球体関節少女マナ

戸影絵麻

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#1 遺棄されたもの

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 それを見つけたのは、かつてのクラスメイトの通夜があった日のことだった。

 梅雨のさなかで、しとしとと陰鬱な雨が降っていた。

 場所はマンションのゴミ捨て場。

 喪服を脱ぎ、ひと息つこうとしたところで、明日が可燃ごみの収集日だと気づいた。

 忘れないうちにと思い、一週間分のゴミ袋片手に、外に出た。

 このワンルームマンションのごみ置き場は、マンションの外にある。

 種別ごとにブロック塀で仕切られ、上からネットがかかっている。

 真ん中の可燃物置き場のネットをめくった時だった。

 山のように積み上げられたゴミ袋の間から、裸の腕が突き出しているのが見えたのだ。

 さすがにどきっとした。

 まさか、と思いながら、おそるおそるゴミ袋をどかして、足元に積み上げていった。

 その”まさか”だった。

 ゴミ袋の下から現れたのは、全裸の少女の躰である。

 最初、死んでいるのかと思った。

 だが、よく見ると、様子が変だった。

 少女はぱっちりと目を開いたままなのだ。

 それに、関節のところに球みたいなものがあり、それで手足がつながっている。

「なんだ、人形じゃないか。脅かすなよ」

 安堵のあまり、つい声に出していた。
 
 それは、等身大の、非常に精巧につくられた少女の人形だった。

 球体関節人形というのだろうか。

 肘と膝のつなぎ目の部分、それから肩と股関節だけが、人間と異なり、球状に盛り上がっている。

 それにしても、誰が捨てたのだろう。

 袋にも入っていないし、第一、なんという趣味の悪さ。

 元のように、人形の上にゴミ袋を積み上げようとした時だった。

 ふいに、眼窩の中で少女の眼球がぎょろりと動き、まっすぐ僕を見つめると、ささやくような声で言ったのだ。

「待って。行かないで。私をここから出して」
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