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第7部 ヒバナ、ハーレムクィーン!
#18 北北西を警戒せよ③
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俺は雑居ビルの屋上の給水塔の陰に隠れ、戦況を見守ることにした。
実際、俺が出て行っても足手まといになるだけで、なんのプラスにもならないことは火を見るよりも明らかだったからだ。
緋美子が空を舞い、矢を連射する。
それも一本ずつではなく、短い矢羽根を10本束ねて一気に撃つあのやり方だ。
炎の矢の雨をまともに浴びた蜂たちが、火達磨になって次々に落下する。
ひずみが緋美子の背につかまり、光のオーラで彼女を守っているのが見えた。
地上ではブッチャーが疾走していた。
右腕に構えた玄武の甲羅で、出会い頭に昆虫どもを叩き潰していく。
2人とも、すさまじい奮闘ぶりだった。
まるでゲームの無双シリーズを見るようである。
一騎当千、八面六臂の活躍とはまさにこのことだろう。
だが、いかんせん、敵の数が多すぎた。
敵の数が多いと、ほんのちょっとしたことで、形勢が一気に逆転する。
おびただしい数の蜂にしがみつかれ、緋美子が落ちた。
そこへ駆けつけようとするブッチャーの上に、黒い塊となって昆虫の集団がなだれ込む。
万事休す、とはこのことだった。
「先輩、何やってるんですか」
俺は泣き声を上げた。
「なんとかしてくださいよ。でないと、みんな・・・」
そこまでいったときだった。
空が光った。
地鳴りのような雷鳴が轟く。
稲妻がほとばしった。
ブッチャーを覆い尽くしていた蜂たちが、ぼうっと燃え出した。
「ごめん! 遅くなっちゃった!」
ヒバナだった。
玉子を抱え、上空に浮かんでいる。
「あ、貢君、玉子をよろしく」
目ざとく俺を見つけると、目の前に舞い降りてきて、いった。
きょうはピンクの戦闘服を身につけている。
青竜に完全変態していた。
「あたい、ここから援護するから、ヒバナは、早く行きな」
玉子がいった。
「うん」
うなずいて、再び舞い上がるヒバナ。
翼が開き、形のいいヒップが遠ざかっていく。
「にいちゃん、あたい、のど乾いた」
玉子が俺を睨んで、いった。
「どうせあんた見てるだけなんでしょ? なら、下の自販機で、ウーロン茶買って来てくんない?」
「お安い御用で」
俺は両手をすり合わせんばかりにして、答えた。
小学生とはいえ、玉子はチーム最強の黒魔術師である。
機嫌を損ねては、戦況に差し障るのだ。
俺が買って来たお茶をごくごくと飲み干すと、玉子は詠唱に入った。
魔法の欠点は、すぐ発動できないことだという。
玉子の場合、詠唱から発動まで、3分間のタイムラグがあるということなのだ。
その間無防備になる玉子を守るために、俺はビルの中の無人のオフィスから机やら椅子やらを運び上げて、バリケードを作った。
その陰に玉子と一緒に身を潜め、再び戦況を見守ることにした。
ヒバナの参入は強力だった。
虫たちにもみしだかれていた緋美子を助け起こすと、近くのビルの屋上まで運び、そこからプラズマボールを発射した。
追いすがる蜂たちが空中でボンボン爆ぜる。
ついで両腕を振り上げ、叫んだ。
「ウォーターハンマー!」
掛け声とともに、どこからともなく大量の水が溢れ出す。
目抜き通りを、すさまじい勢いで水流が覆っていった。
緋美子の火矢で燃えていた建物の火が、一気に鎮火する。
そこへ、
「やあ!」
と傍らの玉子が雄たけびを上げた。
今度は竜巻だった。
町の中心に突如として出現した巨大な竜巻が、残った昆虫たちを吸い込んで天へと上っていく。
「勝った」
俺は手を打って立ち上がった。
ヒバナの水流と玉子の竜巻で、昆虫たちの数はぐっと減っていた。
これなら殲滅も不可能ではない。
が、つくづく思う。
なぜか、世の中はことごとく厳しくできている。
