127 / 463
第9部 倒錯のイグニス
#127 紅白戦①
しおりを挟む
ああ、ついに…。
正門の前に立ち、杏里は重いため息をついた。
ついに来てしまったのだ。
この日が。
もちろん、杏里にとっての目下の最重要課題は、週末に控える学園祭である。
だが、きょうのレスリング部紅白戦も、心理的にはかなりの重荷になっている。
秋晴れの青空の下、三々五々グループをつくった生徒たちが、思い思いに校門をくぐっていく。
門柱の陰に佇む杏里の姿に気づくと、誰もが一度は足を止め、粘りつくような視線を向けてくる。
きのうの朝、全クラス一斉に行われたタブレット端末によるイベント発表。
あれ以来、杏里は全校生徒の注目の的だった。
痴態の限りを尽くした杏里の画像は、明らかに思春期の只中にある彼らに重度の衝撃をもたらしたようだ。
美里の”調教”で性という禁断の果実に狂った挙句、それをまた封印されしまっていた十代半ばの少年少女たち。
彼らの爆発しそうな欲望がまっすぐに自分に向けられるのを、杏里は肌で感じないではいられなかった。
ただ、イベントまでの数日間、杏里に手を出すことは、一切許されていない。
そうなると、彼らの当面の関心は、自然、きょうの午後開催されるレスリング部の紅白戦に集約されることになる。
ただの練習試合なのに…。
杏里が恨めしげに見上げたのは、校舎の正面入り口にかけられた大げさな横断幕である。
『曙中学校 レスリング部紅白戦 本日午後2時開催』
白い布地に、赤い字ででかでかとそう書き殴ってあるのだ。
杏里はブレザーのポケットに手を入れ、指先で底をまさぐった。
あった。
小さな箱の所在を確認して、安堵の吐息を漏らした。
試合前に飲むつもりの性露丸だ。
どうせなら、残り全部を飲んでしまって、週末のイベント用は、また今度買ってこよう。
そう思っている。
歩き出すと、股の間が疼いた。
ミニスカートの下、滑らかなシルクのパンティの裏地に、リングで搾り上げられた陰核の先端がこすれているのだ。
秘裂自体はぴたりと閉じているのだが、肥大しすぎて陰核が陰唇の中に収まらなくなってしまっているのである。
あまり足早に歩くと、刺激が強くなりすぎて、危険な気がした。
「杏里、おはよ」
ふいに肩を叩かれてびくりと身を硬くした杏里に、その顔をのぞき込むようにして長身の純が笑いかけてきた。
「いよいよだね。ドキドキするね」
「はああ…早く終わってほしい」
杏里はため息混じりに応えた。
「何弱気なこと言ってんの! きょうの試合、絶対勝つよ! 杏里だって、きのう、そう言ってたじゃない」
「まあね…それは、そうなんだけど」
純の励ましに、どんよりした表情でうなずいた。
負けたくない、という思いは本当だ。
でも、本番間近となると、あんなこと言わなきゃよかった、という後悔の念も強い。
「じゃ、先に行ってるね。また教室で」
颯爽と駆け去っていく純のすらりとした後ろ姿をぼんやり見送っていると、
「杏里、おまえ、あれに出るんだってな」
背後から、今度は聞き慣れた声がした。
どきんと、心臓が一瞬鼓動を停止した。
振り向くと、予想通り、アクアマリンの瞳と眼が合った。
「ルナ…」
頬が火のように熱くなる。
こっちを見つめて立っているのは、ブロンドの髪を朝陽に輝かせたルナだった。
きょうはポニーテールでなく、長い髪を肩の下まで自然に流している。
だからきょうのルナは、いつもよりずっと大人っぽく見える。
ルナは例の横断幕を指さしている。
ルナとは学校生活について、ほとんど話し合ったことがない。
専ら話題に上がるのは、タナトスとパトスが属する裏の世界の出来事ばかりだからである。
杏里が頬を染めたのは、ほかでもない。
今更のように、ある事実に思い至ったからだった。
ルナは今、クラスこそ違え、この曙中学の生徒である。
ということは、きのうの動画を彼女も見ているのだ。
その杏里の内心の動揺を感じ取ったのだろう。
「動画も見た]
気まずそうに視線を足元に落とし、ルナが言った。
「軽蔑するよね」
自嘲気味な杏里のつぶやきに、
「いや、タナトスも、いろいろ大変だなって思っただけさ」
ルナが足元を見つめながら、苦笑する。
「ごめんね」
なんとなく、そんな言葉が口をついて出た。
何が「ごめんね」なのか、自分でもよくわからない。
「わたしに手伝えることがあれば、遠慮なく言ってくれ」
つぶやくように、ルナが言った。
ルナのやさしさは、最期に一緒に過ごした日々、由羅が見せてくれたやさしさに似ている。
そう思うと、少し悲しくなった。
「ううん。ありがとう」
かぶりを振ると、顔を上げたルナと眼が合った。
「きょうの試合、見に行っていいか?」
今度は杏里の瞳から視線を逸らさず、ルナが訊く。
「うん」
杏里は、はにかんだように微笑んだ。
「本当は、かなり恥ずかしいんだけどね」
