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第5部 ヒバナ、インモラルナイト!
#9 ヒバナ、愛をさけぶ
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ふと我に返ると、そこは極楽湯の最深部、大浴場の手前の待合室だった。
緋美子とひずみをここまで運んだことは覚えているのだが、到着後から今までの記憶が飛んでいた。
ミミを膝に乗せたひずみ、宙に視線を固定させ、ただ人形のようにソファに座らされている緋美子の姿が目に入った。浴衣を着せられた緋美子は、それが似合うだけにいっそう哀れに見える。
そうか。
とヒバナは思った。
レオンがまた意識の表層に出てきたんだ。
さっきもそうだった。
レオンが本気で表に出てくると、ヒバナとしての意識は途絶えてしまうのだ。
会談は終わりに近づいているようだった。
「とりあえず緋美子を救う方法はわかった。後はイザナミ、おまえの返事次第だね」
ひずみの膝の上でとぐろを巻いたミミが言った。
ひずみはというと、ヒバナから目を逸らし、じっとうつむいたままだ。
「緋美子を元に戻した後のことだよ。新たな端末を移植したら、おまえは彼女に本物の神獣の御霊をダウンロードする気だろう。さっきのおまえの話では、彼女に現在宿ってるのは、おまえがつくったダミーの御霊だってことだからね。で、緋美子に本物の神獣を宿して、おまえはいったい何をするつもりなのさ」
「もちろん、オロチを倒して鬼の国をぶっつぶすんだよ」
挑むような口調で、緋美子の口を借りて、あのナミと名乗った存在が答えた。
「そのあとは? 運よくうちらが根の片津国の連中に勝てたとして、その後、おまえはどうするつもりなんだい? まさか、今度はこの人間界をぶっ潰す、なんて言わないだろうね。うちは、どうもそこのところが気になってならないのさ」
ミミが追及する。
「そんなこと、するはずないでしょ。あたしは、世界征服なんて面倒なことには、興味ないの」
ナミが怒ったように、言う。
ナミのしゃべり方は、お高くとまった学級委員長といった感じである。
「どうだか。だいたいおまえ、そもそもどうして緋美子に偽神獣の力を与えたんだい? 大方、ヒバナを倒す兵器にでもしようとしたんだろう? オロチが出てこなかったら、今頃は緋美子を操って、ヒバナを殺すつもりだったんじゃないのかい?」
ミミの言葉に、
え?
ヒバナはびくっと身を震わせた。
ミミのその指摘は、横で聞いているヒバナにとっては、ひどくショッキングなものだった。
それ・・・どういうこと?
全身から血の気が引いていくのがわかった。
ひみちゃんが、わたしを、殺すための、兵器・・・?
「そんなの、当たり前でしょ」
あっさりと、ナミが認めた。
まったく悪びれたふうもなく、隠すつもりもないらしい。
あまりのショックに、ヒバナは思わず目を見開いた。
そんな・・・。
自分の耳が信じられなかった。
体ごと、ソファに沈みこんだ。
全身が重い。
指一本、動かせない。
心の中でうめく。
お願い、そんなの、嘘だって言って。
デタラメだって・・・。
が、ナミの告白は、ヒバナを更に打ちのめした。
「あのね、あたしは、シンや麗奈と同じ、死天王だったんだよ。ヒバナを殺そうとするのは当然じゃないか。そうさ、緋美子はそのために利用するつもりだった。今更それを隠そうとは思わないよ」
ヒバナは、喉から悲鳴が漏れそうになるのを、懸命にこらえた。
ひみちゃん・・・。
好きって、
ずっと一緒って、
そう、言ってくれたのに・・・。
あれは、なんだったの?