その証拠に、
「マジかよ。あんなの、ありか?」
玉子がいきなり叫び、北北西の空を指差したのだ。
空が割れていた。
そして、何か、とてつもなく大きなものが、こちら側の世界に現れようとしていた。
空が見えなくなるほど、でかい。
高さ300mは越えているのではないか。
ものすごく高いところで、竜の頭が揺らめいている。
首は、8本もある。
真ん中の首だけ、どうしてかメタリックな輝きを放っていた。
「あれって、ひょっとして・・・」
俺がいいかけると、
「ヤマタノオロチ」
玉子がつぶやいた。
「来たな、ツクヨミ」
ヒバナと緋美子が舞い上がる。
ヒバナが槍と剣、緋美子が弓を構えて怪物に向かっていく。
地上では、ブッチャーが走り出していた。
「無理だ、スケールが違いすぎる」
俺はうめいた。
まるでゾウに立ち向かう蟻だ。
あの3人がいくら超人的な力を持っていても、あの怪物にはかなうまい。
怪獣を通り越して、まさに超獣である。
「玉子、早く次の魔法を」
俺は傍らの玉子を振り返った。
「電撃でオロチを止められないか」
「無理だよ」
珍しく、玉子が泣き出しそうな声でいった。
「射程距離外だ。あたいの魔法はあそこまで届かない」
「じゃ、俺が運ぶ」
俺はいった。
「背中に乗れ。できるだけオロチに接近しよう」
あれにダメージを与えられるものがあるとすれば、もうそれは玉子の魔法しかなかった。
俺は玉子を背負い、駆け出した。
大通りに出ると、オロチが前進を開始したところだった。
長い首が縦横無尽にうねり、大きく開いた口から光線を吐き出している。
「あのブレスに焼かれたら最期だ。気をつけろ」
背中で玉子がいう。
が、敵の首は8本もある。
どこからブレスが飛んでくるか、予測するのはほとんど不可能に近い。
ヒバナが飛びながらブレスをよけ、プラズマボールを放つ。
緋美子が空高く飛翔し、長い尾羽根の矢を放つ。
オロチの首の一本が目を潰され、のたうった。
他の7本が、ほとんどでたらめの角度から、ブレスを一斉に放つ。
緋美子の羽根が燃え上がった。
「ひみちゃん!」
ヒバナが叫んだ。
急降下して、きりもみ状態で落ちていく緋美子を地面すれすれで抱きとめる。
そこにまた、ブレスが襲いかかった。
間一髪、地上からブッチャーが投げた盾が間に入り、2人を守る。
盾が爆発した。
地上に降りたヒバナが、緋美子に肩を貸して立ち上がらせる。
そこへ、玉子を背負った俺が駆け込んだ。
「大丈夫か」
訊くと、
「なんとか」
緋美子が、苦しそうに笑った。
左半身の羽毛が焼け爛れている。
翼が折れ、だらりと下がっていた。
「許さない」
ヒバナがつぶやいた。
怒りの炎が瞳の奥で揺らいでいる。
こんなにこわい顔をしたヒバナを見るのは、これが初めてだった。
「ヒバナ、やめて」
緋美子がその腕をつかむ。
ヒバナの体を抱き締めるようにして、いった。
「とりあえず、いったん退却しましょ。あのオロチは前のオロチとは違う。パワーアップしてる」
その緋美子の言葉を遮るようにして、オロチの首が降りてきた。
気づくと、白目しかない狂った2つの眼がすぐそこまで来ていた。
「スパーク!」
いきなり、玉子が叫んだ。
落雷が、その首のつけ根を見事に射抜いた。
さすが玉子。
俺の背中に乗っている間にも、詠唱を続けていたらしい。
ちぎれて地面に落ちたオロチの口が開き、人影が現れたのはそのときだ。
真っ白な髪の毛。
真っ赤な目。
奇妙な少年がそこに立っていた。
「ツクヨミ・・・」
ヒバナがうめいた。
「お久しぶり。ヒバナ、ひずみ、それに、姉さん」
にやりと笑って、いった。
緋美子が弓を構える。
「あなたが私の弟だというのなら」
低い声でいった。
「私がここで終わりにしてあげる」
「誰も弟だなんて、いっていない」
少年の笑みが広がった。
シャツに手をやり、なんのつもりか、だしぬけにびりっと引き裂いた。
少年は、下着を身につけていなかった。
