激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第9部 倒錯のイグニス

#6 碧い瞳の少女

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 誰…?
 杏里は息を呑んだ。
 まるで、男の正体を知っているかのような、その口ぶり。
 しかも、外来種を、雑魚だなんて…。
 それにしても、と思う。
 なんて青い瞳なのだろう。
 見つめられているだけで、魂を吸い込まれそう…。
 得体の知れぬ昂ぶりが、杏里の心を捉えていた。
 それは、由羅と初めて会った時の衝撃に酷似していた。
 胸の鼓動が激しくなる。
 今にも心臓が口から飛び出してしまう気がするほどだ。
「きさまあ、何しやがった!」
 地べたに這いつくばっていた男が、飛び起きた。
「雑魚だとお? 俺を誰だと思ってる? この下等動物めが!」
 身を反転させると、10メートルほど離れたところに立っている少女に向かって、大きく跳躍した。
 男の背広が、猛禽類の翼のように広がった。
 まるで、巨大な鳥が飛び立ったかのようだった。
 木々の梢をかすめ、舞い上がった男のシルエットが日差しを遮った。
 少女の青い目が、杏里から離れ、男に移る。
 自分めがけて降下してくる男を、その鋭い視線で捉え直した。
 次に起こった出来事を、いったいどう解釈したらいいのだろう?
 男を見据えたまま、少女が軽く首を振った、その瞬間だった。
 少女に掴みかかろうとしていた男の身体が、ふいに新たな浮力を得たかのように宙に浮き上がり、静止した。
 そして、何か目に見えない腕に投げ飛ばされたかのように、突然少女の頭上を越え、飛翔したのである。
 その先は森の出口を横切る、交通量の多い車道である。
 悲鳴とともに、けたたましいクラクションが鳴り渡った。
 続いて耳障りなクラッシュ音。
 杏里は半ば口を開けたまま、凍りついた。
 車道に飛び出した男の身体が、折悪しく通りかかった大型トラックのボンネットに激突したのだ。
 こ、これは…?
 麻痺しかかった頭で、杏里は思った。
 これって、もしかして、ヤッコと同じ、超能力…?
 3日前。
 トーナメント戦が始まる直前に、委員会本部からの脱出を図ったヤッコ。
 彼女の死は、はからずもリストバンドに仕掛けられた罠を証明することになってしまったわけだったが…。
 そのヤッコは、死ぬ直前、手も触れずにエントランスの鋼鉄のシャッターを引き裂いたのだ。
 目の前の少女は、それと同等の力を持っているとしか思えなかった。
 あたかも、その青い瞳から出る不可視のビームで男の身体を絡め取り、そのまま軽々と投げ飛ばしたかような、そんな感じに見えたのだ。
 ゆっくりと、少女が近づいてくる。
 背丈は、杏里より5センチほど高い。
 金色の髪をポニーテールにまとめたその顔は、鼻筋が通り、西洋人形のように整っている。
 グレーのスカートに白いブラウス。
 その上に、スカートと同色のブレザーを羽織っている。
 杏里と同じ制服だが、ただ、リボンの色だけ、異なっている。
 上級生であることを示す、赤なのだ。
「誰…なの?」
 碧い瞳に射すくめられ、それだけを口にするのが精いっぱいだった。
「わたしの名は、富樫ルナ。見ての通り、新しいパトスだよ」
 眉一筋動かさず、冷静な口調で少女が答えた。
「新しい…パトス?」
「この地域には、パトスがいないらしい。だから、急遽、シンガポールから呼び戻された。主に曙中学と荘内橋中学のタナトスをサポートするように、言われている」
 そのふたつの中学のタナトスといえば、そう…。
 私と、いずなちゃんだ。
 てことは、つまり…。
 この子は、由羅の代役ということになる。
「おまえが曙中学の笹原杏里か。おまえのほうはかなりのベテランだから、大したサポートは要らないと聞いていたが…今の様子を見る限り、その情報も怪しいな」
 何、この子。
 初対面なのに、いきなり人を見下すようなこと言って。
 杏里はむっとした。
 最初の頃の由羅を髣髴とさせる傲慢さだ。
 だが、違いは目の前のこの少女のほうが、ずっと大人びた雰囲気を漂わせていることである。
 部活の厳しい先輩?
 軍隊の上官?
 なんとなくそんな印象なのだ。
「とにかく、今は荘内橋のほうのルーキーを守ることが先決になりそうだ。だから、おまえはできるだけ、自分の身は自分で守れ。いいか。わかったな」
「あなた、何なの? 念動力者? 外国人? どっちにしても、ずいぶんと態度が大きいようだけど」
 踵を返して立ち去りかけた少女の背中に、杏里はうっぷんをぶちまけた。
「いい? 由羅はまだ、死んだと決まったわけじゃないんだよ。だから、新しいパトスなんて必要ない。なのに、何よ、偉そうに」
 その声に、少女がぴたりと足を止め、首だけねじって杏里を見た。
「ほほう。助けてもらった礼がそれなのか? おまえこそ、たかがタナトスのくせに、ずいぶんとまた威勢がいいじゃないか。だがな、文句を言う前に、まずその恰好をどうにかしたほうがいい。そうだろう?」
 杏里は屈辱でかっと顔に血が上るのを感じた。
 ブラジャーとパンティだけの姿で少女と対峙していたことに、今更ながらに気づいたからだった。

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