激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

文字の大きさ
30 / 463
第9部 倒錯のイグニス

#29 脱出

しおりを挟む
「な、なんだ、これは?」
「人質はどこだ? 人質の少女が見当たらないぞ?」
 ドアの向こうで複数の叫び声が沸き起こる。
 杏里たちはちょうど、階段の降り口まで来たところだ。
「SATは特殊急襲部隊だ。携帯している武器からして、一般の警察官とはまったく違う。まさか、いきなり撃ってはこないとは思うが、注意するにこしたことはない」
 いずなの右肩を支えながらルナが言う。
 踊り場まで下りた時である。
 ドアが開け放たれ、足音が入り乱れた。
「いたぞ!」
 叫び声に振り向くと、SAT隊員がこちらを見下ろしていた。
 3人いる。
 中央の男が盾を構え、左右にはサブマシンガンと自動小銃を手にした男がひとりずつ。
 野球の審判みたいなプロテクターと、バイザーつきの頑丈そうなヘルムを装着している。
「急げ。2階の渡り廊下までたどりつけば、なんとかなる」
 ルナにせかされ、杏里は懸命に足を動かした。
 いずなは杏里と比べても華奢なほうなのだが、気を失っているためひどく重い。
 ルナとふたり、左右から肩を貸し、ひきずるようにして歩かねばならないのだ。
「その子をどうするつもりだ? だいたいおまえらは、何者なんだ?」
 盾を持った男が、先頭を切って駆け下りてくる。
 その陰に隠れるようにして、後のふたりが銃を構えている。
 たかが女子中学生ふたりにずいぶんと大げさだが、向こうにしてみれば、杏里とルナは立てこもり犯が殺し、しかも人質を拉致しようしている謎のふたり組、ということになるのだろう。
「うざいな」
 ルナがつぶやき、振り向いた。
 とたんにガツンと金属音が響き渡り、男の悲鳴が後に続いた。
 肩越しに振り返ると、盾が吹っ飛び、天井にぶつかったところだった。
 衝撃で3人とも階段を飛び越え、4階の廊下の壁に叩きつけられている。
「どうした?」
 バラバラと新たな足音。
「今のうちだ。逃げるぞ」
 階段をくるくる回りながら降り、2階の廊下に出た。
 目の前には、空中で校舎同士を結ぶ渡り廊下が伸びている。
 幸い、こちら側にはまだ追手の姿はない。
「重人、タクシーを頼む。ヒュプノで近くのを操って、裏門の前まで来させるんだ」
 宙を睨んでルナが叫んだ。
 声に出したのは、杏里にも聞かせるためだろう。
 そうか、と思う。
 重人は人の心をある程度操ることができる。
 ヒュプノスというのは、元来そういう意味なのだ。
 渡り廊下を真ん中あたりまで来た時だった。
「止まれ!」
 来たほうから、男の怒鳴り声がした。
「ここまでか」
 ルナが歩調を緩め、立ち止まる。
「捕まる気なの?」
 裏切られたような気分で、杏里はたずねた。
 だったら、最初から逃げる必要などなかったのに。
 が、ルナはにやりと笑っただけだった。
「まさか。まあ、見てな」
 ぐったりと重いいずなの身体を杏里にあずけ、声のした方向を向く。
 A棟の入口に、10人以上のSAT 隊員たちが群れていた。
 全員、機関銃のような武器を構えている。
「おとなしく、いうことを聞きなさい。君たちは、この学校の生徒なのか? あれをやったのは君たちか? なぜ人質を拉致しようとしている?」
 体調らしき男が、メガホンで叫ぶ。
「うるさいな。そんなにいっぺんに訊かれたって、答えようがないだろう?」
 大声で、ルナが言い返す。
「動かないで、そこで待っていなさい。今、そっちに人をやる。人質の少女を、おとなしく渡すんだ」
「嫌だと言ったら?」
 ルナが隊長の足元に視線を向けた。
 ガキッ。
 コンクリートが軋むような、耳障りな音がした。
 隊員たちの間に、どよめきが沸き起こる。
 バキバキッ。
 稲妻形に、渡り廊下の床に亀裂が走った。
 ぐらり。
 地震のように、建物全体が大きく揺れる。
 やがて、ドーンという大音響とともに、A棟側から渡り廊下が崩れ落ちた。
 巻き上がる埃の向こうに、右往左往する黒い人影が見える。
「ざまあみろ」
 ルナが笑った。
 杏里はただ呆然と、その紅潮した美しい横顔を見守った。
 背筋を冷たいものが伝うのが分かった。
 助かったという思いよりも、怖いという感情のほうが強かったのだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...