ヒバナの気持ちなどにはいっこうにかまわず、ナミが淡々と続ける。
「でも、もうあたしを縛っていたマガツカミが死に、根の国は滅びたんだ。だからあたしは、これからは自由にやらせてもらう。この後、確かにあたしはまたヒバナを殺そうと考えるかもしれない。だけど、そんな先のことより、今は緋美子を修復して、前以上の戦士に育てて、オロチを倒すのが先決でしょ。このままでは、あたしがどうこうする前に、確実に人間界は滅ぶ。あんたも見たよね、あのオロチの強さ。あれで、単なる”影”にすぎないっていうんだから、驚きだよ。あたしの緋美子は、たかが”影”に瞬殺されてしまったんだ」
ナミの声には、悔しさがにじんでいた。
緋美子を、自分の作品か何かのように思っているのだろう。
ナミの台詞を聞き終えて、ヒバナはとほうもない虚脱感を覚えた。
心のど真ん中に大きな空洞ができたような、そんな寒々しい気分だった。
嘘だったのだ。
みんな・・・。
「イザナミ、おまえって」
ミミが、ため息混じりにつぶやく。
「馬鹿正直っていうのか、素直っていうのか、敵ながらさっぱりわかんないやつだね」
「それ、ほめてくれてるの?」
ナミが、邪悪に笑った、
「だったら、交渉成立ってことで、早くヒバナに端末を取りに行かせてよ。時間が経てばたつほど、この子の脳神経の修復は難しくなるんだ。こんなに綺麗で聡明な子を、ミミ、あんたはただの肉人形にする気なの? それで平気なの?」
作戦会議が終わると、緋美子は浴場の中の薬湯に移された。
ひずみとミミのヒーリングでは治しきれていない、内臓や細かい骨、筋肉などを治癒するためだった。
ここの薬湯は、常世細胞で満たされた、どんな傷でも治す太古からの秘湯である。
神話の時代から戦国時代まで、おびただしい数の戦士たちの傷を癒してきた由緒あるものだ。
ヒバナも何度か世話になったし、前回のマガツカミ戦では、この薬湯の常世細胞がヒバナたちを勝利に導いてくれたのだった。
マガツカミを倒すために大半の常世細胞を消費したヒバナたちだったが、幸いなことに、この1ヶ月の間に薬湯は8割方増殖を完了していた。
だが、そのスーパーなお湯でも、霊界端末の再生は不可能なのだという。
ーあれはもともと、結晶生命なんだ。珪素がメインの生命体だから、炭素系の地球生物とは、生命としての構成要素が根本から違う。だから、新しいのを取ってくるしかないんだよ。なんでも元は、地球と火星の間にあった幻の第四惑星のかけららしい。それが、母星が爆発したときに、隕石に乗ってこの地球に降り注いだ。つまり、探せばまだどこかにあるということだー
レオンはそう説明した。
アイララだ、とヒバナは思った。
幻の第四惑星『アイララ』は、本当に存在したんだ・・・。
ー手がかりはひとつだけ。『海幸彦山幸彦』って昔話を知ってるか? そこに出てくる汐満珠、汐干珠ってのが、やはり霊力を持つ石なんだが、おそらく、それが霊界端末と同じ種類の結晶生物だと思う。そして、それを持っていたのは豊玉姫という女神だ。オレ自身は大昔のこと過ぎてまるで覚えていないんだが、ヒメはオレと同じ常世の細工師だから、おそらくあの端末も、彼女にもらったんだと思うんだ。だから、おまえはそのトヨタマヒメを探せ。オレやミミと同じように、この中津国で暮らしている可能性が高いー
「その女神様って、どこにいるの?」
ートヨタマヒメは、オオワダツミノカミの娘とされている。だから、住んでいるのはおそらく海の近くだろうー
「海って、日本の周りは、全部海なんだけど・・・」
ー今まで起こった出来事を思い返してみろ。すべてこの那古野市周辺で起きているだろう。このあたりは今、霊的な大きな渦の中心なのさ。つまり、姫の居場所もそんなに遠くはない、と考えられるー
ずいぶん適当な推論だったが、ヒバナに選択の余地はなかった。
翌朝、ヒバナは知多半島方面に向かう列車に乗った。
周辺の海といえば、とりあえず知多半島と渥美半島を中心とする、三河湾と伊勢湾である。
