赤いたぬきと緑のキツネ 

戸影絵麻

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「杏里ちゃん、ご指名だよ」
 古参の先輩藤原さんに耳打ちされて、
「ひっ」
 笹原杏里はうたたねから覚め、あやうく飛び上がりかけた。
 目の前にはPCのデスクトップ。
 生活安全課のホームページが映っている。
 春の交通安全をテーマにしたコラムの記事を考えている途中、ついウトウトしてしまったのだった。
 陽気が暖かくなったこともあるが、昨夜遅くまで、スマホでサブスクの配信ドラマを見ていたせいである。
 杏里は最近韓国初の犯罪モノに嵌っているのだ。
「あ、は、はい」
 藤原さんは受付窓口を目顔で示している。
 目をやると、そこにはふたつ、丸い顔が並んでいた。
「ちょっと、何よ、あんたたち」
 大きいほうに「よっ!」と声をかけられ、杏里は眉をひそめた。
 見覚えのある子供たちだった。
 見るからにガキ大将っぽいのが、神崎悟。
 その隣でおどおどとこちらを窺っている華奢な子が、田中千織。
 どちらも、管内にある市立知草小学校の5年生だ。
「なんで朝っぱらからこんなとこにいるわけよ」
「だってきょう土曜で学校休みだぜ。それに、どえらいニュース、持ってきてやったんだ」
 意味ありげに目をキラキラさせて、サトルが言った。
 職業柄、杏里は幼稚園や小学校の『交通安全教室』に出向くことが多い。
 とはいえ、まだ新人なので、役割は知れていて、着ぐるみの”ムーくん”の中に入って子供たちと遊ぶだけである。
 ”ムーくん”というのは、ここ知草区のマスコットキャラなのだが、茶色のジャガイモに目と口がついたような奇怪な姿をしていて、区民の評判はイマイチだ。
 そんなこともあってか、昨年の5月、初めて知草小を訪問した時に、杏里はあろうことか、いきなり襲撃されたのだった。
「きっもっ! 戦隊ものの怪人かよ!」
 そう叫んでドロップキックをかましてきたのが、神崎悟。
 脳震盪を起こして気絶した杏里が担ぎ込まれた病院の息子が、田中千織。
 だったというわけだ。
 それ以来、ふたりには、緑のおばさんの代わりに集団下校の見守りに出向く際などに声をかけられるようになり、今やすっかり友達扱いされているというわけなのだが…。
 ふたりそろって職場までやってくるのは、これが初めてだった。
「きのうさあ、俺たち、裏の里山でヤバいもん、みつけちゃってさあ」
 杏里の咎めるような視線をものともせず、大声でしゃべり出すサトル。
 その横から、
「もしかして、連続殺人事件、かもしれないんだよ」
 おずおずと千織が口をはさむ。
「は?」
 杏里は目を丸くした。
「殺人事件って、何それ」
「とにかく、一緒に来てくれよ」
「あのね、ここ、生活安全課だよ」
 杏里はわざとらしくため息をついた。
「そういうぶっそうな話は、2階の刑事課に行ってよね」
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