乳房が零れ落ちた。
まだ小さいが、明らかに思春期の少女のものである、可憐な白い乳房だった。
「う・・・」
緋美子が弓を下ろす。
その視線が、少年の胸のふくらみに釘づけになっている。
「両性具有なんだね」
ミミの声がした。
「古事記のあいまいな記述は、そういうことだったんだ」
いつのまにかひずみの口から出て、肩に巻きついている。
「あなたは何がしたいの?」
ヒバナがたずねた。
いつになく鋭い眼で、少年、いや、少女を睨み据えている。
「最初は姉さんに呪いを解いてもらって、僕の世界を元通りにしてもらおうと思ってたんだけど、転生を繰り返すと神性は消えていくってことがわかってね。アマテラスはもういない。つまり、呪いは永遠に解けない。そういうことなんだ」
「あたいは元のままだぞ」
胸を張って、玉子がいった。
「これでも何百回と転生してきてるが」
「姉さんの場合、緋美子という器が強すぎたのさ。ヒバナとレオンの関係と同じだね」
「それで、どうするつもり?」
緋美子がたずねた。
「私はアマテラスではないわ。呪いを解くなんて無理。なら、あなたはどうするの?」
「悪いが、この世界を僕の世界に変えさせてもらう。そのために、まずオロチを使って、きれいな更地にしようと思ってね」
「そんなこと、させない!」
ヒバナの腕が一閃した。
鋭角に生えたひれが凶器となり、ツクヨミを襲う。
かろうじてよけたツクヨミに、今度は目にも留まらぬ速さで回し蹴りをお見舞いする。
脚が当たる寸前、ツクヨミが消えた。
次の瞬間には、ビルの屋上に立っていた。
テレポートしたとしか思えなかった。
「相変らず乱暴だな」
ヒバナを見下ろして、笑った。
「姉さんのいう通り、そろそろ終わりにしよう。みんな仲良く、あの世へでもどこへでも行くがいい」
ツクヨミの言葉が終わらぬうちだった。
上空にオロチの首が集結したかと思うと、
俺たちめがけて7本の強力なブレスが降り注いだ。
「うわああああ!」
俺は絶叫した。
体が焼ける。
ばらばらに分解していく。
ヒューズが切れるように、意識が飛んだ。
そして・・・。
俺の存在とともに、世界も消えた。
実際、俺が出て行っても足手まといになるだけで、なんのプラスにもならないことは火を見るよりも明らかだったからだ。
緋美子が空を舞い、矢を連射する。
それも一本ずつではなく、短い矢羽根を10本束ねて一気に撃つあのやり方だ。
炎の矢の雨をまともに浴びた蜂たちが、火達磨になって次々に落下する。
ひずみが緋美子の背につかまり、光のオーラで彼女を守っているのが見えた。
地上ではブッチャーが疾走していた。
右腕に構えた玄武の甲羅で、出会い頭に昆虫どもを叩き潰していく。
2人とも、すさまじい奮闘ぶりだった。
まるでゲームの無双シリーズを見るようである。
一騎当千、八面六臂の活躍とはまさにこのことだろう。
だが、いかんせん、敵の数が多すぎた。
敵の数が多いと、ほんのちょっとしたことで、形勢が一気に逆転する。
おびただしい数の蜂にしがみつかれ、緋美子が落ちた。
そこへ駆けつけようとするブッチャーの上に、黒い塊となって昆虫の集団がなだれ込む。
万事休す、とはこのことだった。
「先輩、何やってるんですか」
俺は泣き声を上げた。
「なんとかしてくださいよ。でないと、みんな・・・」
そこまでいったときだった。
空が光った。
地鳴りのような雷鳴が轟く。
稲妻がほとばしった。
ブッチャーを覆い尽くしていた蜂たちが、ぼうっと燃え出した。
「ごめん! 遅くなっちゃった!」
ヒバナだった。
玉子を抱え、上空に浮かんでいる。
「あ、貢君、玉子をよろしく」
目ざとく俺を見つけると、目の前に舞い降りてきて、いった。
きょうはピンクの戦闘服を身につけている。
青竜に完全変態していた。
「あたい、ここから援護するから、ヒバナは、早く行きな」
玉子がいった。
「うん」
うなずいて、再び舞い上がるヒバナ。
翼が開き、形のいいヒップが遠ざかっていく。