先月の戦艦大和と武蔵の砲撃で炎上し、未だ復興途上の石油化学コンビナート群を窓の外に見ながら、夏の海辺の町を列車は進んでいく。
一応何があってもいいように戦闘服を着てきたヒバナだったが、心に力がなかった。
ナミの暴露がヒバナの精神をずたずたに引き裂いてしまっていたのだ。
あれは、ひみちゃんじゃなかった。
好きって言ってくれたのは、ひみちゃんじゃなくって、ナミだったんだ。
わたしをだまして、殺そうとして・・・。
大喜びで尻尾を振る犬のように振舞った自分が、みじめでならなかった。
悔しい、というのとは違う。
ただ、空しいのだ。
もちろん、緋美子に罪はない。
憎みべきは、いつのまにか緋美子に取り憑いていたあの死天王の生き残り、ナミだろう。
しかし、彼女の言うように、ナミの仲間や兄を葬ったのは、まぎれもなくヒバナ自身なのだ。ナミが報復を企んだからといって、誰に彼女を責めることができるだろう・・・。
平日の午前中だから、列車にはヒバナのほか、ほとんど乗客はいない。
ーそんなことで悩むなー
見かねて頭の中で声をかけてきたレオンに、
「神様には、女心がわかんないんだよ」
ヒバナはそう、口に出して答えた。
ーなんだかんだ言っても、緋美子を助けたいんだろ?-
レオンが、わかりきったことを言う。
「当たり前じゃない」
ヒバナは本気で腹を立てていた。
あのときだって、わたしが先に変身していれば、死ぬのはわたしひとりで済んだのに。
わたしは、あそこで死ぬべきだったんだ。
それができなかったのなら・・・。
たとえ全部茶番だったとしても、わたしはひみちゃんのこと・・・。
目尻が熱くなった。
泣くまいと思っても、意志に反して涙は止まらなかった。
ぼたぼたと頬を伝い、むき出しの太腿に落ちた。
ーほら、また泣く。世話の焼けるやつだなー
レオンがあきれたように言う。
「うう・・・」
ヒバナは立ち上がり、
「あああああああ!」
列車の中心で叫んだ。
そして、驚いて駆けつけてきた車掌に制止されるまで、声を限りに叫び続けたのだった。
緋美子とひずみをここまで運んだことは覚えているのだが、到着後から今までの記憶が飛んでいた。
ミミを膝に乗せたひずみ、宙に視線を固定させ、ただ人形のようにソファに座らされている緋美子の姿が目に入った。浴衣を着せられた緋美子は、それが似合うだけにいっそう哀れに見える。
そうか。
とヒバナは思った。
レオンがまた意識の表層に出てきたんだ。
さっきもそうだった。
レオンが本気で表に出てくると、ヒバナとしての意識は途絶えてしまうのだ。
会談は終わりに近づいているようだった。
「とりあえず緋美子を救う方法はわかった。後はイザナミ、おまえの返事次第だね」
ひずみの膝の上でとぐろを巻いたミミが言った。
ひずみはというと、ヒバナから目を逸らし、じっとうつむいたままだ。
「緋美子を元に戻した後のことだよ。新たな端末を移植したら、おまえは彼女に本物の神獣の御霊をダウンロードする気だろう。さっきのおまえの話では、彼女に現在宿ってるのは、おまえがつくったダミーの御霊だってことだからね。で、緋美子に本物の神獣を宿して、おまえはいったい何をするつもりなのさ」
「もちろん、オロチを倒して鬼の国をぶっつぶすんだよ」
挑むような口調で、緋美子の口を借りて、あのナミと名乗った存在が答えた。
「そのあとは? 運よくうちらが根の片津国の連中に勝てたとして、その後、おまえはどうするつもりなんだい? まさか、今度はこの人間界をぶっ潰す、なんて言わないだろうね。うちは、どうもそこのところが気になってならないのさ」
ミミが追及する。
「そんなこと、するはずないでしょ。あたしは、世界征服なんて面倒なことには、興味ないの」
ナミが怒ったように、言う。
ナミのしゃべり方は、お高くとまった学級委員長といった感じである。
「どうだか。だいたいおまえ、そもそもどうして緋美子に偽神獣の力を与えたんだい? 大方、ヒバナを倒す兵器にでもしようとしたんだろう? オロチが出てこなかったら、今頃は緋美子を操って、ヒバナを殺すつもりだったんじゃないのかい?」
ミミの言葉に、
え?
