ヒバナ、オーバードライブ DX!

戸影絵麻

文字の大きさ
138 / 295
第7部 ヒバナ、ハーレムクィーン!

#1 戦闘少女は、キャンパスクィーンの夢を見るか?

しおりを挟む
 見れば見るほど不思議な印象の少女だった。
 特別に目立つ顔立ちをしているわけではない。
 が、何かにびっくりしているように見開いた目と、
 こじんまりした鼻と唇が、絶妙なバランスを保っている。
 ほとんどすっぴんなのに、肌はほどよいピンク色できめが細かくつやつやして いる。
 子どものようなあどけなさと奇妙な色気が同居した表情が、これまたかなり魅 惑的である。
 額に青い小さな宝石をくっつけているのは、最近の流行なのだろうか。

「あ、わたし、岬ヒバナっていいます。あの、人を探してるんですけど」
 少女が勢い込んでいった。
「すごく綺麗な女子高生と、野球帽かぶった中学生の女の子、ここへ来ませんで したか?」
「すごく綺麗な、女子高生、ですか?」
 俺は少女に見とれながら、阿呆のように繰り返した。
「それと、野球帽の女子中学生?」
 心当たりはなかった。
 というより、忙しすぎて、客の顔など見ている余裕がなかった、
 というのが正直なところだった。
「あー、困ったなあ、またわたし迷子になっちゃったよ」
 ヒバナと名乗った少女が、天を仰いでぼやいた。
 顕わになった白い喉元が、また魅力的だった。
「ちょっといいかね、君」
 白衣姿の丸山先輩がカウンターから出てきて、俺とヒバナの間に割り込んだ。
 先輩は、しゃべりさえしなければ、学内一といっていいほどのイケメンであ  る。
 日本人離れした薄く高い鼻、銀縁眼鏡越しの鋭い眼光、背も俺より5センチは 高いし、脚も長い。
 しかも、自称IQ300いう図抜けた頭脳の持ち主だ。
 普通だったら恋のライバルとしてこれほどやっかいな相手もいないのだが、そ の心配ははっきりいって無用だった。
 丸山先輩はオンナに興味がないのだ。
 もちろん、男にもない。
 先輩の興味の対象は、『宇宙』、そして『超常現象』のみ。
 今時珍しい科学オタクなのである。
 先輩と会話して、10分我慢できた女子を俺はいまだかつて知らなかった。

「私は丸山時郎。この超常研の部長だ。ヒバナさんとやら、君にたってのお願い が・・・」
 先輩がもったいをつけてそこまでいったとき、突然戸が開いて怒涛のごとく汗 臭い集団が ”店”の中になだれこんできた。
「おー、丸山、レイコ20杯たのむわ!」
 野球部の荒くれ男たちだった。
 レイコって死語だろ?
 うんざりして想わず顔をしかめたときである。
「20杯・・・」
 力なくうめいて、へなへなとメイド姿のお通夜が床にはいつくばった。
「おい、つや、大丈夫か」
 あわてて抱き起こすと、完全に白目をむいて口から泡を吹いていた。
 対人恐怖症と疲労が限界に達したらしい。
「まずいな」
 先輩が俺を見た。
 限りなく頼りにならないとはいえ、お通夜はこの『るる家』唯一のウェイトレ スである。
 お通夜亡き後、給仕できるのは俺一人ということになる。
 冗談じゃない。
 俺はそんなことのために、この世に生を受けたわけじゃない。
「先輩、逃げましょう」
 そうささやいたときである。
「わたし、手伝いましょうか?」
 ふいにヒバナがいった。
「わたし、本職ウェイトレスなんです」

