上 下
19 / 60

18

しおりを挟む
「もうすぐですよ。そこのガソスタの角、右に曲がって手前から3件目」
 チャリで先を走る久保が言う。
 無駄にスカートを短くしているせいで、今にもパンツが見えそうだ。
 むっとしてあたしは叫び返す。
「ガソスタ? なんだよガソスタって? ゲソの足かよ?」
 ガソスタがガソリンスタンドの略語であることくらい、あたしも知っている。
 でもそもそも略語ってやつがどうしようもなく嫌いなのだから、これはしょうがない。
 いつぞやの東京オリンピックの時のオリパラと同じくらい虫唾が走る。
 ガソスタやオリパラに比べれば、まだスタバやブラビのほうがいくぶんマシな気がする。
 ちなみにわれわれ”アバタもエクボ”ペアも、略して『アバクボ』と呼ばれることが普通になりつつあるから、まったくもって嘆かわしい。
「あ、そっかー。ウタ子ちゃんそういうの嫌いだったね~、ごめんなさあい~」
 詫びながらも久保は笑っていて全然済まなさそうじゃない。
「むやみに略すな。頭が馬鹿になる」
 などと言い合っているうちに、鬱蒼とした樹木に囲まれた古風な家が二件、視界に入ってきた。
「奥がうち、手前が源さんちでーす」
 舗道にチャリを止めると、制服のミニひだスカートをなびかせて、ためらいもなく源さんちの前に立つ久保。
 久保のミニに比べると、続いてチャリから降りた私のスカートは、『スケバン刑事』くらいの長さがある。
「いくらなんでもこんな明るいうちからいないだろ。だってその源さんって人、鑑識課の職員・・・」
 と。
 言い募るあたしの言葉を遮るように門の中から聞えてきたのは、
「やあ、亜美ちゃん、待ってたよ」
 なる、どこぞのオッサンの声。
 見ると車寄せに竹ぼうきを抱えた好々爺がひとり、にこやかな笑みを浮かべて佇んでいた。
しおりを挟む

処理中です...