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第4部 ヒバナ、エンプティハート!
#10 パートナー
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緋美子は異様な姿をしていた。
手首から先が鋭い鉤爪に変化した右腕。
まるで、真っ白な体毛に覆われた虎の前足のようだ。
左腕は、右腕とはうってかわって海亀の甲羅を思わせる頑丈そうな盾と化している。
それは、変身というにはあまりにもアンバランスな姿だった。
ー白虎と玄武・・・こやつ、いったい何者だ?-
ヒバナの頭の中でレオンがうめいた。
「緋美子ちゃん、あなた・・・」
ヒバナがそう声をかけたとき、魔物が動いた。
ざざっと鞭のように触手が伸び、一斉に緋美子めがけて襲いかかる。
が、緋美子の攻撃のほうが一瞬速かった。
敵の懐に飛び込むなり、虎の右腕が半円を描く。
魔物が悲鳴を上げた。
分断された触手が宙を舞う。
緋美子が右に左に目にも留まらぬ速さで動き、鉤爪で魔物の胴を袈裟切りにする。
茶褐色の体液を噴水のごとく撒き散らしながら、どうっと魔物が仰向けにひっくり返ったとき、ヒバナは見た。
ずっと先、路地の入り口あたりから何かがこちらにすごいスピードで向かってくる。
巨大なメカジキに鷲の羽をつけたような、別の魔物だ。
鼻先から伸びたフェンシングの剣のような長い角が、まっすぐに緋美子を狙っている。
とっさにヒバナは腕輪に手をやった。
リングを回しかけて、ふとためらう。
しまった。戦闘服、きょうは着てないじゃん!
体にフィットした黄色のTシャツに白いミニスカート、というのが現在のヒバナの出で立ちである。
つまりこれは、変身するなり服と下着は四散し、戦闘が終わって人間に戻ったときには確実に全裸になることを、暗に意味している。
と、ヒバナの躊躇を見透かしたように、倒れていたイソギンチャク状の魔物が、突然新たな触手を何本も放ち、後ろから緋美子の手足を絡めとった。
そこに、飛翔型の魔物が突っ込んでくる。
間一髪、緋美子が左腕の盾で角の一撃を跳ね返す。
反動で、バランスを崩した。
触手に絡めとられたまま、仰向けの格好で宙吊りにされてしまう。
上空に飛び退り、大きく旋回して、飛翔タイプのほうが再度突入を試みる。
緋美子のスカートが風にあおられ、下半身が下腹のあたりまでむき出しになる。
なめらかなその腹部を狙い、魔物が下降を開始した。
もう迷っている場合ではなかった。
「むむむむ!」
リングを青竜の位置に合わせ、変身が始まると同時にヒバナは跳躍した。
右腕の外側に生えてきた大きなカミソリ状のひれで、すれ違いざま敵の翼をぶった切る。
反転して地上に降り立ったときには、変身は完了していた。
路上に落下してもがく魔物めがけて、強烈な回し蹴りを食らわせる。
太腿に生えたひれが、一瞬にしてその首を切断した。
振り向くなり、緋美子を捕らえている魔物の触手を左腕のひれでなぎ払う。
自由になった緋美子が後方に大きく飛びのいた。
「ああ、青竜って、火竜の技も使えるんだ。さすが竜の王様」
ヒバナは右手をイソギンチャク状の魔物に向けながら、そんなことを言う。
「では、遠慮なく」
にやりとうろこだらけの顔で笑い、
「ファイア!」
と叫んだ。
掌に生まれたプラズマ火球が、螺旋を描いて飛ぶ。
魔物が絶叫し、燃え上がった。
「もう一匹」
左手を振ると、もう一つ火球が生まれ、胴と首を寸断された飛翔タイプの魔物を襲う。
これも見事に命中した。
暗かった路地が、赤々とした炎で昼間のように明るくなる。
見ると、緋美子の変身はもうほとんど解けかけていた。
