激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第9部 倒錯のイグニス

#132 紅白戦⑥

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 ごうごうと焼却炉のほうで、炎が燃え盛る音がする。
 その音を聞きながら、唯佳は階段の陰で、膝を抱えてうずくまっていた。
 あれは、何だったのだろう?
 あれは、いったい…?
 杏里に知らせなきゃ、と思う。
 紅組は杏里が対戦する相手チームのはずだ、
 杏里や純が白組だということは、教室で交わされる会話の端々からわかっている。
 ということは、さっきの”あれ”は、敵チームに紛れこんで、おそらく杏里を…。
 理由はわからない。
 だが、唯佳は確信していた。
 狙われているのは杏里だ。
 美里の残滓を拭うためにやってきたという杏里。
 その彼女の存在自体を、快く思わない者がどこかに潜んでいるに違いない。
 早くしないと、試合が始まってしまう。
 恐怖心を押さえつけ、唯佳はようやく腰を上げた。
 焼却炉のほうから聞こえてくる地獄の業火の音に耳をふさぎながら、小走りに渡り廊下へと向かう。
 校舎の角を曲がった時、ショートカットの少女の後を、猫背気味に歩く杏里の姿が見えてきた。
 ふたりとも、レスリング部の新しいユニフォームを着ている。
 水着みたいなデザインの、真っ赤なセパレーツだ。
 特に杏里のものは扇情的で、まるで撮影に赴くグラビアアイドルみたいに見える。
 その杏里の姿が見えたのは、ほんの一瞬だった。
 体育館に近づくにつれ、渡り廊下は外壁に囲まれ、外から見えないようになる。
 そこから先は、ただ胸の高さの窓が続いているだけだ。
 窓から顔を出して、杏里に声をかけようとした時だった。
 唯佳はふと背後に人の気配を感じ、慄然とした。
 あわてて振り向こうとした。
 だが、できなかった。
 突然、首に腕らしきものが巻きついてきたかと思うと、ありえない方向にすごい力でねじられたのである。
 びっくりするほど近くで、何かの折れる乾いた音が響いた。
 それが自分の首の骨が折れる音だと気づいたのは、意識を失う直前のことである。
「杏里…」
 力なくひとりごちて、唯佳はその場にくずれ落ちた。
 
 ふと、誰かに名前を呼ばれた気がして、杏里は足を止めた。
 声は、窓のほうから聞こえたようだ。
 振り返った杏里の視界の隅に、一瞬間だけ、顔が見えた。
 異様に青ざめた、髪の長い少女の顔だ。
 眼を飛び出さんばかりに見開いた少女の顔が、窓の向こうに浮かび上がって、もの言いたげに杏里を見つめていた。
「唯佳?」
 言葉をかけようとした時には、すでに顔は消えていた。
 杏里は背筋を冷たいものが伝うのを感じた。
 何? 今の?
 あの顔は、間違いなく、唯佳だった。
 でも、唯佳、どうしちゃったんだろう?
 まるで、心霊現象みたいだったけど…?
 渡り廊下から出て、壁の向こう側に回り、そこのいるだろう唯佳に声をかければ、それで事は済むはずだった。
 が、時間がなかった。
 その証拠に、体育館の中からは、騒々しい生徒たちの声が聞こえている。
 開け放たれた扉から、熱気があふれ出してくるのが、手に取るようにわかった。
 授業を午前中で切り上げてまで行われることになった、レスリング部紅白戦。
 それをひと目でも見ようと、全校生徒が集まってきているのだ。
「うひゃあ、すごい人。これじゃ、正面玄関からは入れませんね。リングにたどりつく前に、観客に押しつぶされちゃいますって。特に杏里先輩、あの動画配信以来、人気絶頂だから」
 トモの言葉に杏里は赤くなる。
 今更ながらに思い知らされる。
 当然、あの動画は、レスリング部のメンバーも全員見ているはずなのだ。
 それを意識し出すと、乳首と陰唇の疼きがひどくなってきた。
 足を一歩踏み出すたびに、ユニフォームがこすれて敏感な3つの部位に電撃が走るのだ。
 それだけではなかった。
 時間が経つうちに、肌という肌の神経も、いつのまにやらその敏感さを増してきているようだった。
 文字通り、全身が膣の内側の粘膜にでも変化したかのように、風のそよぎにすら快感を覚えてしまうのである。
「裏口から行きましょ」
 トモが言って、杏里の左手首をつかんだ。
「あ」
 たったそれだけのことに、思わず腰砕けになる杏里。
 手首に加わったトモの握力が、ふいに快感へと変化したからだった。
 
 


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