「にいちゃん、あたい、のど乾いた」
玉子が俺を睨んで、いった。
「どうせあんた見てるだけなんでしょ? なら、下の自販機で、ウーロン茶買って来てくんない?」
「お安い御用で」
俺は両手をすり合わせんばかりにして、答えた。
小学生とはいえ、玉子はチーム最強の黒魔術師である。
機嫌を損ねては、戦況に差し障るのだ。
俺が買って来たお茶をごくごくと飲み干すと、玉子は詠唱に入った。
魔法の欠点は、すぐ発動できないことだという。
玉子の場合、詠唱から発動まで、3分間のタイムラグがあるということなのだ。
その間無防備になる玉子を守るために、俺はビルの中の無人のオフィスから机やら椅子やらを運び上げて、バリケードを作った。
その陰に玉子と一緒に身を潜め、再び戦況を見守ることにした。
ヒバナの参入は強力だった。
虫たちにもみしだかれていた緋美子を助け起こすと、近くのビルの屋上まで運び、そこからプラズマボールを発射した。
追いすがる蜂たちが空中でボンボン爆ぜる。
ついで両腕を振り上げ、叫んだ。
「ウォーターハンマー!」
掛け声とともに、どこからともなく大量の水が溢れ出す。
目抜き通りを、すさまじい勢いで水流が覆っていった。
緋美子の火矢で燃えていた建物の火が、一気に鎮火する。
そこへ、
「やあ!」
と傍らの玉子が雄たけびを上げた。
今度は竜巻だった。
町の中心に突如として出現した巨大な竜巻が、残った昆虫たちを吸い込んで天へと上っていく。
「勝った」
俺は手を打って立ち上がった。
ヒバナの水流と玉子の竜巻で、昆虫たちの数はぐっと減っていた。
これなら殲滅も不可能ではない。
が、つくづく思う。
なぜか、世の中はことごとく厳しくできている。
その証拠に、
「マジかよ。あんなの、ありか?」
玉子がいきなり叫び、北北西の空を指差したのだ。
空が割れていた。
そして、何か、とてつもなく大きなものが、こちら側の世界に現れようとしていた。
空が見えなくなるほど、でかい。
高さ300mは越えているのではないか。
ものすごく高いところで、竜の頭が揺らめいている。
首は、8本もある。
真ん中の首だけ、どうしてかメタリックな輝きを放っていた。
「あれって、ひょっとして・・・」
俺がいいかけると、
「ヤマタノオロチ」
玉子がつぶやいた。
「来たな、ツクヨミ」
ヒバナと緋美子が舞い上がる。
ヒバナが槍と剣、緋美子が弓を構えて怪物に向かっていく。
地上では、ブッチャーが走り出していた。
「無理だ、スケールが違いすぎる」
俺はうめいた。
まるでゾウに立ち向かう蟻だ。
あの3人がいくら超人的な力を持っていても、あの怪物にはかなうまい。
怪獣を通り越して、まさに超獣である。
「玉子、早く次の魔法を」
俺は傍らの玉子を振り返った。
「電撃でオロチを止められないか」
「無理だよ」
珍しく、玉子が泣き出しそうな声でいった。
「射程距離外だ。あたいの魔法はあそこまで届かない」
「じゃ、俺が運ぶ」
俺はいった。
「背中に乗れ。できるだけオロチに接近しよう」
あれにダメージを与えられるものがあるとすれば、もうそれは玉子の魔法しかなかった。
俺は玉子を背負い、駆け出した。
大通りに出ると、オロチが前進を開始したところだった。
長い首が縦横無尽にうねり、大きく開いた口から光線を吐き出している。
「あのブレスに焼かれたら最期だ。気をつけろ」
背中で玉子がいう。
が、敵の首は8本もある。
どこからブレスが飛んでくるか、予測するのはほとんど不可能に近い。
ヒバナが飛びながらブレスをよけ、プラズマボールを放つ。
緋美子が空高く飛翔し、長い尾羽根の矢を放つ。
オロチの首の一本が目を潰され、のたうった。
他の7本が、ほとんどでたらめの角度から、ブレスを一斉に放つ。
緋美子の羽根が燃え上がった。
「ひみちゃん!」
ヒバナが叫んだ。
急降下して、きりもみ状態で落ちていく緋美子を地面すれすれで抱きとめる。