変異したのが腕だけなので、人間に戻っても緋美子の服は元のままである。
問題はヒバナのほうだった。
体長2メートルを超える青竜に変身すると、普通の服はあとかたもなく破れてしまうのだ。
ちょうど、今がそうであるように。
「何かないかな」
見回すと、近くの雑居ビルの非常階段の下に、工事用の青いビニールシートがたたんで置いてあるのが目に入った。
鋭い爪で首を出す穴を開け、適当なサイズに裁断し、頭からかぶる。
そこで初めて腕輪を操作し、変身を解いた。
今時ホームレスでさえこんな格好はしないだろうと思われる、妖怪油すましのような女ができあがる。
「い、今の、何だったんですか・・・?」
荒い息を吐きながら、緋美子がたずねてきた。
信じられないといったふうに自分の体を見回し、次に燃えている二匹の魔物に目をやった。
「あれは根の国っていう、いわば地獄みたいなところから沸いてくる化け物なの。でも、びっくりしたなあ。緋美子ちゃんもその・・・わたしと同じ、"常世の戦士"だったなんて」
竜から今度は油すましと化したヒバナが、感に堪えないといった口調で言う。
「"常世の戦士"?」
緋美子が小声で聞き返す。
「それ、正式名称じゃなくて、わたしが仮につけた名前なんだけど、でも、ちょっとかっこいいと思わない? 常世の戦士って」
「何ですか、それ。それから、私、いったいどうなったんですか? ヒバナさんも、何か、その、怪物みたいな姿に変わったような・・・。あれ、全部、夢だったんでしょうか・・・」
「話すと長くなるから、そうだ、デニーズにでも行こうか。そこで話してあげるよ」
ひらめいた、という感じでヒバナが言うと。
「はい・・・。でも、ヒバナさん、その格好では、お店、入れてもらえないんじゃ・・・」
緋美子が控えめながら、痛いところを突いてきた。
「あ、あははは、それもそうだね」
笑ってごまかすヒバナ。
「じゃ、わたしんちに行こう。この時間なら、ママ、まだ帰ってないし、ここから近いし」
ヒバナの母、薫は介護福祉士である。
仕事のほとんどは、娘に輪をかけた夜勤である。
朝の5時過ぎに戻ってくるのが普通なのだ。
「安奈が心配なので、あんまり長い時間は無理ですけど・・・あした、学校もあるし」
「そだね。じゃ、1時間ぐらいならいいかな。夜食くらい出すよ。食べてってね」
ビニールシートを頭からかぶったヒバナは、そう言うなり、よたよたとペンギンのように覚束ない足取りで、先頭に立って歩き出した。
手首から先が鋭い鉤爪に変化した右腕。
まるで、真っ白な体毛に覆われた虎の前足のようだ。
左腕は、右腕とはうってかわって海亀の甲羅を思わせる頑丈そうな盾と化している。
それは、変身というにはあまりにもアンバランスな姿だった。
ー白虎と玄武・・・こやつ、いったい何者だ?-
ヒバナの頭の中でレオンがうめいた。
「緋美子ちゃん、あなた・・・」
ヒバナがそう声をかけたとき、魔物が動いた。
ざざっと鞭のように触手が伸び、一斉に緋美子めがけて襲いかかる。
が、緋美子の攻撃のほうが一瞬速かった。
敵の懐に飛び込むなり、虎の右腕が半円を描く。
魔物が悲鳴を上げた。
分断された触手が宙を舞う。
緋美子が右に左に目にも留まらぬ速さで動き、鉤爪で魔物の胴を袈裟切りにする。
茶褐色の体液を噴水のごとく撒き散らしながら、どうっと魔物が仰向けにひっくり返ったとき、ヒバナは見た。
ずっと先、路地の入り口あたりから何かがこちらにすごいスピードで向かってくる。
巨大なメカジキに鷲の羽をつけたような、別の魔物だ。
鼻先から伸びたフェンシングの剣のような長い角が、まっすぐに緋美子を狙っている。
とっさにヒバナは腕輪に手をやった。
リングを回しかけて、ふとためらう。
しまった。戦闘服、きょうは着てないじゃん!
