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第2部 ヒバナ、フィーバードリーム!

#2 闇から来た少女

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「おいヒバナ、おまえ、何考えてるんだ?」

 石段の上に放り出したリュックの中から、声がした。

 のそのそ出てきたのは、エメラルドグリーンのカメレオン、レオンである。

「今変身したら、変身が解けた後、また素っ裸だぞ!」

 そうだった。

 大きく跳躍しながら、ヒバナは心の中で舌打ちした。

 身体の変化に伴い、すでに服は破れて千切れ飛んでしまっている。

 変身が解けると、肉体は元に戻るが、当然のことながら千切れ飛んだ服は元には戻らないのだ。

「そんなこといってる場合じゃないよ! その子を連れて安全なところに逃げて!」

 境内に着地すると、間髪を入れず、黒い影が遅いかかってきた。

 横っ飛びにジャンプして、腕の一撃をかわすヒバナ。

 なんだろう?

 闇に目を凝らしながら、思う。

 鬼だろうか。

 体長は2メートルを超え、逆三角形のがっしりした体格をしている。

 腕力では勝てそうもない。

 ここはスピード重視で戦うほかないだろう。

「えい!」

 両腕を振る。

 鋭角のヒレが手首から上腕部にかけて現れた。

 次の攻撃を避けて、今度は敵の胸元に飛び込んだ。

 疾走しながら両腕をクロスさせ、刃物のようなヒレで丸太のような足を叩き切る。

 ぐおうっ!

 苦悶の叫びを上げ、化け物の身体が傾いた。

 脚の間をすり抜けて背後に回ると、ヒバナは垂直にジャンプした。

 空中で回転しながら、オーバーヘッドキックの要領で敵の後頭部を蹴り上げる。

 着地寸前に右足を大きく旋回させ、太腿の外側に生えたヒレでその頸動脈を断ち切った。

 がうっ!

 前のめりに倒れる怪物。

 首筋から奔流のように血潮がしぶき、やがてがっくりとくず折れて動かなくなった。

「やるじゃない」

 声をかけられ、振り返ると少女が立っていた。

 が、声は少女の発したものではないようだ。

 もっと年配の女性の声だったような気がする。

 見ると、少女の肩のあたりであのマフラーが動いていた。

 いや、マフラーではなかった。

 ピンク色の、大きな芋虫である。

「ミミの予言が当たったね」

 その芋虫に向かって、少女が言った。

「こんなところに、仲間がいたなんて」

「仲間?」

 ヒバナは目を見開いた。

「あなた、常世につながる者でしょ?」

 ヒバナのほうを向いて、少女が言った。

「私はひずみ。こっちはミミ。よろしくね」






 
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