ヒバナ、オーバードライブ DX!

戸影絵麻

文字の大きさ
197 / 295
第9部 ヒバナ、アンブロークンボディ!

#33 奸計

しおりを挟む
 ラボの中はかなり寒く、ナミは何度も両腕を擦り合わせなければならなかった。
 天井から吊り下げられている鬼の肉体が、白々とした光を浴びている。
 すでに右腕は装着されていて、接合部には包帯が巻かれていた。
「暗黒細胞のほうは、どんな塩梅なの?」
 施設の奥の実験室に入ると、ナミは中にいたナギとツクヨミに声をかけた。
「これだ」
 ツクヨミがビーカーを持ち上げて見せた。
 どろりとしたタールのような液体が、半分ほど入っている。
「たったこれだけ?」
 ナミがたちまち不機嫌になる。
「オロチはあんなに大きいのよ? とても足りないじゃない」
「そういうなよ」
 ナギが口を尖らせ、抗議した。
「これでも必死なんだぜ。見てよ」
 シャツを捲り上げる。
 あちこちに絆創膏が貼ってある。
「そんなんじゃダメ。献血じゃあるまいし」
 ひと目見るなり、ナミの声が尖る。
「無茶言うなよ。これでも文字通り、体張ってるんだから」
 ナギは半泣きの表情である。
 遠心分離機にかけるために、毎日肉体の一部をツクヨミに削られていて、生傷が絶えないのだから無理もない。
「一応増殖はしてるけど、増殖のスピードを速めるには、もっと検体がほしいね」
 ビーカーを元通り棚に戻しながら、ツクヨミがいった。
「いざとなったら、あたしに考えがあるけど」
 ナミが思わせぶりにつぶやく。
「まあ、いいわ。もう少し様子を見てみる」
「そうだね」
 ツクヨミはナミの意図を読んだようだった。
 2人の間で、アイコンタクトが交わされる。
 ナギだけが、カヤの外だ。
「それより、ナミ、君のほうは? 昼間のうちに市立大に行ったんだろ?」
「戦利品はこれだけ。超常研の丸山がとった、講義記録みたい」
 ナミは丸山の残した例のノートを差し出した。
 受け取ると、ツクヨミがぱらぱらページをめくる。
「お通夜に言わせると、まだ行われていない講義の内容が書かれてるんだって」
「未来日記みたいなもの?」
 ナミの言葉に、SFファンのナギが目を輝かせる。
「『源頼光と新世界秩序』か。妙なタイトルだな」
 ツクヨミが薄い眉を寄せた。
「源頼光はいいとして、『新世界秩序』って何なの?」
 横からノートを覗き込んで、ナミが訊く。
「ニュー・ワールド・オーダーの日本語訳だね。陰謀論によく出てくる、影の世界統一政府のことさ」
 回転椅子に座って体を回しながら、得意げにナギが解説する。
「フリーメーソンとか、イルミナティとかがこっそりつくろうと企んでる、超管理社会。まあ、一種のディストピアだね」
「それと、平安時代の武将と、どう関係があるのよ」
「それは、僕にもわからないけど・・・」
 妹に詰め寄られ、ナギが頭を掻く。
「面白いな」
 ノートを読んでいたツクヨミが、ふいにいった。
「この先生によると、源頼光は最後に酒天童子に食べられ、鬼に変身したことになっている」
「だからお通夜がへんなこといってたのね。史実と違う、とかなんとか」
「更に、その鬼と化した頼光を倒したのは、うら若き乙女ときている。コノハナサクヤヒメの化身、と説明されるけど」
「コノハナサクヤヒメ・・・?」
 すべての神々の始祖であるはずなのに、ナミにはその名前にも聞き覚えがなかった。
「火の神でもあり、水の神でもある、あのサクヤだね。今は富士山麓の浅間神社なんかに祀られているけど」
「火と水の神・・・って、それ、ヒバナそのものじゃない?」
 ナギがいった。
「彼女、火と水を操るでしょ?」
「符丁は合うね」
 ツクヨミがうなずいた。
「とにかく、これは拾い物だ。このノートに、酒天童子の首の在り処も書いてある。ま、ノートが本当に、未来のものかどうかを別にしても、ね」
「あいつさえしゃしゃり出てこなければ、もう少し調べられたんだけど」
 悔しそうにナミがつぶやいた。
「あいつって?」
 ツクヨミの問いに、ナミの瞳が怒りの炎を宿す。
「秋津緋美子。あんたの愛しい姉さんよ」
 ツクヨミがくすくす笑い出した。
「なるほどね。彼女はいわば、君が"対ヒバナ用"に手塩にかけて作り上げたアンチ戦闘少女だものね。可愛さ余って憎さ百倍ってことか」
「それはあんたも同じでしょ」
 ナミが笑い続けるツクヨミをキッと睨んだ。
「で、あたし、思うんだけど。どこにいるかもわからない観測者を探すより、まず邪魔者を消しとかない?」
「そうだね。ま、それでもいいけど」
「だいたいね、あんた、この前なんでヒバナを殺しておかなかったの? チャンスあったんでしょ?」
「一瞬そう思ったんだけどね」
 ツクヨミが真顔に戻る。
「ただ、あのときは前鬼・後鬼も、"一本だたら”もやられちゃって、丸腰だったんだよ。僕単体では攻撃力はまるでないから」
「だね。あんた、逃げるの専門だし」
「はは、そういうこと」
 ナミのいやみを軽く受け流すと、
「それに、ヒバナを殺したら、姉さんの復讐が恐いしね」
 ツクヨミが、冗談とも本気ともつかぬ口調でいった。
「そこが狙い目だと思うの」
 ナミが意地の悪そうな笑みを浮べる。
「ヒバナを囮にして、緋美子をおびき出す」
「百合の花を根絶やしにする、ってわけだね」
 つられたように、ツクヨミも微笑んだ。
「それには強力な武器が居る」
 眼鏡の奥で、ナミの瞳孔が猫のそれのように細くなる。
「酒天童子の首か」
「あいつらが動く前に、盗る」
「場所は?」
 ナギが横から口を挟んだ。
「今度は岐阜だね。この前の腕のあった神社からそう遠くない。『鬼の首塚』だ」
 ノートをめくり直して、ツクヨミが答えた。
「うは、まんまの名前なんだ」
 ナギが歓声を上げる。
「ナギ、あんたはお留守番。もう少し肉を削って、暗黒細胞を抽出するの。なんたって、あたしたちの最終兵器は、あのオロチなんだから」
「そ、そんな、殺生な・・・」
 ナギの泣き声を最後まで聞かず、ナミは歩き出した。
 後ろをツクヨミが追ってくる。
「場所を用意しておかないとね。2人を葬る場所を」
「そうね。あの鬼のラスボスが、存分に暴れられる広い場所が必要だわ」
 エレベーターで一階に上がる。
「あら、もう実験は済んだの?」
 ソファで紅茶を飲んでいた母親が話しかけてきた。
「ちょっと出かけてくるね」
 ナミは、そっけなくいった。
「今晩は、遅くなるから、先に寝てて」
「あらまあ」
 母の顔が曇った。
「ナミちゃんったら、ほんと、反抗期なんだから」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...