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第3部 ヒバナ、デッド・オア・アライブ!
#17 ヒバナ、ファイナルアタック!
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胃の中が次第に温かくなる。
絶え間なく続いていた痛みが嘘のように引いていく。
ひずみは立ち上がった。
体から放射状に伸びていた無数の黒い触手が陽炎のように揺らいだかと思うと、次の瞬間、跡形もなくかき消えた。
そのかわりに、ひずみのか細い両の肩から、何本もの光の糸が現れた。
それは上空で大きな花のように広がると、複雑に絡み合い、輝く光の網となってヒバナの体の上にゆっくり舞い降りていった。
癒しのオーラに包まれ、ミイラのごとくひからびかけていたヒバナの横顔に生気が戻っていく。
半ば乾きかけていた目に、光が宿った。
ううう…。
ひずみは懸命に念を込めた。
ここでやめるわけにはいかない。
せめて、ヒバナの出血を止めなければ・・・。
だが、効果は長くは続かなかった。
自分でも、力が急速に弱まっていくのがわかる。
食べた肉片が小さすぎたのだ。
でも、ミミの体はほとんど真っ黒で、ひずみが切り取った部分以外、もう無事なところは残っていなかった・・・。
必死の面持ちで見守るひずみの視線の先で、ヒバナが壊れたぜんまい仕掛けの人形のように、のろのろともがいていた。
両腕のない状態で、立ち上がろうとしているのだった。
額を支点にして体をねじり、なんとか座った姿勢になると、今度は脚だけで、何度も転びそうになりながら、立ち上がった。
そして、歩き出した。
腕の切断面からぼたぼたと血の塊を落としながら、レオンのほうに向かってよろよろと近づいていく。
気配を感じたのか、レイナが振り向いた。
「お、おまえ・・・!」
目を見開いた。
さすがに驚いているようだった。
珍しく、形相が変わっている。
が、ヒバナの歩みはあまりにも遅かった。
体を右に左にぎこちなく振りながら、生きる屍のような足取りで、少しずつレオンに歩み寄っていく。
あまりに痛々しい姿だった。
「ヒバナ!」
見ていられなくなり、ひずみは走り出した。
せめて体を支えてやろうと思ったのだ。
そのとき、レイナが怒声を放った。
「くそっ、死ね!」
鞭がうなる。
空中に大きくXの字を描くように、凶器と化した鞭がヒバナを襲う。
強烈な一撃だった。
ヒバナの体が、腹のあたりで真っ二つに分断された。
上半身がぐらりと前のめりに傾き、
ふいに内側から爆発したように皮膚が裂け、肉が飛び散り、血にまみれたあばら骨が飛び出した。
内臓と血液を撒き散らし、ヒバナの上半分がレイナの足元に重い音を立てて落下する。
血だるまの下半身が、氷の上をひずみの目の前まで滑ってきた。
ひずみは嘔吐した。
切断面から背骨と肋骨をあらわにして横たわるヒバナの後頭部を、レイナが尖ったヒールの踵で思いっきり踏みつける。
頭蓋が割れ、血と脳漿がヒバナの頬を伝う。
「くらえ!」
ヒールの踵を傷口から引き抜き、レイナがもう一度、ヒバナの割れた頭部を渾身の力で踏みつけようとした、そのときだった。
誰かが、レイナのくびれた腰に後ろからしがみついた。
「やめろ!」
いつの間にそこにいたのか。
光男だった。
全裸の光男が、腰にしっかりしがみつき、完全にレイナの動きを封じている。
「グッジョブ!」
レオンが叫んだ。
「亜空間の入り口、移動させておいて正解だったな」
ヒバナたちが入ってきたあの次元の開口部。
それが今はちょうどレイナの死角に当たる位置に開いている。
レオンの仕業だった。
かなり根気の要る作業だったが、レイナの拷問であの"力”が目覚めた今なら造作ない。
