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第306話 菌糸
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朝から日が翳っていた。
空から細かい糸切れのようなものが、際限なく降ってくるのである。
雪に似ているけど、溶けないところが違う。
よく見ると明らかに繊維質で、でもそんなに丈夫ではなく、引っ張るとすぐ千切れてしまう。
その現象は全国的なものらしく、社員食堂で見たお昼のニュースでもやっていた。
キャスターは正体不明と繰り返し、専門家の話ではキノコ類の菌糸に似ているとのことです、締めくくった。
その日は決算期で猛烈に忙しく、与えられた業務をすべて終えたのは、定時を1時間以上過ぎていた。
ママチャリにまたがり、全速力で保育園に向かう。
道中、町が妙に静かな気がしたが、こっちはそれどころではなかった。
私が息子を預けている保育園は時間に厳しく、迎えが遅れると法外な延長料金をとられてしまう。
這う這うの体でたどり着くと、正門の鉄扉が半開きになっていた。
もう全員帰ったのか、校庭は静まり返り、ひとりの子供の姿もない。
玄関口にエプロンをつけた人影が見えたので、急いで駈け寄った。
「すみませーん、さくら組の山田ちひろの母ですけど、仕事が長引いちゃいまして…」
作り笑いを顔に張り付け、必死に弁解する。
遅れて小言を言われるのは、今月何度目だろう。
でも、返事はなかった。
保母さんの様子、なんだか変だ。
玄関の切れかけた照明の下、薄暗がりに立つその姿。
顔に表情がなく、首の後ろから、何かが生えている。
まさか、キノコ?
その時になって、私は初めて気づいた。
廊下のそこここに、園児服を着た小さなキノコたちが生えている。
そんな…。
顔から血の気が引いていくのがわかった。
空から降ってきたものー。
あれは、人に寄生する冬虫夏草の菌糸だったのだ。
空から細かい糸切れのようなものが、際限なく降ってくるのである。
雪に似ているけど、溶けないところが違う。
よく見ると明らかに繊維質で、でもそんなに丈夫ではなく、引っ張るとすぐ千切れてしまう。
その現象は全国的なものらしく、社員食堂で見たお昼のニュースでもやっていた。
キャスターは正体不明と繰り返し、専門家の話ではキノコ類の菌糸に似ているとのことです、締めくくった。
その日は決算期で猛烈に忙しく、与えられた業務をすべて終えたのは、定時を1時間以上過ぎていた。
ママチャリにまたがり、全速力で保育園に向かう。
道中、町が妙に静かな気がしたが、こっちはそれどころではなかった。
私が息子を預けている保育園は時間に厳しく、迎えが遅れると法外な延長料金をとられてしまう。
這う這うの体でたどり着くと、正門の鉄扉が半開きになっていた。
もう全員帰ったのか、校庭は静まり返り、ひとりの子供の姿もない。
玄関口にエプロンをつけた人影が見えたので、急いで駈け寄った。
「すみませーん、さくら組の山田ちひろの母ですけど、仕事が長引いちゃいまして…」
作り笑いを顔に張り付け、必死に弁解する。
遅れて小言を言われるのは、今月何度目だろう。
でも、返事はなかった。
保母さんの様子、なんだか変だ。
玄関の切れかけた照明の下、薄暗がりに立つその姿。
顔に表情がなく、首の後ろから、何かが生えている。
まさか、キノコ?
その時になって、私は初めて気づいた。
廊下のそこここに、園児服を着た小さなキノコたちが生えている。
そんな…。
顔から血の気が引いていくのがわかった。
空から降ってきたものー。
あれは、人に寄生する冬虫夏草の菌糸だったのだ。
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