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#4 悪戯
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息が詰まりそうになって、家を飛び出した。
鈴が通う青葉台中学までは、徒歩で10分ほどである。
ゴールデンウィークと梅雨の間の、よく晴れた朝だった。
通学路にさしかかると、白い夏服に衣替えした同級生たちの姿が見えてきた。
「おはよう」
思い切って、声をかける。
挨拶は社会生活の潤滑油。
誰に対しても、笑顔で元気に挨拶できる人になろう。
それが青葉台中学の校訓だった。
正直、知らない相手に挨拶するのは、内気な鈴には荷が重い。
が、入学して1年以上続けているせいで、さすがに慣れてきた。
なのに、なぜか今日に限って、挨拶が返ってこない。
鈴を見て意味ありげに目配せをし合う女生徒たち。
いきなり爆笑する男子の集団。
どうしたのだろう?
なんだか、いつもと雰囲気が違う・・・。
不安に苛まれながら、校門をくぐる。
正面玄関は生徒たちでにぎわっていた。
鈴が入っていくと、一瞬会話が途切れ、すぐにくすくす笑いに変わった。
中には露骨に顔をしかめる生徒もいるようだ。
上履きに履き替え、急ぎ足で2階への階段をのぼる。
鈴のクラスは、2年2組である。
階段を上がってふたつめの教室だ。
後ろの戸口が開いていた。
家を出るのがいつもより少し遅かったため、席はすでに半分以上埋まっている。
最後列の窓際が、鈴の席だった。
自分の席に急ごうとした時だ。
「来たぞ」
誰かの声に、鈴ははっと顔を上げた。
その瞬間、それが視界に入ってきた。
教室前のホワイトボードが、落書きで埋め尽くされている。
真ん中に古風な相合傘。
右側に、鈴の名前がある。
その左側を見るなり、鈴が危うく悲鳴を上げそうになった。
『鈴のパパ』
そう、書いてあるのだ。
ほかの落書きは、もっとひどかった。
それこそ、目を覆いたくなるほどだ。
『やりマン女』
『大好き! パパ』
『私、6歳からやってます』
『パパ、入れて!』
『近親相姦だあい好き!』
鈴の手からカバンが落ちた。
貧血を起こしたかのようにめまいがして、立っているのがやっとの状態だ。
くすくす笑いとひそひそ声が大きくなる。
耳をつんざくように、教室中に反響する。
そんな…まさか…。
歯の根が合わない。
バレてしまった?
パパと私だけの、儀式の秘密が・・・。
でも、どうして?
いったい、誰が?
その時だった。
「リン、これは・・・?」
ふと、背後から声がした。
振り向くと、真っ青な顔をした美咲が立っていた。
「美咲・・・」
鈴は声を絞り出した。
そういうことか、と腑に落ちる思いだった。
あの秘密を打ち明けた相手は、親友の美咲しかいない。
つまり、私はー。
よりによって、親友に裏切られたというわけだ・・。
鈴が通う青葉台中学までは、徒歩で10分ほどである。
ゴールデンウィークと梅雨の間の、よく晴れた朝だった。
通学路にさしかかると、白い夏服に衣替えした同級生たちの姿が見えてきた。
「おはよう」
思い切って、声をかける。
挨拶は社会生活の潤滑油。
誰に対しても、笑顔で元気に挨拶できる人になろう。
それが青葉台中学の校訓だった。
正直、知らない相手に挨拶するのは、内気な鈴には荷が重い。
が、入学して1年以上続けているせいで、さすがに慣れてきた。
なのに、なぜか今日に限って、挨拶が返ってこない。
鈴を見て意味ありげに目配せをし合う女生徒たち。
いきなり爆笑する男子の集団。
どうしたのだろう?
なんだか、いつもと雰囲気が違う・・・。
不安に苛まれながら、校門をくぐる。
正面玄関は生徒たちでにぎわっていた。
鈴が入っていくと、一瞬会話が途切れ、すぐにくすくす笑いに変わった。
中には露骨に顔をしかめる生徒もいるようだ。
上履きに履き替え、急ぎ足で2階への階段をのぼる。
鈴のクラスは、2年2組である。
階段を上がってふたつめの教室だ。
後ろの戸口が開いていた。
家を出るのがいつもより少し遅かったため、席はすでに半分以上埋まっている。
最後列の窓際が、鈴の席だった。
自分の席に急ごうとした時だ。
「来たぞ」
誰かの声に、鈴ははっと顔を上げた。
その瞬間、それが視界に入ってきた。
教室前のホワイトボードが、落書きで埋め尽くされている。
真ん中に古風な相合傘。
右側に、鈴の名前がある。
その左側を見るなり、鈴が危うく悲鳴を上げそうになった。
『鈴のパパ』
そう、書いてあるのだ。
ほかの落書きは、もっとひどかった。
それこそ、目を覆いたくなるほどだ。
『やりマン女』
『大好き! パパ』
『私、6歳からやってます』
『パパ、入れて!』
『近親相姦だあい好き!』
鈴の手からカバンが落ちた。
貧血を起こしたかのようにめまいがして、立っているのがやっとの状態だ。
くすくす笑いとひそひそ声が大きくなる。
耳をつんざくように、教室中に反響する。
そんな…まさか…。
歯の根が合わない。
バレてしまった?
パパと私だけの、儀式の秘密が・・・。
でも、どうして?
いったい、誰が?
その時だった。
「リン、これは・・・?」
ふと、背後から声がした。
振り向くと、真っ青な顔をした美咲が立っていた。
「美咲・・・」
鈴は声を絞り出した。
そういうことか、と腑に落ちる思いだった。
あの秘密を打ち明けた相手は、親友の美咲しかいない。
つまり、私はー。
よりによって、親友に裏切られたというわけだ・・。
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