レイナと禅問答して時間を稼いでいる間に、レオンはレオンなりに策をめぐらせていたのだった。
動く前脚を使って、切断されたヒバナの上半身のほうににじり寄る。
血の海の中、ヒバナは開いた瞳孔でうつろに虚空を見つめている。
・・・間に合ってくれ。
レオンは生まれて初めて、神に祈った。
ヒバナが完全にこと切れたら、すべてが終わってしまうのだ。
「痛かったな、ヒバナ。ごめんな」
元気だった頃のヒバナの笑顔が脳裏をよぎる。
目立たない平凡な少女だった。
でも、一生懸命、彼女なりに生きていたのだ。
その人生を、このオレが、台無しにしてしまった・・。
ヒバナの額の中央に光る青い宝石に、そっと鼻先の角を触れさせる。
ガラス玉のようなヒバナの瞳の奥で、ふと何かが揺れたようだった。
「お待たせ、ヒバナ。オレが第三の竜だ。この命、おまえにくれてやる」
レオンの体が突然発光した。
めくるめく輝きが、ヒバナを包み込む。
レイナが何か叫んだ。
そして。
"それ"が現れた。
見上げるほど、巨大な竜だった。
体中が青銅色のうろこで覆われ、黄金色の瞳のない目でじっとレイナを見下ろしている。
「青竜・・・」
金縛りにあったように立ち尽くしたまま、頭上の竜を見つめ、レイナは放心したようにつぶやいた。
レオンが、青竜だったのか。
うかつだった。
あの、どうしても破れなかったレオンの心の奥の殻。
あれは、四神獣、青竜としての隠れた自我だったのだ。
黒子を使ってカイを潰し、ミミを拉致して治癒能力を猛毒体質に変えてやった。
光男を性の奴隷として操り、ヒバナにGPS代わりのイヤリングをつけさせ、腕輪を盗み、変身できなくした。そしてレオンを囮にここ根の国におびき出し、ほとんど瀕死の状態にまで追い込んだのだ。
完璧な計画だったはずである。
それが、まさかこんなことになろうとは・・・。
「許さない」
巨大な竜が、ヒバナの声で言った。
「な、何をする気・・・?」
レイナの言葉が、ふいに途切れた。
竜が首を横に振り、その耳まで避けた顎で、
レイナの頭を一瞬にして食いちぎったのだった。
絶え間なく続いていた痛みが嘘のように引いていく。
ひずみは立ち上がった。
体から放射状に伸びていた無数の黒い触手が陽炎のように揺らいだかと思うと、次の瞬間、跡形もなくかき消えた。
そのかわりに、ひずみのか細い両の肩から、何本もの光の糸が現れた。
それは上空で大きな花のように広がると、複雑に絡み合い、輝く光の網となってヒバナの体の上にゆっくり舞い降りていった。
癒しのオーラに包まれ、ミイラのごとくひからびかけていたヒバナの横顔に生気が戻っていく。
半ば乾きかけていた目に、光が宿った。
ううう…。
ひずみは懸命に念を込めた。
ここでやめるわけにはいかない。
せめて、ヒバナの出血を止めなければ・・・。
だが、効果は長くは続かなかった。
自分でも、力が急速に弱まっていくのがわかる。
食べた肉片が小さすぎたのだ。
でも、ミミの体はほとんど真っ黒で、ひずみが切り取った部分以外、もう無事なところは残っていなかった・・・。
必死の面持ちで見守るひずみの視線の先で、ヒバナが壊れたぜんまい仕掛けの人形のように、のろのろともがいていた。
両腕のない状態で、立ち上がろうとしているのだった。
額を支点にして体をねじり、なんとか座った姿勢になると、今度は脚だけで、何度も転びそうになりながら、立ち上がった。
そして、歩き出した。
腕の切断面からぼたぼたと血の塊を落としながら、レオンのほうに向かってよろよろと近づいていく。
気配を感じたのか、レイナが振り向いた。
「お、おまえ・・・!」
目を見開いた。
さすがに驚いているようだった。
珍しく、形相が変わっている。
が、ヒバナの歩みはあまりにも遅かった。
体を右に左にぎこちなく振りながら、生きる屍のような足取りで、少しずつレオンに歩み寄っていく。
