黒い羊 ~ロスト・イノセント~

戸影絵麻

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#15 復讐

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 最新技術の粋を凝らした医療設備で埋め尽くされた空間に、巨大なシリンダーが屹立している。

 床から天井まであるその強化ガラスでつくられた円筒の中には、飴色の培養液が隙間なく詰まっている。

 その中に、無数の極細のチューブでつながれた全裸の少女が浮いている。

 髪を海藻のように泳がせ、硬く眼を閉じたその少女には、両手がない。

 その代わりに、肩のつけ根の部分にこんもりと肉の芽が盛り上がっていた。

「ようやく見つけましたよ、乾長官」
 
 たゆたう少女を見上げながら、感慨深げに矢崎は言った。

「これが、もう一匹の”黒い羊”です」

 矢崎が鈴を運び込んだのは、新たに設立された『外来生物研究所』の地下フロアである。

 M3号によって破壊された以前の施設の機器類やデータは、すべてここに移されている。

「M3号にも遭遇したそうだな」

 長身の初老の男、乾六郎が言った。

 乾はこの研究所のトップで、厚生労働省にも席があるエリート官僚だ。

「ええ、ですが、この子を連れて逃げるのが精一杯でした。あれはもはや完全に暴走していて、手のつけようがありません」

「放っておくと、大変なことになりそうだな」

「大規模な自然災害並みの脅威となりかねないでしょう。一刻も早く、息の根を止めないと」

「かといって、防衛出動で自衛隊を動かすわけにもいかんしな」

「いっそのこと、害獣駆除の名目にしたらどうですか? それなら首相の決断を仰ぐまでもない。火力も無制限で使えます」

「馬鹿言うな。M3号は、外見的には10代の少女なんだぞ。小娘ひとり抹殺するのに、戦車や戦闘機を出動させるというのか。そんなことしてみろ、自衛隊は非難の的、SNSは大炎上だ」

「ならば、この子に賭けるしかありませんね」

「ああ。だが、重傷を負っているようだが」

「大丈夫です。この子も人間じゃない。よく見てください。すでに新しい腕が生えかけている」

「なんだと・・・?」

 シリンダーに顔を寄せた乾の瞳が、驚きで見開かれる。

「この娘を鍛え上げ、M3号に差し向けるのです。人間としての生活が長かったらしく、今はまだ弱いですが、彼女も黒い羊です。完全に力を目覚めさせれば、あるいは・・・」

「それはいいが、慎重にやれ」

 はやる江崎に、乾が釘を刺した。

「決して私怨で動くんじゃない。私怨は人の目をくもらせる」

「わかってますよ」

 矢崎は口元に酷薄な微笑を浮かべた。

「でも、美晴の仇は、いつか必ず取らせていただきます」
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