかに光っている。
「サリーニァ嬢が、ルディ様に何用でしょうか?」
「こちらを、ジール様のお父様からお預かり致しました」
差し出された手紙を開け、中身を確認したジールが目を見開いた。
「わたくし、ルディ様のお相手として来ましたの」
「ジール、どういうことだ!?」
サリーニァの声に反応し、ルディが席を立った。申し訳なさそうにジールが言葉を続ける。
「父が…サリーニァ嬢を舞踏会へエスコートするようにと、ルディ様に手紙を寄越しました」
学院が主催の舞踏会は、月1で行われており、社交界に出ても、恥ずかしくないようにするための練習も兼ねている。
明日がその日であり、一度も参加していないルディ達はいつも通り欠席する気でいた。
「ルディ様にエスコートされて舞踏会に出られるなんて、夢のようでございます」
部屋の中へと入ってきたサリーニァがルディの手を取ろうとするが、ルディはそれをかわした。
「ジール!」
サリーニァから離れ、ルディはジールの元へと駆け寄り何やら話し出した。
二人には、険悪な雰囲気が漂っている。
「あら、貴方が噂のシュノタル家の混血の子ね」
座っているエイリアに気づいたサリーニァが、話しかけてきた。エイリアは慌てて立ち上がり、令嬢に向けてお辞儀をする。
「そうです、サリーニァ様。失礼ですが、どんな噂かお聞きしても?」
「本当に失礼ね。わたくしは、ルディ様には劣るけどこれでも三大貴族の縁の者なの。混血の子が容易に話しかけていい相手ではないと、教わらなかったのかしら?」
知っていたとは言え、エイリアは面と向かって差別を口にされたのは初めてだった。
見下した令嬢の瞳が冷たく、心に突き刺さる。
「あの方は、尊き元祖の血を引く者なのよ。混血は、ルディ様に近づくべきではありません。早く離れてくださいませ」
吐き捨てるように言葉を投げかけ、「明日お待ちしておりますわ」とルディ達に笑顔で応え、サリーニァは去っていった。
エイリアは下を向いたまま、しばらく顔を上げることができなかった。
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