ヒバナはびくっと身を震わせた。
ミミのその指摘は、横で聞いているヒバナにとっては、ひどくショッキングなものだった。
それ・・・どういうこと?
全身から血の気が引いていくのがわかった。
ひみちゃんが、わたしを、殺すための、兵器・・・?
「そんなの、当たり前でしょ」
あっさりと、ナミが認めた。
まったく悪びれたふうもなく、隠すつもりもないらしい。
あまりのショックに、ヒバナは思わず目を見開いた。
そんな・・・。
自分の耳が信じられなかった。
体ごと、ソファに沈みこんだ。
全身が重い。
指一本、動かせない。
心の中でうめく。
お願い、そんなの、嘘だって言って。
デタラメだって・・・。
が、ナミの告白は、ヒバナを更に打ちのめした。
「あのね、あたしは、シンや麗奈と同じ、死天王だったんだよ。ヒバナを殺そうとするのは当然じゃないか。そうさ、緋美子はそのために利用するつもりだった。今更それを隠そうとは思わないよ」
ヒバナは、喉から悲鳴が漏れそうになるのを、懸命にこらえた。
ひみちゃん・・・。
好きって、
ずっと一緒って、
そう、言ってくれたのに・・・。
あれは、なんだったの?
ヒバナの気持ちなどにはいっこうにかまわず、ナミが淡々と続ける。
「でも、もうあたしを縛っていたマガツカミが死に、根の国は滅びたんだ。だからあたしは、これからは自由にやらせてもらう。この後、確かにあたしはまたヒバナを殺そうと考えるかもしれない。だけど、そんな先のことより、今は緋美子を修復して、前以上の戦士に育てて、オロチを倒すのが先決でしょ。このままでは、あたしがどうこうする前に、確実に人間界は滅ぶ。あんたも見たよね、あのオロチの強さ。あれで、単なる”影”にすぎないっていうんだから、驚きだよ。あたしの緋美子は、たかが”影”に瞬殺されてしまったんだ」
ナミの声には、悔しさがにじんでいた。
緋美子を、自分の作品か何かのように思っているのだろう。
ナミの台詞を聞き終えて、ヒバナはとほうもない虚脱感を覚えた。
心のど真ん中に大きな空洞ができたような、そんな寒々しい気分だった。
嘘だったのだ。
みんな・・・。
「イザナミ、おまえって」
ミミが、ため息混じりにつぶやく。
「馬鹿正直っていうのか、素直っていうのか、敵ながらさっぱりわかんないやつだね」
「それ、ほめてくれてるの?」
ナミが、邪悪に笑った、
「だったら、交渉成立ってことで、早くヒバナに端末を取りに行かせてよ。時間が経てばたつほど、この子の脳神経の修復は難しくなるんだ。こんなに綺麗で聡明な子を、ミミ、あんたはただの肉人形にする気なの? それで平気なの?」
作戦会議が終わると、緋美子は浴場の中の薬湯に移された。
ひずみとミミのヒーリングでは治しきれていない、内臓や細かい骨、筋肉などを治癒するためだった。
ここの薬湯は、常世細胞で満たされた、どんな傷でも治す太古からの秘湯である。
神話の時代から戦国時代まで、おびただしい数の戦士たちの傷を癒してきた由緒あるものだ。
ヒバナも何度か世話になったし、前回のマガツカミ戦では、この薬湯の常世細胞がヒバナたちを勝利に導いてくれたのだった。
マガツカミを倒すために大半の常世細胞を消費したヒバナたちだったが、幸いなことに、この1ヶ月の間に薬湯は8割方増殖を完了していた。
だが、そのスーパーなお湯でも、霊界端末の再生は不可能なのだという。
ーあれはもともと、結晶生命なんだ。珪素がメインの生命体だから、炭素系の地球生物とは、生命としての構成要素が根本から違う。だから、新しいのを取ってくるしかないんだよ。なんでも元は、地球と火星の間にあった幻の第四惑星のかけららしい。それが、母星が爆発したときに、隕石に乗ってこの地球に降り注いだ。つまり、探せばまだどこかにあるということだー