体にフィットした黄色のTシャツに白いミニスカート、というのが現在のヒバナの出で立ちである。
つまりこれは、変身するなり服と下着は四散し、戦闘が終わって人間に戻ったときには確実に全裸になることを、暗に意味している。
と、ヒバナの躊躇を見透かしたように、倒れていたイソギンチャク状の魔物が、突然新たな触手を何本も放ち、後ろから緋美子の手足を絡めとった。
そこに、飛翔型の魔物が突っ込んでくる。
間一髪、緋美子が左腕の盾で角の一撃を跳ね返す。
反動で、バランスを崩した。
触手に絡めとられたまま、仰向けの格好で宙吊りにされてしまう。
上空に飛び退り、大きく旋回して、飛翔タイプのほうが再度突入を試みる。
緋美子のスカートが風にあおられ、下半身が下腹のあたりまでむき出しになる。
なめらかなその腹部を狙い、魔物が下降を開始した。
もう迷っている場合ではなかった。
「むむむむ!」
リングを青竜の位置に合わせ、変身が始まると同時にヒバナは跳躍した。
右腕の外側に生えてきた大きなカミソリ状のひれで、すれ違いざま敵の翼をぶった切る。
反転して地上に降り立ったときには、変身は完了していた。
路上に落下してもがく魔物めがけて、強烈な回し蹴りを食らわせる。
太腿に生えたひれが、一瞬にしてその首を切断した。
振り向くなり、緋美子を捕らえている魔物の触手を左腕のひれでなぎ払う。
自由になった緋美子が後方に大きく飛びのいた。
「ああ、青竜って、火竜の技も使えるんだ。さすが竜の王様」
ヒバナは右手をイソギンチャク状の魔物に向けながら、そんなことを言う。
「では、遠慮なく」
にやりとうろこだらけの顔で笑い、
「ファイア!」
と叫んだ。
掌に生まれたプラズマ火球が、螺旋を描いて飛ぶ。
魔物が絶叫し、燃え上がった。
「もう一匹」
左手を振ると、もう一つ火球が生まれ、胴と首を寸断された飛翔タイプの魔物を襲う。
これも見事に命中した。
暗かった路地が、赤々とした炎で昼間のように明るくなる。
見ると、緋美子の変身はもうほとんど解けかけていた。
変異したのが腕だけなので、人間に戻っても緋美子の服は元のままである。
問題はヒバナのほうだった。
体長2メートルを超える青竜に変身すると、普通の服はあとかたもなく破れてしまうのだ。
ちょうど、今がそうであるように。
「何かないかな」
見回すと、近くの雑居ビルの非常階段の下に、工事用の青いビニールシートがたたんで置いてあるのが目に入った。
鋭い爪で首を出す穴を開け、適当なサイズに裁断し、頭からかぶる。
そこで初めて腕輪を操作し、変身を解いた。
今時ホームレスでさえこんな格好はしないだろうと思われる、妖怪油すましのような女ができあがる。
「い、今の、何だったんですか・・・?」
荒い息を吐きながら、緋美子がたずねてきた。
信じられないといったふうに自分の体を見回し、次に燃えている二匹の魔物に目をやった。
「あれは根の国っていう、いわば地獄みたいなところから沸いてくる化け物なの。でも、びっくりしたなあ。緋美子ちゃんもその・・・わたしと同じ、"常世の戦士"だったなんて」
竜から今度は油すましと化したヒバナが、感に堪えないといった口調で言う。
「"常世の戦士"?」
緋美子が小声で聞き返す。
「それ、正式名称じゃなくて、わたしが仮につけた名前なんだけど、でも、ちょっとかっこいいと思わない? 常世の戦士って」
「何ですか、それ。それから、私、いったいどうなったんですか? ヒバナさんも、何か、その、怪物みたいな姿に変わったような・・・。あれ、全部、夢だったんでしょうか・・・」
「話すと長くなるから、そうだ、デニーズにでも行こうか。そこで話してあげるよ」
ひらめいた、という感じでヒバナが言うと。
「はい・・・。でも、ヒバナさん、その格好では、お店、入れてもらえないんじゃ・・・」
緋美子が控えめながら、痛いところを突いてきた。
「あ、あははは、それもそうだね」
笑ってごまかすヒバナ。
「じゃ、わたしんちに行こう。この時間なら、ママ、まだ帰ってないし、ここから近いし」
ヒバナの母、薫は介護福祉士である。
仕事のほとんどは、娘に輪をかけた夜勤である。
朝の5時過ぎに戻ってくるのが普通なのだ。
「安奈が心配なので、あんまり長い時間は無理ですけど・・・あした、学校もあるし」
「そだね。じゃ、1時間ぐらいならいいかな。夜食くらい出すよ。食べてってね」
ビニールシートを頭からかぶったヒバナは、そう言うなり、よたよたとペンギンのように覚束ない足取りで、先頭に立って歩き出した。
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