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第8部 ヒバナ、イノセントワールド!

エピローグ

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「まったく、人騒がせな」
 ひずみがつぶやいた。
 翌日の午後、5人は大学にいた。
 むさくるしい超常研の部室ではない。
 しゃれたレイアウトで統一された、軽音の部室である。
「ごめんね、うちの源じいがぼけちゃってて」
 ふふふ、と緋美子が笑う。
「悪いのはおじいさんじゃなくて、うちの安奈だよ。そんなひどいこと、いっちゃだめ。でも、まさか、あのときだったとはね」
 腕輪は緋美子の妹、安奈が持っていたのだった。
 おとといのことである。
 緋美子の家のお風呂が壊れ、困り果てた瑞穂は以前一度世話になったことがある極楽湯に電話をした。
 そのとき、ちょうどひずみは塾に行っていて、電話に出たのは源造じいさんだった。
 そして一家3人がお風呂をもらいにやってきたとき、安奈にせがまれて源造が腕輪を与えたのだという。
 おそらくきのう、安奈がそれで遊んだのだろう。
 買い物先で、退屈しのぎにいじっていたのかもしれない。
「なんか、高い高いをしてるとき、偶然安奈ちゃんが神棚に腕輪が置いてあるのを見つけたんだって。それをうちのじいさんが、ほいってあげちゃったんだって。で、そのままずっと忘れてたっていうんだから、ぼけるにもほどがあるよね。あたしが塾から返ってきたときには、緋美子先輩たちもう帰った後だったし、じいさんはもう寝てるしで、全然知らなかったよ」
 ひずみは憤懣やるかたないといった風情である。
「とにかく、あの腕輪がかなり危険な存在だってわかっただけでも、よかったね」
 ヒバナがいった。
「死天王やツクヨミみたいな者たちに奪われたら、わたしたちもう全滅だから」
「銀行の貸金庫にでも保管しておこうか」
 緋美子が提案した。
「絶対に、他人の手に渡らないところに」
「そうだな。オレも、地下プロレスの最中に変身が始まったんで、正直参ったよ。地下で周りが暗かったからまだよかったものの、危うく相手を殺しちまうところだったぜ」
 それまで黙っていたブッチャーがいう。
「そりゃ、相手の選手が災難だったな」
 横で聞いていた玉子がゲラゲラ笑い出す。
「お待たせしましたー」
 そこに、メイド服姿のお通夜が飛び込んできた。
「みなさん、準備よろしいですか? じゃ、まず音合わせから始めましょう!」
 いつになく明るい表情をしている。
 お通夜の依頼をメンバーに伝えたところ、全員大乗り気で、満場一致といった感じでバンド再結成が決まったのだった。
「派手に行こうよ」
 緋美子がエレキギターを構える。
 もちろん、セーラー服にマイクロミニの悩殺スタイルである。
 ブッチャーがドラムセットの後ろに、どっかりと坐る。
 「曲は?」
 ショートパンツの自慢のお尻を振りながら、ヒバナが訊く。
「この前は『パンク仰げば尊し』と『パンク蛍の光』だったから」
 ひずみが顎に手を当てて考え込んだ。
「じゃ、今度は」
 ヒバナがうれしそうに笑いながら、いった。
「パンク『アンパンマンのマーチ』だね」
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