レオンはそう説明した。
アイララだ、とヒバナは思った。
幻の第四惑星『アイララ』は、本当に存在したんだ・・・。
ー手がかりはひとつだけ。『海幸彦山幸彦』って昔話を知ってるか? そこに出てくる汐満珠、汐干珠ってのが、やはり霊力を持つ石なんだが、おそらく、それが霊界端末と同じ種類の結晶生物だと思う。そして、それを持っていたのは豊玉姫という女神だ。オレ自身は大昔のこと過ぎてまるで覚えていないんだが、ヒメはオレと同じ常世の細工師だから、おそらくあの端末も、彼女にもらったんだと思うんだ。だから、おまえはそのトヨタマヒメを探せ。オレやミミと同じように、この中津国で暮らしている可能性が高いー
「その女神様って、どこにいるの?」
ートヨタマヒメは、オオワダツミノカミの娘とされている。だから、住んでいるのはおそらく海の近くだろうー
「海って、日本の周りは、全部海なんだけど・・・」
ー今まで起こった出来事を思い返してみろ。すべてこの那古野市周辺で起きているだろう。このあたりは今、霊的な大きな渦の中心なのさ。つまり、姫の居場所もそんなに遠くはない、と考えられるー
ずいぶん適当な推論だったが、ヒバナに選択の余地はなかった。
翌朝、ヒバナは知多半島方面に向かう列車に乗った。
周辺の海といえば、とりあえず知多半島と渥美半島を中心とする、三河湾と伊勢湾である。
先月の戦艦大和と武蔵の砲撃で炎上し、未だ復興途上の石油化学コンビナート群を窓の外に見ながら、夏の海辺の町を列車は進んでいく。
一応何があってもいいように戦闘服を着てきたヒバナだったが、心に力がなかった。
ナミの暴露がヒバナの精神をずたずたに引き裂いてしまっていたのだ。
あれは、ひみちゃんじゃなかった。
好きって言ってくれたのは、ひみちゃんじゃなくって、ナミだったんだ。
わたしをだまして、殺そうとして・・・。
大喜びで尻尾を振る犬のように振舞った自分が、みじめでならなかった。
悔しい、というのとは違う。
ただ、空しいのだ。
もちろん、緋美子に罪はない。
憎みべきは、いつのまにか緋美子に取り憑いていたあの死天王の生き残り、ナミだろう。
しかし、彼女の言うように、ナミの仲間や兄を葬ったのは、まぎれもなくヒバナ自身なのだ。ナミが報復を企んだからといって、誰に彼女を責めることができるだろう・・・。
平日の午前中だから、列車にはヒバナのほか、ほとんど乗客はいない。
ーそんなことで悩むなー
見かねて頭の中で声をかけてきたレオンに、
「神様には、女心がわかんないんだよ」
ヒバナはそう、口に出して答えた。
ーなんだかんだ言っても、緋美子を助けたいんだろ?-
レオンが、わかりきったことを言う。
「当たり前じゃない」
ヒバナは本気で腹を立てていた。
あのときだって、わたしが先に変身していれば、死ぬのはわたしひとりで済んだのに。
わたしは、あそこで死ぬべきだったんだ。
それができなかったのなら・・・。
たとえ全部茶番だったとしても、わたしはひみちゃんのこと・・・。
目尻が熱くなった。
泣くまいと思っても、意志に反して涙は止まらなかった。
ぼたぼたと頬を伝い、むき出しの太腿に落ちた。
ーほら、また泣く。世話の焼けるやつだなー
レオンがあきれたように言う。
「うう・・・」
ヒバナは立ち上がり、
「あああああああ!」
列車の中心で叫んだ。
そして、驚いて駆けつけてきた車掌に制止されるまで、声を限りに叫び続けたのだった。
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