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第9部 倒錯のイグニス
#244 心の準備②
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「お、お願いだから、杏里。これ以上、僕を誘惑しないで! 明日ちゃんと手伝うからさあ!」
重人が怒ったように身を引いた。
気のせいか、眼鏡が涙でくもっているようだ。
「ふん、泣かないでよ。じゃ、話、戻すからね。問題は、どうしてヤチカさんたちが学校にきたかってこと」
重人の股間から手を放して、杏里は言った。
「こう考えてみたら? ヤチカさんは、きっと向こうに寝返ったのさ」
やけになったように、重人が答えた。
「向こうって?」
「裏委員会に決まってるだろ。きっとあの男も、裏委員会所属の外来種なんじゃないかな」
「まさか…あのヤチカさんが、なんでそんなことを…」
杏里の眼が丸くなる。
「だって、考えてもみなよ。彼女はもともと、外来種なんだぜ? いってみれば、僕らの敵なんだ」
「そ、それは、そうだけどさ…でも」
世にも珍しい、両性具有の外来種。
それがヤチカの正体だ。
が、零に去勢されて以来、ヤチカは零と同じ雌外来種として生まれ変わったのだ。
「けど、それはあくまでも生物学的な問題でしょ? ヤチカさんの心はれっきとした人間だよ」
むきになって反論する杏里を、重人がやんわりと遮った。
「まあ、君が昔の恋人を弁護したい気持ちはわからないでもないけどね。でも、心なんてあてにならないと思うよ。肉体あっての精神であり、意識だからさ。意識なんて、しょせん神経の電気刺激の集合体にすぎないじゃん。つまるところ、ネット上の仮想空間みたいなもんなんだぜ」
「何偉そうにわけわかんないこと言ってんのよ! もしあんたの言う通りだとしたら、凛子とふみは何なのよ!」
「あのふたりも君の敵なんだろ? だったら裏委員会と利害が一致するんじゃないのかい?」
「利害って?」
「ここまで説明してもわかんないの? 杏里、君だよ。双方に共通する項目ってのはね、笹原杏里、君なんだよ」
「つまり、明日のイベントのどさくさにまぎれて、裏委員会が、私を狙うってこと?」
己の鈍さにあきれながら、ようやくのことで、杏里は言った。
「たぶんね。それしか考えられないもん」
教科書を開き、シャープペン回しを再開する重人。
「さあ、そうとわかったら、きょうはさっさと帰って明日の準備をしなよ。帰りのバスの中で、明日のリハーサルをしておくってのもいいんじゃない?」
重人はもう杏里の相手をする気はないようだった。
「わかったよ」
しぶしぶ杏里は椅子から腰を上げた。
「その代わり、絶対逃げないでよね。私が迎えに来るまで、ずっとここに隠れてるんだよ」
「はいはい」
気のない重人の返事を背中で聞きながら、部室を出た。
見上げると、いつの間にか、陽が傾きかけていた。
バスの中で、リハーサルか。
帰る前に、それもいいかもね。
早足で歩きながら、杏里はふとそんなことを思った。
重人が怒ったように身を引いた。
気のせいか、眼鏡が涙でくもっているようだ。
「ふん、泣かないでよ。じゃ、話、戻すからね。問題は、どうしてヤチカさんたちが学校にきたかってこと」
重人の股間から手を放して、杏里は言った。
「こう考えてみたら? ヤチカさんは、きっと向こうに寝返ったのさ」
やけになったように、重人が答えた。
「向こうって?」
「裏委員会に決まってるだろ。きっとあの男も、裏委員会所属の外来種なんじゃないかな」
「まさか…あのヤチカさんが、なんでそんなことを…」
杏里の眼が丸くなる。
「だって、考えてもみなよ。彼女はもともと、外来種なんだぜ? いってみれば、僕らの敵なんだ」
「そ、それは、そうだけどさ…でも」
世にも珍しい、両性具有の外来種。
それがヤチカの正体だ。
が、零に去勢されて以来、ヤチカは零と同じ雌外来種として生まれ変わったのだ。
「けど、それはあくまでも生物学的な問題でしょ? ヤチカさんの心はれっきとした人間だよ」
むきになって反論する杏里を、重人がやんわりと遮った。
「まあ、君が昔の恋人を弁護したい気持ちはわからないでもないけどね。でも、心なんてあてにならないと思うよ。肉体あっての精神であり、意識だからさ。意識なんて、しょせん神経の電気刺激の集合体にすぎないじゃん。つまるところ、ネット上の仮想空間みたいなもんなんだぜ」
「何偉そうにわけわかんないこと言ってんのよ! もしあんたの言う通りだとしたら、凛子とふみは何なのよ!」
「あのふたりも君の敵なんだろ? だったら裏委員会と利害が一致するんじゃないのかい?」
「利害って?」
「ここまで説明してもわかんないの? 杏里、君だよ。双方に共通する項目ってのはね、笹原杏里、君なんだよ」
「つまり、明日のイベントのどさくさにまぎれて、裏委員会が、私を狙うってこと?」
己の鈍さにあきれながら、ようやくのことで、杏里は言った。
「たぶんね。それしか考えられないもん」
教科書を開き、シャープペン回しを再開する重人。
「さあ、そうとわかったら、きょうはさっさと帰って明日の準備をしなよ。帰りのバスの中で、明日のリハーサルをしておくってのもいいんじゃない?」
重人はもう杏里の相手をする気はないようだった。
「わかったよ」
しぶしぶ杏里は椅子から腰を上げた。
「その代わり、絶対逃げないでよね。私が迎えに来るまで、ずっとここに隠れてるんだよ」
「はいはい」
気のない重人の返事を背中で聞きながら、部室を出た。
見上げると、いつの間にか、陽が傾きかけていた。
バスの中で、リハーサルか。
帰る前に、それもいいかもね。
早足で歩きながら、杏里はふとそんなことを思った。
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