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第566話 人喰いの森⑩
一枚岩の上に仰臥するふたりは全身血にまみれており、ひと目で死んでいるとわかった。
恐怖に引きつった顔。
今にも眼球が零れ落ちそうなほど見開かれた両目。
そして何より、額の生え際に開いた10円玉ほどもある大きな穴・・・。
濃厚な血の匂いに、かすかに糞便の臭気が混じっているのは、ふたりのうちのどちらかが死に際して漏らしたからだろう。
ということは、これが断じて自然死などではなく、何か酷く恐ろしいことが起きたその何よりの証左ではないか。
「な、何があったんだ?」
ふらつきながら近づくと、
「脳がない」
絶叫の途中で息絶えたような優香の死に顔を指差して、佐和が言った。
「は?」
「見ろ。中は空洞だ」
佐和が指し示しているのは、優香の額に開いた赤い穴である。
吐き気をこらえてこわごわ覗いてみると、確かに穴の中はがらんどうのようで、底のほうに後頭部の裏側の血に濡れた白い骨の壁が鈍く光って見えている。
確かめてみると、小林の死体も優香のそれとまったく同じ状況だった。
「あり得ない・・・」
信じられないほど悲惨な光景を前にして、僕はうめいた。
ざっと見た限りでは、ふたりとも、額の穴以外にはどこにも傷を負っていないようだ。
この穴からストローのようなものを差し込んで、脳だけ吸い出したのだろうか。
でも、誰が?
いったい、どうやって?
「そういえば、これ、コテージにあった、あれと同じだよな」
ここへ来る前に、2階の和室の押し入れで見つけた3つの古い頭蓋骨。
あれにもみんな、ちょうど額の生え際あたりに杭を打ち込まれたような穴が開いていた。
あの頭蓋骨と、この優香と小林の死に、何か関係があるのだろうか?
たとえばこれらは同一犯の犯行で、あのコテージは実は殺人鬼の隠れ家だったとか・・・。
「ああ」
佐和は上の空の感じで軽くうなずき、警戒するみたいに暗くなってきた周囲を見回している。
僕はと言えば、ふたりの仲間の死体を目の当たりにしながら、不思議と悲しみは湧いてこなかった。
恐怖で心が麻痺してしまったのか、薄い膜を通して世界を見ているような非現実感が拭えないのだ。
「どうする? とりあえずは警察に通報か? どっちにしてもスマホは圏外だから、一度ここから出ないと、だが」
「待った」
踵を返そうとした僕を、佐和が制止した。
低く、唸るような声だった。
「気をつけろ。まだ近くにいる」
「いるって、何・・・うわああっ!」
佐和のほうを振り返りかけて、僕は思わず悲鳴を上げた。
バサバサと音を立てて、ふいに頭上から大きな黒い影が降ってきたのだ。
「いてっ!」
両肩に鋭い爪のようなものが食い込み、血が吹き出るのがわかった。
視界が黒々とした何かに遮られると、今度は凄まじい力で背中を木の幹に叩きつけられた。
こいつが、小林と優香を殺した犯人か?
「た、助けて!」
喉を嗄らして叫ぶと、
「待ってろ」
思いもかけぬほど近くで佐和の声がしてー。
恐怖に引きつった顔。
今にも眼球が零れ落ちそうなほど見開かれた両目。
そして何より、額の生え際に開いた10円玉ほどもある大きな穴・・・。
濃厚な血の匂いに、かすかに糞便の臭気が混じっているのは、ふたりのうちのどちらかが死に際して漏らしたからだろう。
ということは、これが断じて自然死などではなく、何か酷く恐ろしいことが起きたその何よりの証左ではないか。
「な、何があったんだ?」
ふらつきながら近づくと、
「脳がない」
絶叫の途中で息絶えたような優香の死に顔を指差して、佐和が言った。
「は?」
「見ろ。中は空洞だ」
佐和が指し示しているのは、優香の額に開いた赤い穴である。
吐き気をこらえてこわごわ覗いてみると、確かに穴の中はがらんどうのようで、底のほうに後頭部の裏側の血に濡れた白い骨の壁が鈍く光って見えている。
確かめてみると、小林の死体も優香のそれとまったく同じ状況だった。
「あり得ない・・・」
信じられないほど悲惨な光景を前にして、僕はうめいた。
ざっと見た限りでは、ふたりとも、額の穴以外にはどこにも傷を負っていないようだ。
この穴からストローのようなものを差し込んで、脳だけ吸い出したのだろうか。
でも、誰が?
いったい、どうやって?
「そういえば、これ、コテージにあった、あれと同じだよな」
ここへ来る前に、2階の和室の押し入れで見つけた3つの古い頭蓋骨。
あれにもみんな、ちょうど額の生え際あたりに杭を打ち込まれたような穴が開いていた。
あの頭蓋骨と、この優香と小林の死に、何か関係があるのだろうか?
たとえばこれらは同一犯の犯行で、あのコテージは実は殺人鬼の隠れ家だったとか・・・。
「ああ」
佐和は上の空の感じで軽くうなずき、警戒するみたいに暗くなってきた周囲を見回している。
僕はと言えば、ふたりの仲間の死体を目の当たりにしながら、不思議と悲しみは湧いてこなかった。
恐怖で心が麻痺してしまったのか、薄い膜を通して世界を見ているような非現実感が拭えないのだ。
「どうする? とりあえずは警察に通報か? どっちにしてもスマホは圏外だから、一度ここから出ないと、だが」
「待った」
踵を返そうとした僕を、佐和が制止した。
低く、唸るような声だった。
「気をつけろ。まだ近くにいる」
「いるって、何・・・うわああっ!」
佐和のほうを振り返りかけて、僕は思わず悲鳴を上げた。
バサバサと音を立てて、ふいに頭上から大きな黒い影が降ってきたのだ。
「いてっ!」
両肩に鋭い爪のようなものが食い込み、血が吹き出るのがわかった。
視界が黒々とした何かに遮られると、今度は凄まじい力で背中を木の幹に叩きつけられた。
こいつが、小林と優香を殺した犯人か?
「た、助けて!」
喉を嗄らして叫ぶと、
「待ってろ」
思いもかけぬほど近くで佐和の声がしてー。
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