 ヒバナの働きぶりはすごかった。
 狭い店内をトレイを両手に蝶のように舞い、てきぱきと注文を片づけていっ  た。
 しかも、かっこうがまたサービス満点なのだ。
 背中がざっくり開いた上着に、お尻が見えそうなショートパンツ姿なのであ  る。
 俺は、生まれてから一度も、こんなプリプリした見事な尻を見たことがなかっ た。
 小ぶりなのに、中身がぎっしり詰まった桃のよう、とでも言おうか。
 ヒバナがかがんだり爪先立ちしたりするたびにその魅惑的なヒップが動き、俺 の目は釘付けになった。
「真面目に働け。貢、おまえ、いつからストーカーになった?」
 カウンターの内側で茫然とヒバナに見とれている俺に、先輩がいった。
「い、いや、その、あんまり尻が、いえ、なんでもないっす」

 現代社会の恐ろしいところは、情報伝達の速さだ。
 LINEがあれば、瞬時に何でも伝わってしまう。
 ヒバナ登場の情報は瞬く間にキャンパス内を席巻し、主に運動部からなる大量 の男どもを『るる家』に引き寄せることになった。
 もともとこの模擬店は『超常現象研究会』の部員募集のためのものだったのだ が、そんな地味な活動にはまるで縁のない筋肉バカばっかりが店を占拠してし まったのだから、事態は深刻だった。
 ひたすら先輩がサンドイッチを作り、俺がコーヒーを淹れ、ヒバナが運ぶ。
 馬車馬のようにキリキリ働いていると、閉店予定の4時を待たずしてすべての食材が底をついた。
「よし、終了だ」
 先輩がカウンターを飛び越え、なおも入ってこようとするラグビー部の連中を 押し返し、表に『CLOSE』の看板を下げて戸を閉めた。
 3人でテーブルを囲んで座り、そろってため息をつく。
 そこにお通夜が起きてきて、4人になった。
「ありがとう。恩に着る。給料、払うよ」
 先輩がヒバナに頭を下げた。
「いえ、そんな。わたしが勝手にお手伝いしただけですから」
 ヒバナが微笑んだ。
「で、さっきの続きなんだが」
 先輩が咳払いひとつして、いいかけたときだった。
 がらりと戸の開く音がして、
「あ、ヒバナ、こんなとこにいた」
 だしぬけに子どもの声がした。
 振り返った俺は、あんぐりと口をあけた。
 突拍子もない組み合わせの一団が、戸口に立っていた。
 ヒバナと同じデザインの白い上着を着た、超マイクロミニのすごい美少女。
 びっくりするほど、脚が長く、そして胸が大きい。
 額に、ヒバナと同じ青い宝石をつけている。
 その足元に、ムク犬の着ぐるみを着た小学生が、ちょこんと座っている。
 岸田劉生の『麗子像』に瓜二つのおかっぱ頭が、笑いを誘う。
 なぜかこの子も、額に宝石をはめ込んでいる。
 その隣に立つ、目つきの鋭い、野球帽をあみだにかぶった中学生くらいの女の 子。
 迷彩柄のトレーナーを着て、大きなショルダーバッグを肩から提げている。
 この少女だけは、額に宝石がない。
「あ、みんな」
 ヒバナの顔に、大輪の花が咲いたような明るい笑みが浮かぶ。
「ヒバナ、何してたの? なんかすごい有名人になってるよ。動画投稿サイトに 上がってる」
 野球帽の少女がクールな口調でいった。
「戦闘少女がそんなに目立っていいのかよ。どうなっても知らねえぞ」
 えらそうにたしなめたのは、ムク犬である。
「お互い、こんなかっこうで来ちゃったの、ちょっとまずかったかもね」
 すごい美少女が、短すぎるスカートの裾を引っ張りながら、はにかんだように 笑う。
「いえ、そんなことないですよ」
 ふいにお通夜が口を出したので、俺と丸山先輩は思わず顔を見合わせた。
 お通夜の声を聞くのは、実に3日ぶりくらいだった。
 超内向的なこのオンナは、話しかけてもろくに返事をしないのが常なのである。
「ヒバナさん、とてもかっこいいです。もちろん、みなさんも。あの、そこでお 願いがあるんです。フィナーレに、カラオケクィーンを決める大会が、あるんですけど、あの、あたしと一緒に、出場してもらえませんか? 