あまりに痛々しい姿だった。
「ヒバナ!」
見ていられなくなり、ひずみは走り出した。
せめて体を支えてやろうと思ったのだ。
そのとき、レイナが怒声を放った。
「くそっ、死ね!」
鞭がうなる。
空中に大きくXの字を描くように、凶器と化した鞭がヒバナを襲う。
強烈な一撃だった。
ヒバナの体が、腹のあたりで真っ二つに分断された。
上半身がぐらりと前のめりに傾き、
ふいに内側から爆発したように皮膚が裂け、肉が飛び散り、血にまみれたあばら骨が飛び出した。
内臓と血液を撒き散らし、ヒバナの上半分がレイナの足元に重い音を立てて落下する。
血だるまの下半身が、氷の上をひずみの目の前まで滑ってきた。
ひずみは嘔吐した。
切断面から背骨と肋骨をあらわにして横たわるヒバナの後頭部を、レイナが尖ったヒールの踵で思いっきり踏みつける。
頭蓋が割れ、血と脳漿がヒバナの頬を伝う。
「くらえ!」
ヒールの踵を傷口から引き抜き、レイナがもう一度、ヒバナの割れた頭部を渾身の力で踏みつけようとした、そのときだった。
誰かが、レイナのくびれた腰に後ろからしがみついた。
「やめろ!」
いつの間にそこにいたのか。
光男だった。
全裸の光男が、腰にしっかりしがみつき、完全にレイナの動きを封じている。
「グッジョブ!」
レオンが叫んだ。
「亜空間の入り口、移動させておいて正解だったな」
ヒバナたちが入ってきたあの次元の開口部。
それが今はちょうどレイナの死角に当たる位置に開いている。
レオンの仕業だった。
かなり根気の要る作業だったが、レイナの拷問であの"力”が目覚めた今なら造作ない。
レイナと禅問答して時間を稼いでいる間に、レオンはレオンなりに策をめぐらせていたのだった。
動く前脚を使って、切断されたヒバナの上半身のほうににじり寄る。
血の海の中、ヒバナは開いた瞳孔でうつろに虚空を見つめている。
・・・間に合ってくれ。
レオンは生まれて初めて、神に祈った。
ヒバナが完全にこと切れたら、すべてが終わってしまうのだ。
「痛かったな、ヒバナ。ごめんな」
元気だった頃のヒバナの笑顔が脳裏をよぎる。
目立たない平凡な少女だった。
でも、一生懸命、彼女なりに生きていたのだ。
その人生を、このオレが、台無しにしてしまった・・。
ヒバナの額の中央に光る青い宝石に、そっと鼻先の角を触れさせる。
ガラス玉のようなヒバナの瞳の奥で、ふと何かが揺れたようだった。
「お待たせ、ヒバナ。オレが第三の竜だ。この命、おまえにくれてやる」
レオンの体が突然発光した。
めくるめく輝きが、ヒバナを包み込む。
レイナが何か叫んだ。
そして。
"それ"が現れた。
見上げるほど、巨大な竜だった。
体中が青銅色のうろこで覆われ、黄金色の瞳のない目でじっとレイナを見下ろしている。
「青竜・・・」
金縛りにあったように立ち尽くしたまま、頭上の竜を見つめ、レイナは放心したようにつぶやいた。
レオンが、青竜だったのか。
うかつだった。
あの、どうしても破れなかったレオンの心の奥の殻。
あれは、四神獣、青竜としての隠れた自我だったのだ。
黒子を使ってカイを潰し、ミミを拉致して治癒能力を猛毒体質に変えてやった。
光男を性の奴隷として操り、ヒバナにGPS代わりのイヤリングをつけさせ、腕輪を盗み、変身できなくした。そしてレオンを囮にここ根の国におびき出し、ほとんど瀕死の状態にまで追い込んだのだ。
完璧な計画だったはずである。
それが、まさかこんなことになろうとは・・・。
「許さない」
巨大な竜が、ヒバナの声で言った。
「な、何をする気・・・?」
レイナの言葉が、ふいに途切れた。
竜が首を横に振り、その耳まで避けた顎で、
レイナの頭を一瞬にして食いちぎったのだった。
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