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第9部 倒錯のイグニス
#192 邂逅④
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「おい、何やってるんだ? いい加減、バカなまねはやめないか!」
刑事の怒鳴り声に、杏里は振り返った。
奇怪な光景が視界に飛び込んできた。
ある意味シュールな、そのシーンだけを切り取ってみれば見る者の失笑を誘いかねない、奇妙極まりない光景だった。
手錠をはめられ、後ろ手に拘束された犯人が、狂気に駆られたように腰を動かしている。
まるで目に見えない女陰を貫いてでもいるかのように、宙に向かって激しく股間を突き上げているのだ。
そのたびに射精しているらしく、迷彩柄のズボンの前に、黒い染みがすごい勢いで広がっていく。
杏里は冷ややかな目でその様子を眺めやった。
犯人は、人間の若者だった。
外来種ではなかった。
ただの人間には、今の杏里の相手は荷が重すぎたのかもしれなかった。
この男はまだ、浄化が進行中なのだ。
杏里の体液を過剰なほど体内に取り込んだせいで、快楽中枢が暴走してしまったのだろう。
おそらく最後の一滴を放出するまで、射精をやめないに違いない。
男の狂気に感染したのか、警官や刑事たちの間にも名状しがたい異様なムードが漂い始めている。
原因が杏里にあることに本能的に気づいているのか、時折こちらに投げかけられる視線はどことなく不穏な感じがした。
「さ、こっちに。救急車が来てるから、病院で念のために検査を」
杏里の肩に手を置いた女性刑事は、明らかに何かを感じ取っているようだ。
首の付け根と右耳の耳朶に、うっすらとオレンジ色の斑点が現れている。
杏里のフェロモンを吸い込んだため、性感帯が活性化し始めているのだ。
「けっこうです。どこも悪くありませんから」
杏里はその手を振り払い、落ちているスカートに足を通した。
バスタオルを肩から外し、畳んで女性刑事の手に押しつけると、ブラウスのボタンを留め、ブレザーを羽織る。
病院?
冗談じゃない。
どんな検査をしても、擦り傷ひとつ見つからないに決まっている。
それより今は、あの老人を見つけないと。
野次馬の群れに向かって歩き出した杏里を、女刑事と警官のふたりが追いかけてきた。
「待ちなさい。まだあなたには話が」
振り向きざま、杏里の右手が刑事の右耳の耳朶に伸びた。
性感帯である耳たぶを軽くつまみ、返す手の甲で首の内側を撫で上げる。
「くっ」
女性刑事が苦悶の表情を顔に浮かべ、その場に立ちすくむ。
とどめにブラウスの上からその貧弱な乳房をひと揉みすると、杏里はくるりと踵を返した。
「ど、どうしたんですか? け、刑事さん!」
若い警官の狼狽した声を背中に聞きながら、人混みの中に紛れ込んだ。
足早にエスカレーターを駆け下り、追っ手がこないことを確かめて、短い通路に身を隠した。
トイレと喫煙室、そして授乳室がセットになった、メインフロアから少し離れた一画である。
女子トイレの個室に入り、ウェットティッシュで身体に付着した汚物を拭い取る。
消臭剤を素肌にじかに噴霧して、もう一度制服を着直した。
女子トイレを一歩出た時である。
ふいに背後から肩を叩かれ、杏里は身をすくめた。
「見事だったよ」
あの枯れた声が、杏里の耳朶を打った。
「さすが”わが子”と言いたいところだな。君には迷惑だろうが」
どこか笑いを含んだその声は、間違いなくあの老人のものだった。
刑事の怒鳴り声に、杏里は振り返った。
奇怪な光景が視界に飛び込んできた。
ある意味シュールな、そのシーンだけを切り取ってみれば見る者の失笑を誘いかねない、奇妙極まりない光景だった。
手錠をはめられ、後ろ手に拘束された犯人が、狂気に駆られたように腰を動かしている。
まるで目に見えない女陰を貫いてでもいるかのように、宙に向かって激しく股間を突き上げているのだ。
そのたびに射精しているらしく、迷彩柄のズボンの前に、黒い染みがすごい勢いで広がっていく。
杏里は冷ややかな目でその様子を眺めやった。
犯人は、人間の若者だった。
外来種ではなかった。
ただの人間には、今の杏里の相手は荷が重すぎたのかもしれなかった。
この男はまだ、浄化が進行中なのだ。
杏里の体液を過剰なほど体内に取り込んだせいで、快楽中枢が暴走してしまったのだろう。
おそらく最後の一滴を放出するまで、射精をやめないに違いない。
男の狂気に感染したのか、警官や刑事たちの間にも名状しがたい異様なムードが漂い始めている。
原因が杏里にあることに本能的に気づいているのか、時折こちらに投げかけられる視線はどことなく不穏な感じがした。
「さ、こっちに。救急車が来てるから、病院で念のために検査を」
杏里の肩に手を置いた女性刑事は、明らかに何かを感じ取っているようだ。
首の付け根と右耳の耳朶に、うっすらとオレンジ色の斑点が現れている。
杏里のフェロモンを吸い込んだため、性感帯が活性化し始めているのだ。
「けっこうです。どこも悪くありませんから」
杏里はその手を振り払い、落ちているスカートに足を通した。
バスタオルを肩から外し、畳んで女性刑事の手に押しつけると、ブラウスのボタンを留め、ブレザーを羽織る。
病院?
冗談じゃない。
どんな検査をしても、擦り傷ひとつ見つからないに決まっている。
それより今は、あの老人を見つけないと。
野次馬の群れに向かって歩き出した杏里を、女刑事と警官のふたりが追いかけてきた。
「待ちなさい。まだあなたには話が」
振り向きざま、杏里の右手が刑事の右耳の耳朶に伸びた。
性感帯である耳たぶを軽くつまみ、返す手の甲で首の内側を撫で上げる。
「くっ」
女性刑事が苦悶の表情を顔に浮かべ、その場に立ちすくむ。
とどめにブラウスの上からその貧弱な乳房をひと揉みすると、杏里はくるりと踵を返した。
「ど、どうしたんですか? け、刑事さん!」
若い警官の狼狽した声を背中に聞きながら、人混みの中に紛れ込んだ。
足早にエスカレーターを駆け下り、追っ手がこないことを確かめて、短い通路に身を隠した。
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消臭剤を素肌にじかに噴霧して、もう一度制服を着直した。
女子トイレを一歩出た時である。
ふいに背後から肩を叩かれ、杏里は身をすくめた。
「見事だったよ」
あの枯れた声が、杏里の耳朶を打った。
「さすが”わが子”と言いたいところだな。君には迷惑だろうが」
どこか笑いを含んだその声は、間違いなくあの老人のものだった。
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