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第9部 倒錯のイグニス
#221 進化する淫獣⑦
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土蔵の中には、麝香のような匂いが色濃く漂っていた。
窓のないコンクリート打ちっ放しの壁が、空気をほとんど通さないからだ。
その蜜のような空気に触れて、冬美の表情にかすかな変化が表れていた。
好物の獲物を前にした肉食獣の貌が、いつもの取り澄ましたフェイスの下から浮かび上がってきたような、そんな緊張をはらんだ目つきで、じっと杏里を見つめているのだ。
「外してくれないの?」
ふいに黙り込んだ冬美に向かって、手首の拘束具をがちゃつかせながら、杏里は訊いた。
「ルナのことで、重人と話さなきゃならないんだけど」
「そうね。わかってる」
冬美がかすれた声で答えた。
気のせいか、声が昂っている。
キャリアウーマン然とした、いつものクールな冬美らしくない。
「でも、時間はあるわ。もう少し、楽しんでもいいかな、と思って」
杏里は唖然とした。
ボンテージ衣装の冬美を、呆れて見つめ返した。
冬美は明らかに興奮しているようだ。
頬が紅潮し、うっすらと唇を開いている。
当てられたのだ、と気づいた。
杏里の全身から発散される、濃密な性フェロモン。
それを胸いっぱいに吸って、おかしくなりかけているに違いない。
不思議なことだった。
これまで、杏里に対して、眉一筋動かさなかった冬美。
その冬美が、ただの道具に過ぎない杏里に対して、性的興奮の兆候を示しているのである。
杏里自身が、タナトスとして成長した証かもしれなかった。
杏里を使い捨ての駒としか見ていない冬美を、ここまでその気にさせるとは…。
私の魅力も、満更捨てたものじゃないってことね。
杏里は心の中で意地悪くほくそ笑んだ。
着やせする質の冬美は、意外に筋肉質の肢体をしている。
エナメルのハイレグ衣装が、今にもはちきれそうである。
その身体を誇示するように尻を振りながら、冬美が近づいてくる。
「そんなこと言って、私に”浄化”されたいの?」
負けじと胸を張って裸身を見せびらかしながら、挑発するように杏里は言った。
「タナトスを見張るのが任務のトレーナーが浄化されちゃったら、委員会に顔向けできないんじゃないの?」
「浄化だなんて、まさか」
冬美が、ふんと鼻で笑った。
「そこまでするつもりはないわ。ただちょっと、あなたと遊んでみたくなっただけ」
「うれしいよ。冬美さんが興味を持ってくれるだなんて」
不敵に笑って、杏里はそんな心にもないことを口にした。
「今まで私は、あなたにとって、虫けら同然の存在だったんだもの」
「虫けらは言い過ぎでしょ」
冬美がかすかに鼻白むのがわかった。
「私はただ、あなたたちを人間ときちんと区別したいだけ」
「区別っていうより、差別でしょ」
杏里の眉間に、一瞬、縦じわが刻まれた。
が、すぐに表情を和らげると、
「いいわ。相手になってあげる」
誘うように身体をくねらせた。
そっちがその気なら、こっちにも考えがある。
顔にかかる前髪を首を振って払いのけると、杏里は言った。
「でも、鞭はやめて。どうせなら、その手でじかにいじめてちょうだい」
窓のないコンクリート打ちっ放しの壁が、空気をほとんど通さないからだ。
その蜜のような空気に触れて、冬美の表情にかすかな変化が表れていた。
好物の獲物を前にした肉食獣の貌が、いつもの取り澄ましたフェイスの下から浮かび上がってきたような、そんな緊張をはらんだ目つきで、じっと杏里を見つめているのだ。
「外してくれないの?」
ふいに黙り込んだ冬美に向かって、手首の拘束具をがちゃつかせながら、杏里は訊いた。
「ルナのことで、重人と話さなきゃならないんだけど」
「そうね。わかってる」
冬美がかすれた声で答えた。
気のせいか、声が昂っている。
キャリアウーマン然とした、いつものクールな冬美らしくない。
「でも、時間はあるわ。もう少し、楽しんでもいいかな、と思って」
杏里は唖然とした。
ボンテージ衣装の冬美を、呆れて見つめ返した。
冬美は明らかに興奮しているようだ。
頬が紅潮し、うっすらと唇を開いている。
当てられたのだ、と気づいた。
杏里の全身から発散される、濃密な性フェロモン。
それを胸いっぱいに吸って、おかしくなりかけているに違いない。
不思議なことだった。
これまで、杏里に対して、眉一筋動かさなかった冬美。
その冬美が、ただの道具に過ぎない杏里に対して、性的興奮の兆候を示しているのである。
杏里自身が、タナトスとして成長した証かもしれなかった。
杏里を使い捨ての駒としか見ていない冬美を、ここまでその気にさせるとは…。
私の魅力も、満更捨てたものじゃないってことね。
杏里は心の中で意地悪くほくそ笑んだ。
着やせする質の冬美は、意外に筋肉質の肢体をしている。
エナメルのハイレグ衣装が、今にもはちきれそうである。
その身体を誇示するように尻を振りながら、冬美が近づいてくる。
「そんなこと言って、私に”浄化”されたいの?」
負けじと胸を張って裸身を見せびらかしながら、挑発するように杏里は言った。
「タナトスを見張るのが任務のトレーナーが浄化されちゃったら、委員会に顔向けできないんじゃないの?」
「浄化だなんて、まさか」
冬美が、ふんと鼻で笑った。
「そこまでするつもりはないわ。ただちょっと、あなたと遊んでみたくなっただけ」
「うれしいよ。冬美さんが興味を持ってくれるだなんて」
不敵に笑って、杏里はそんな心にもないことを口にした。
「今まで私は、あなたにとって、虫けら同然の存在だったんだもの」
「虫けらは言い過ぎでしょ」
冬美がかすかに鼻白むのがわかった。
「私はただ、あなたたちを人間ときちんと区別したいだけ」
「区別っていうより、差別でしょ」
杏里の眉間に、一瞬、縦じわが刻まれた。
が、すぐに表情を和らげると、
「いいわ。相手になってあげる」
誘うように身体をくねらせた。
そっちがその気なら、こっちにも考えがある。
顔にかかる前髪を首を振って払いのけると、杏里は言った。
「でも、鞭はやめて。どうせなら、その手でじかにいじめてちょうだい」
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