 あたし、前からいっぺん、出てみたかったんです。ひとりでは無理だけど、
ヒバナさんや、みなさんとなら・・・」
 通夜はいつになく真剣だった。
 潤んだ目で、ヒバナのほうを見つめている。
 ヒバナのスーパーなウェイトレスぶりに、ひどく心を動かされたらしかった。
 文章にしたら5行にもわたる長い台詞を口にするのは、お通夜にとってはおそらく生まれて初めてのことではないか、と俺は思った。
「お通夜、なんでそういう展開になる?」
 先輩が端正な顔をしかめていった。
 無理もない。
 先輩としては、竜脈探知機を破壊するほどの波動を持ったヒバナのことを、
 一刻も早く調べてみたくて仕方がないのだ。
「立ち働くヒバナさんの姿を見てたら、わたしも何かやらなきゃ、
 と思えてきて、それで・・・」
「青春の血が騒いだってわけか?」
「出てあげなよ」
 野球帽の少女が、ヒバナと隣の美少女を交互に見やって、いった。
「ヒバナと緋美子先輩なら。間違いなく優勝だよ」
「えー、わたし、歌、あんまり知らないよ」
 ヒバナが胸の前で否定の形に掌をひらひらさせる。
「うちのお店、懐メロしか流れてないから、わたしのレパートリー、1980年代止 まりなんだ」
「なら、3人だし、キャンディーズですかね」
 お通夜が瞳を輝かせ、うれしそうにいう。
「この時代にキャンディーズだと? ありえん」
 苦々しげにつぶやいたのは、もちろん先輩である。
 その先輩に向かって、ふいに美少女が声をかけた。
「あの、話変わりますけど、このお店の名前って、HP.ラヴクラフトですよね。 るる家、ルルイエ、クトゥルー神話。ですよね?」
「うむ」
 珍しく、先輩が顔を赤らめた。
 ほお。
 俺は感心した。
 やるな、この娘、と思った。
 この大学に学生が何万人居るか知らないが、このからくりに気づいたのは、
 この少女がおそらく初めてだろう。
「よし、お通夜、俺が許す。ヒバナさんたちと一緒に、
 カラオケ大会とやらに、行って来い」
 先輩がいった。
「はい」
 お通夜がぴょんと背筋を伸ばし、敬礼する。
「よっしゃー! そうこなくっちゃ!」
 ムク犬の着ぐるみを着た小学生が、興奮気味に叫んだ。
「え? 玉子も出るつもりなの?」
 目を丸くするボーイッシュな少女をジロリとひとにらみすると、
「主役はどうみてもあたいだろ?」
 ムク犬が、そういばった口調でいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜 あやめ
恋愛
✨ 第6回comicoお題チャレンジ『空』受賞作 阿須加家のお嬢様である結月は、親に虐げられていた。裕福でありながら自由はなく、まるで人形のように生きる日々… だが、そんな結月の元に、新しく執事がやってくる。背が高く整った顔立ちをした彼は、まさに非の打ち所のない完璧な執事。 だが、その執事の正体は、なんと結月の『恋人』だった。レオが執事になって戻ってきたのは、結月を救うため。だけど、そんなレオの記憶を、結月は全て失っていた。 これは、記憶をなくしたお嬢様と、恋人に忘れられてしまった執事が、二度目の恋を始める話。 「お嬢様、私を愛してください」 「……え?」 好きだとバレたら即刻解雇の屋敷の中、レオの愛は、再び、結月に届くのか? 一度結ばれたはずの二人が、今度は立場を変えて恋をする。溺愛執事×箱入りお嬢様の甘く切ない純愛ストーリー。 ✣✣✣ カクヨムにて完結済みです。 この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※第6回comicoお題チャレンジ『空』の受賞作ですが、著作などの権利は全て戻ってきております。

処理中です...