そこにまた、ブレスが襲いかかった。
間一髪、地上からブッチャーが投げた盾が間に入り、2人を守る。
盾が爆発した。
地上に降りたヒバナが、緋美子に肩を貸して立ち上がらせる。
そこへ、玉子を背負った俺が駆け込んだ。
「大丈夫か」
訊くと、
「なんとか」
緋美子が、苦しそうに笑った。
左半身の羽毛が焼け爛れている。
翼が折れ、だらりと下がっていた。
「許さない」
ヒバナがつぶやいた。
怒りの炎が瞳の奥で揺らいでいる。
こんなにこわい顔をしたヒバナを見るのは、これが初めてだった。
「ヒバナ、やめて」
緋美子がその腕をつかむ。
ヒバナの体を抱き締めるようにして、いった。
「とりあえず、いったん退却しましょ。あのオロチは前のオロチとは違う。パワーアップしてる」
その緋美子の言葉を遮るようにして、オロチの首が降りてきた。
気づくと、白目しかない狂った2つの眼がすぐそこまで来ていた。
「スパーク!」
いきなり、玉子が叫んだ。
落雷が、その首のつけ根を見事に射抜いた。
さすが玉子。
俺の背中に乗っている間にも、詠唱を続けていたらしい。
ちぎれて地面に落ちたオロチの口が開き、人影が現れたのはそのときだ。
真っ白な髪の毛。
真っ赤な目。
奇妙な少年がそこに立っていた。
「ツクヨミ・・・」
ヒバナがうめいた。
「お久しぶり。ヒバナ、ひずみ、それに、姉さん」
にやりと笑って、いった。
緋美子が弓を構える。
「あなたが私の弟だというのなら」
低い声でいった。
「私がここで終わりにしてあげる」
「誰も弟だなんて、いっていない」
少年の笑みが広がった。
シャツに手をやり、なんのつもりか、だしぬけにびりっと引き裂いた。
少年は、下着を身につけていなかった。
乳房が零れ落ちた。
まだ小さいが、明らかに思春期の少女のものである、可憐な白い乳房だった。
「う・・・」
緋美子が弓を下ろす。
その視線が、少年の胸のふくらみに釘づけになっている。
「両性具有なんだね」
ミミの声がした。
「古事記のあいまいな記述は、そういうことだったんだ」
いつのまにかひずみの口から出て、肩に巻きついている。
「あなたは何がしたいの?」
ヒバナがたずねた。
いつになく鋭い眼で、少年、いや、少女を睨み据えている。
「最初は姉さんに呪いを解いてもらって、僕の世界を元通りにしてもらおうと思ってたんだけど、転生を繰り返すと神性は消えていくってことがわかってね。アマテラスはもういない。つまり、呪いは永遠に解けない。そういうことなんだ」
「あたいは元のままだぞ」
胸を張って、玉子がいった。
「これでも何百回と転生してきてるが」
「姉さんの場合、緋美子という器が強すぎたのさ。ヒバナとレオンの関係と同じだね」
「それで、どうするつもり?」
緋美子がたずねた。
「私はアマテラスではないわ。呪いを解くなんて無理。なら、あなたはどうするの?」
「悪いが、この世界を僕の世界に変えさせてもらう。そのために、まずオロチを使って、きれいな更地にしようと思ってね」
「そんなこと、させない!」
ヒバナの腕が一閃した。
鋭角に生えたひれが凶器となり、ツクヨミを襲う。
かろうじてよけたツクヨミに、今度は目にも留まらぬ速さで回し蹴りをお見舞いする。
脚が当たる寸前、ツクヨミが消えた。
次の瞬間には、ビルの屋上に立っていた。
テレポートしたとしか思えなかった。
「相変らず乱暴だな」
ヒバナを見下ろして、笑った。
「姉さんのいう通り、そろそろ終わりにしよう。みんな仲良く、あの世へでもどこへでも行くがいい」
ツクヨミの言葉が終わらぬうちだった。
上空にオロチの首が集結したかと思うと、
俺たちめがけて7本の強力なブレスが降り注いだ。
「うわああああ!」
俺は絶叫した。
体が焼ける。
ばらばらに分解していく。
ヒューズが切れるように、意識が飛んだ。
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