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第10部 姦禁のリリス
#72 異変②
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「なんだって?」
呆気にとられ、小田切は高い鼻の上で眼鏡の位置を調節した。
モニター画面には、あのプールのような培養槽が映し出されている。
が、水面にも水面下にも、確かに何もない。
「そんな・・・いったい、どこに行ったというんだ?」
”黒体”というのは、杏里の体組織とふみが融合したあの謎の生命体の呼称である。
あれから新たに判明したのは、生命体に融合した第3のDNAが、変異外来種のものではなく、丸尾美里のものだという事実だった。
タナトス試作品、松尾美里。
攻守両方の機能を持たせたがために、暴走してしまった失敗作。
その美里の体組織が、なぜかふみの肉体に紛れ込んでいたのである。
”黒体”は、2日ほど前から新しい成長段階に入っていた。
2メートル以上あった球体が人の形に収縮し、周囲に胎盤のような肉の膜をこしらえて”繭”と化していたのだ。
まさか、あれが、羽化したというのだろうか・・・?
想像するだにおぞましいことだった。
杏里と美里とふみの融合体ー。
そんなものがこの世界に解き放たれたとしたら、それこそ大変なことになる。
茫然とモニター画面を見つめていると、背後でドアの開く気配がした。
「どうしたの?」
滑るように中に入ってくると、小田切の隣に立って、冬美が訊いた。
会議の後だけに、冬美はいつもの白衣ではなく、身体にぴったり合った暗色のスーツを着ている。
珍しく顔にメイクを施しているせいで、いつになく女っぷりが上がって見える。
が、性的な機能を欠いた小田切は、そんな冬美の変身ぶりにも無関心だ。
「黒体がいなくなった。どうやら脱走したらしい」
「そんな・・・警備は完璧なはずなのに」
モニター画面を凝視して、冬美が信じられないといった口調でつぶやいた。
「培養室の監視カメラも、通路の監視カメラも、全部なんらかの手段で無効化されているようです。申し訳ありません。今まで気づかなくって・・・」
リーダー格の女性職員が、頬を引きつらせて報告した。
「でも、ここを抜け出して、あれはいったい何をするつもりなの・・・?」
冬美が小田切の横顔に視線を移して、眉根を寄せた。
「あくまでこれは俺の予想だが・・・」
乾き切った上唇を舌の先で潤し、慎重に言葉を選んで小田切は答えた。
「たぶん、オリジナルの杏里の所に行こうとしてるんじゃないか・・・。君も見ただろう? あれの躰には、杏里の肉体のパーツがでたらめに復元されていた。あれの中で、杏里の成分が勝ってる証拠だと思うんだが・・・」
「ということは、あれを見つけて、この建物から出せば、自動的に杏里ちゃんの所に案内してくれるとか?」
「その可能性はある。ただし、今のあれがどんな姿をしているのかも不明なわけなんだがな」
小田切がそこまで口にした時だった。
入口のほうで、若い女性の悲鳴が上がった。
振り向くと、いつのまにか扉が全開になり、その矩形の枠を背景にして、ほっそりとした人影が立っていた。
廊下の明かりが逆光になって前面は見えないが、そのまろやかな身体のラインからして裸の少女のようである。
「ここに、ドクター・ヘリがあったよね」
こちらから声をかけるより早く、少女の影が言った。
「それを、すぐに出してほしいんだけど」
「お、おまえは・・・」
小田切は、絶句した。
少女の声が、イントネーションといい、声質といい、杏里のものにそっくりだったからだった。
呆気にとられ、小田切は高い鼻の上で眼鏡の位置を調節した。
モニター画面には、あのプールのような培養槽が映し出されている。
が、水面にも水面下にも、確かに何もない。
「そんな・・・いったい、どこに行ったというんだ?」
”黒体”というのは、杏里の体組織とふみが融合したあの謎の生命体の呼称である。
あれから新たに判明したのは、生命体に融合した第3のDNAが、変異外来種のものではなく、丸尾美里のものだという事実だった。
タナトス試作品、松尾美里。
攻守両方の機能を持たせたがために、暴走してしまった失敗作。
その美里の体組織が、なぜかふみの肉体に紛れ込んでいたのである。
”黒体”は、2日ほど前から新しい成長段階に入っていた。
2メートル以上あった球体が人の形に収縮し、周囲に胎盤のような肉の膜をこしらえて”繭”と化していたのだ。
まさか、あれが、羽化したというのだろうか・・・?
想像するだにおぞましいことだった。
杏里と美里とふみの融合体ー。
そんなものがこの世界に解き放たれたとしたら、それこそ大変なことになる。
茫然とモニター画面を見つめていると、背後でドアの開く気配がした。
「どうしたの?」
滑るように中に入ってくると、小田切の隣に立って、冬美が訊いた。
会議の後だけに、冬美はいつもの白衣ではなく、身体にぴったり合った暗色のスーツを着ている。
珍しく顔にメイクを施しているせいで、いつになく女っぷりが上がって見える。
が、性的な機能を欠いた小田切は、そんな冬美の変身ぶりにも無関心だ。
「黒体がいなくなった。どうやら脱走したらしい」
「そんな・・・警備は完璧なはずなのに」
モニター画面を凝視して、冬美が信じられないといった口調でつぶやいた。
「培養室の監視カメラも、通路の監視カメラも、全部なんらかの手段で無効化されているようです。申し訳ありません。今まで気づかなくって・・・」
リーダー格の女性職員が、頬を引きつらせて報告した。
「でも、ここを抜け出して、あれはいったい何をするつもりなの・・・?」
冬美が小田切の横顔に視線を移して、眉根を寄せた。
「あくまでこれは俺の予想だが・・・」
乾き切った上唇を舌の先で潤し、慎重に言葉を選んで小田切は答えた。
「たぶん、オリジナルの杏里の所に行こうとしてるんじゃないか・・・。君も見ただろう? あれの躰には、杏里の肉体のパーツがでたらめに復元されていた。あれの中で、杏里の成分が勝ってる証拠だと思うんだが・・・」
「ということは、あれを見つけて、この建物から出せば、自動的に杏里ちゃんの所に案内してくれるとか?」
「その可能性はある。ただし、今のあれがどんな姿をしているのかも不明なわけなんだがな」
小田切がそこまで口にした時だった。
入口のほうで、若い女性の悲鳴が上がった。
振り向くと、いつのまにか扉が全開になり、その矩形の枠を背景にして、ほっそりとした人影が立っていた。
廊下の明かりが逆光になって前面は見えないが、そのまろやかな身体のラインからして裸の少女のようである。
「ここに、ドクター・ヘリがあったよね」
こちらから声をかけるより早く、少女の影が言った。
「それを、すぐに出してほしいんだけど」
「お、おまえは・・・」
小田切は、絶句した。
少女の声が、イントネーションといい、声質といい、杏里のものにそっくりだったからだった。
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