正門の前に立ち、杏里は重いため息をついた。
ついに来てしまったのだ。
この日が。
もちろん、杏里にとっての目下の最重要課題は、週末に控える学園祭である。
だが、きょうのレスリング部紅白戦も、心理的にはかなりの重荷になっている。
秋晴れの青空の下、三々五々グループをつくった生徒たちが、思い思いに校門をくぐっていく。
門柱の陰に佇む杏里の姿に気づくと、誰もが一度は足を止め、粘りつくような視線を向けてくる。
きのうの朝、全クラス一斉に行われたタブレット端末によるイベント発表。
あれ以来、杏里は全校生徒の注目の的だった。
痴態の限りを尽くした杏里の画像は、明らかに思春期の只中にある彼らに重度の衝撃をもたらしたようだ。
美里の”調教”で性という禁断の果実に狂った挙句、それをまた封印されしまっていた十代半ばの少年少女たち。
彼らの爆発しそうな欲望がまっすぐに自分に向けられるのを、杏里は肌で感じないではいられなかった。
ただ、イベントまでの数日間、杏里に手を出すことは、一切許されていない。
そうなると、彼らの当面の関心は、自然、きょうの午後開催されるレスリング部の紅白戦に集約されることになる。
ただの練習試合なのに…。
杏里が恨めしげに見上げたのは、校舎の正面入り口にかけられた大げさな横断幕である。
『曙中学校 レスリング部紅白戦 本日午後2時開催』
白い布地に、赤い字ででかでかとそう書き殴ってあるのだ。
杏里はブレザーのポケットに手を入れ、指先で底をまさぐった。
あった。
小さな箱の所在を確認して、安堵の吐息を漏らした。
試合前に飲むつもりの性露丸だ。
どうせなら、残り全部を飲んでしまって、週末のイベント用は、また今度買ってこよう。
そう思っている。
歩き出すと、股の間が疼いた。
ミニスカートの下、滑らかなシルクのパンティの裏地に、リングで搾り上げられた陰核の先端がこすれているのだ。
秘裂自体はぴたりと閉じているのだが、肥大しすぎて陰核が陰唇の中に収まらなくなってしまっているのである。
あまり足早に歩くと、刺激が強くなりすぎて、危険な気がした。
「杏里、おはよ」
ふいに肩を叩かれてびくりと身を硬くした杏里に、その顔をのぞき込むようにして長身の純が笑いかけてきた。
「いよいよだね。ドキドキするね」
「はああ…早く終わってほしい」
杏里はため息混じりに応えた。
「何弱気なこと言ってんの! きょうの試合、絶対勝つよ! 杏里だって、きのう、そう言ってたじゃない」
「まあね…それは、そうなんだけど」
純の励ましに、どんよりした表情でうなずいた。
負けたくない、という思いは本当だ。
でも、本番間近となると、あんなこと言わなきゃよかった、という後悔の念も強い。
「じゃ、先に行ってるね。また教室で」
颯爽と駆け去っていく純のすらりとした後ろ姿をぼんやり見送っていると、
「杏里、おまえ、あれに出るんだってな」
背後から、今度は聞き慣れた声がした。
どきんと、心臓が一瞬鼓動を停止した。
振り向くと、予想通り、アクアマリンの瞳と眼が合った。
「ルナ…」
頬が火のように熱くなる。
こっちを見つめて立っているのは、ブロンドの髪を朝陽に輝かせたルナだった。
きょうはポニーテールでなく、長い髪を肩の下まで自然に流している。
だからきょうのルナは、いつもよりずっと大人っぽく見える。
ルナは例の横断幕を指さしている。
ルナとは学校生活について、ほとんど話し合ったことがない。
専ら話題に上がるのは、タナトスとパトスが属する裏の世界の出来事ばかりだからである。
杏里が頬を染めたのは、ほかでもない。
今更のように、ある事実に思い至ったからだった。
ルナは今、クラスこそ違え、この曙中学の生徒である。
ということは、きのうの動画を彼女も見ているのだ。
その杏里の内心の動揺を感じ取ったのだろう。
「動画も見た]
気まずそうに視線を足元に落とし、ルナが言った。
「軽蔑するよね」
自嘲気味な杏里のつぶやきに、
「いや、タナトスも、いろいろ大変だなって思っただけさ」
ルナが足元を見つめながら、苦笑する。
「ごめんね」
なんとなく、そんな言葉が口をついて出た。
何が「ごめんね」なのか、自分でもよくわからない。
「わたしに手伝えることがあれば、遠慮なく言ってくれ」
つぶやくように、ルナが言った。
ルナのやさしさは、最期に一緒に過ごした日々、由羅が見せてくれたやさしさに似ている。
そう思うと、少し悲しくなった。
「ううん。ありがとう」
かぶりを振ると、顔を上げたルナと眼が合った。
「きょうの試合、見に行っていいか?」
今度は杏里の瞳から視線を逸らさず、ルナが訊く。
「うん」
杏里は、はにかんだように微笑んだ。
「本当は、かなり恥ずかしいんだけどね」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる