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#35 パートナー③
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次から次へと言いつけられる雑用に追いまくられ、結局その日はファントムとの会話はかなわなかった。
そして翌朝。
玉はいつもより早起きすると、まだ家族が起きてこないうちに、家を出た。
トーストをかじりながら自転車をこぐ。
踏切で遮断機が上がるのを待っていると、
「玉」
後ろから声をかけられた。
振り向くと、懐かしいゴリラ顔が笑っていた。
「早いね」
玉は最後のパンの耳を飲み込んだ。
「玉に会いたかったんだ」
涼がはにかんだように言った。
「ほかのみんなに、見つかる前にさ」
「一緒に行こうか。美化委員に見つかっても、ふたりでいれば大丈夫だから」
きょうの玉は、きのうまでの玉とは違う。
なんだか、自信みたいなものが身体中にみなぎっている。
ファントムと再会できたせいかもしれない、と思う。
私はもう。ひとりじゃない。
その思いが、玉を強くしていた。
玉は自転車のハンドルを、涼のほうに差し出した。
「涼君のが力持ちでしょ、私を後ろに乗せて、走って」
が、玉たちの予測は、少々甘すぎたようだ。
学校が見えてくると、正門がものものしい雰囲気に包まれていることがわかってきた。
正門から校舎の玄関にかけて、二列に生徒たちが並んでいる。
美男美女が目立つところからして、どうやら中心は美会員たちらしい。
当然と言えば当然だが、きのう玉たちがあの工場を破壊して逃げたことが、すでにメルたちの耳にも届いている証拠に違いない。
「止めて」
ひとつ手前の角で、玉は自転車から降りた。
「どうしよう」
ごつい顔の造作の割に気弱な涼は、早くも泣かんばかりのありさまだ。
「ここで待ってて」
短く、玉は言った。
「私がなんとかするから。なんなら涼君はなんなら逃げちゃって」
「できないよ。そんなこと」
むっとして、涼が言い返した。
「それに、また変身するなら、そのしっぽ、引っ張る役が必要だろ」
「そうか。じゃ、離れないで」
涼を後ろに従え、玉は歩き出した。
「あ、いた!」
正門を固める生徒たちの間から声が上がった。
「総員、配置につけ」
朝の澄んだ空気の中に、メルの声が響き渡る。
「絶対逃がさないで。あのふたり、今度こそ、殺処分に付すのよ!」
そして翌朝。
玉はいつもより早起きすると、まだ家族が起きてこないうちに、家を出た。
トーストをかじりながら自転車をこぐ。
踏切で遮断機が上がるのを待っていると、
「玉」
後ろから声をかけられた。
振り向くと、懐かしいゴリラ顔が笑っていた。
「早いね」
玉は最後のパンの耳を飲み込んだ。
「玉に会いたかったんだ」
涼がはにかんだように言った。
「ほかのみんなに、見つかる前にさ」
「一緒に行こうか。美化委員に見つかっても、ふたりでいれば大丈夫だから」
きょうの玉は、きのうまでの玉とは違う。
なんだか、自信みたいなものが身体中にみなぎっている。
ファントムと再会できたせいかもしれない、と思う。
私はもう。ひとりじゃない。
その思いが、玉を強くしていた。
玉は自転車のハンドルを、涼のほうに差し出した。
「涼君のが力持ちでしょ、私を後ろに乗せて、走って」
が、玉たちの予測は、少々甘すぎたようだ。
学校が見えてくると、正門がものものしい雰囲気に包まれていることがわかってきた。
正門から校舎の玄関にかけて、二列に生徒たちが並んでいる。
美男美女が目立つところからして、どうやら中心は美会員たちらしい。
当然と言えば当然だが、きのう玉たちがあの工場を破壊して逃げたことが、すでにメルたちの耳にも届いている証拠に違いない。
「止めて」
ひとつ手前の角で、玉は自転車から降りた。
「どうしよう」
ごつい顔の造作の割に気弱な涼は、早くも泣かんばかりのありさまだ。
「ここで待ってて」
短く、玉は言った。
「私がなんとかするから。なんなら涼君はなんなら逃げちゃって」
「できないよ。そんなこと」
むっとして、涼が言い返した。
「それに、また変身するなら、そのしっぽ、引っ張る役が必要だろ」
「そうか。じゃ、離れないで」
涼を後ろに従え、玉は歩き出した。
「あ、いた!」
正門を固める生徒たちの間から声が上がった。
「総員、配置につけ」
朝の澄んだ空気の中に、メルの声が響き渡る。
「絶対逃がさないで。あのふたり、今度こそ、殺処分に付すのよ!」
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