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第9部 倒錯のイグニス
#65 何者
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ベッドに仰向けになったまま、若い女が白目を剥いて気絶している。
たくし上げられたブラジャーの下から、おわん型の白い乳房がむき出しになっている。
パンティは片方の太腿に絡まり、下半身丸出しの姿である。
女の裸体は杏里の愛液で艶やかな光沢を帯び、あたかも性感エステでマッサージを受けた直後のようだった。
自慰の限りをつくして気を失ってしまった看護師を尻目に、杏里は下着と制服を身に着けた。
カーテンの向こうは事務室になっていて、事務机の上にティッシュにくるまれてあのローターが乗っていた。
それをスカートのポケットに突っ込んで部屋を出ようとした時、向こうからドアが開き、女医が顔をのぞかせた。
「終わった? 彼女、無事、昇天したかしら?」
”昇天”という冗談めかした言い方に憮然とした杏里だったが、ここは無言でうなずくにとどめておいた。
「後始末は私に任せておいてくれればいいから。診察室で委員会の方々がお待ちだわ」
部屋を出ると、そこは窓のない長い廊下だった。
教えられた通りにナースステーションの前を直進し、最初の角を右に曲がると奥の方に診察室の表示が見えた。
ノックをしてしばらく待つと、
「杏里か?」
聞き覚えのある声が返ってきた。
杏里はほっとした。
委員会の方々、という言葉から、本部で会った北条を連想したのだが、どうやらそれは杞憂だったようだ。
ドアノブを押して中に入ると、案の定、部屋にいるのは顔見知りの3人だけだった。
小田切、冬美、そしてルナである。
スーツ姿の冬美が事務机の前の椅子に座り、小田切とルナがテーブルをはさんでソファに腰かけている。
はちきれそうにブラウスを押し上げた豊かすぎる胸。
座ったら下着が見えてしまいそうなほど短いスカート。
そんな挑発的な格好の杏里を目の当たりにしても、小田切と冬美は慣れっこになっているため、眉ひとつ動かさない。
ただ、ルナの顔にだけ、まぶしいものでも見るような表情が浮かんでいる。
「CTスキャンの結果は異状なし。触診検査もどうせ白だろう」
小田切の隣に腰を下ろすと、その小田切がいつもの不愛想な口調で言い出した。
「大方、触診が高じて浄化に至ったというのが、本当のところじゃないのか」
図星なだけに、何も言い返せない。
と言っても、別に杏里の側に非があるわけではないのだ。
たぶん、と思う。
あのふたりは、本物のタナトスに触れてみたかっただけではないのか。
検査は二の次で、単に杏里の躰に興味があったというのが、触診の目的だったのかもしれない。
「DNA鑑定の結果は? あれがいずなちゃんだったかどうか、まだわからないの?」
あれ、というのは、杏里を襲った怪物が脱ぎ捨てた人間の皮のことである。
女医の話では、結果が出るのは明日の午後、ということだった。
早すぎるとわかってはいるものの、杏里は訊かずにはいられなかった。
「正確な判定には、きょう一日はかかりそうね。でも、個人的な意見を言わせてもらうと、おそらくあれはいずなちゃんではないわ。というより、人間ですらない。もちろん、厳密にはいずなちゃんも人間ではないけれど、それでもタナトスは人間を基盤にしているから、ヒトの生体組織と比べてそんなに大きな違いはない。でも、あれははるかに限度を超えているの。たぶん、外来種の一種だと思う。最近増えている変異外来種のね」
タイトスカートから伸びた綺麗な脚を組み直し、机の前の冬美が言った。
「そうだとすると、どういうことになるんですか?」
冬美のほうに向き直り、杏里はたずねた。
「外来種が、外来種を襲ったとでも?」
「手の込んだ罠だったんじゃないか」
横から口を挟んだのは、それまで黙っていたルナである。
「杏里、おまえをひっかけるためのさ」
たくし上げられたブラジャーの下から、おわん型の白い乳房がむき出しになっている。
パンティは片方の太腿に絡まり、下半身丸出しの姿である。
女の裸体は杏里の愛液で艶やかな光沢を帯び、あたかも性感エステでマッサージを受けた直後のようだった。
自慰の限りをつくして気を失ってしまった看護師を尻目に、杏里は下着と制服を身に着けた。
カーテンの向こうは事務室になっていて、事務机の上にティッシュにくるまれてあのローターが乗っていた。
それをスカートのポケットに突っ込んで部屋を出ようとした時、向こうからドアが開き、女医が顔をのぞかせた。
「終わった? 彼女、無事、昇天したかしら?」
”昇天”という冗談めかした言い方に憮然とした杏里だったが、ここは無言でうなずくにとどめておいた。
「後始末は私に任せておいてくれればいいから。診察室で委員会の方々がお待ちだわ」
部屋を出ると、そこは窓のない長い廊下だった。
教えられた通りにナースステーションの前を直進し、最初の角を右に曲がると奥の方に診察室の表示が見えた。
ノックをしてしばらく待つと、
「杏里か?」
聞き覚えのある声が返ってきた。
杏里はほっとした。
委員会の方々、という言葉から、本部で会った北条を連想したのだが、どうやらそれは杞憂だったようだ。
ドアノブを押して中に入ると、案の定、部屋にいるのは顔見知りの3人だけだった。
小田切、冬美、そしてルナである。
スーツ姿の冬美が事務机の前の椅子に座り、小田切とルナがテーブルをはさんでソファに腰かけている。
はちきれそうにブラウスを押し上げた豊かすぎる胸。
座ったら下着が見えてしまいそうなほど短いスカート。
そんな挑発的な格好の杏里を目の当たりにしても、小田切と冬美は慣れっこになっているため、眉ひとつ動かさない。
ただ、ルナの顔にだけ、まぶしいものでも見るような表情が浮かんでいる。
「CTスキャンの結果は異状なし。触診検査もどうせ白だろう」
小田切の隣に腰を下ろすと、その小田切がいつもの不愛想な口調で言い出した。
「大方、触診が高じて浄化に至ったというのが、本当のところじゃないのか」
図星なだけに、何も言い返せない。
と言っても、別に杏里の側に非があるわけではないのだ。
たぶん、と思う。
あのふたりは、本物のタナトスに触れてみたかっただけではないのか。
検査は二の次で、単に杏里の躰に興味があったというのが、触診の目的だったのかもしれない。
「DNA鑑定の結果は? あれがいずなちゃんだったかどうか、まだわからないの?」
あれ、というのは、杏里を襲った怪物が脱ぎ捨てた人間の皮のことである。
女医の話では、結果が出るのは明日の午後、ということだった。
早すぎるとわかってはいるものの、杏里は訊かずにはいられなかった。
「正確な判定には、きょう一日はかかりそうね。でも、個人的な意見を言わせてもらうと、おそらくあれはいずなちゃんではないわ。というより、人間ですらない。もちろん、厳密にはいずなちゃんも人間ではないけれど、それでもタナトスは人間を基盤にしているから、ヒトの生体組織と比べてそんなに大きな違いはない。でも、あれははるかに限度を超えているの。たぶん、外来種の一種だと思う。最近増えている変異外来種のね」
タイトスカートから伸びた綺麗な脚を組み直し、机の前の冬美が言った。
「そうだとすると、どういうことになるんですか?」
冬美のほうに向き直り、杏里はたずねた。
「外来種が、外来種を襲ったとでも?」
「手の込んだ罠だったんじゃないか」
横から口を挟んだのは、それまで黙っていたルナである。
「杏里、おまえをひっかけるためのさ」
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