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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!

プロローグ

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 あ。
 ああ・・・。
 う、うふん・・・。
 ヒバナが喘いでいる。
 その悩ましげな喘ぎ声に合わせて、緋美子は指の動きを早めた。
 粘液の溢れる音が大きくなる。
 ふたりとも全裸である。
 ヒバナがベッドに仰向けに横たわり、誹美子がその開いた股の間に蹲っている。
 あ。
 そこは。
 あう、だめ、もう。
 ううん。
 ヒバナが激しくのけぞった。
 海老のように反り返り、悶えるように身をくねらせると、やがて動かなくなった。
「いっちゃった?」
 ぐったりしたヒバナを見下ろして、誹美子は訊いた。
 横たわったまま、潤んだ瞳でヒバナがうなずく。
 抱き起こすと、裸の肩を抱いた。
「気持ちよかった?」
「・・・うん」
 指で、乳首を触ってやると、また切なそうに喘いだ。
「なれないね」
 緋美子はヒバナの背中をさすりながら、つぶやいた。
「え?」
 うっとりと緋美子の肩に頬をあずけていたヒバナが顔を上げて、誹美子を見る。
「あのときみたいに、ひとつになれないね、ってこと」
 緋美子は思い返していた。
 一週間前の、異界での戦い。
 最後の最後の瞬間で、誹美子とヒバナは一体化し、光の女神となって敵を倒したのだ。
 体が回復して以来、何度かヒバナとこうして愛を交わしてきた。
 だが、あのときの奇跡は2度と起きなかった。
 いったいあれは何だったのだろう。
 その思いが強い。
「だって」
 緋美子から身を離すと、ヒバナが甘えたような口調でいった。
「こんなとこで合体したら、わたしの家が壊れちゃうでしょ」
 ふふっと緋美子は笑った。
「それもそうだね」
 ヒバナの顔を両手で挟んで引き寄せ、長い口づけをする。
 私たちは、ひとつの世界を滅ぼし、第二の観測者を倒した。
 次にやってくるのは、どんな世界なのだろう?
「もっといろいろためしてみる?」
 唇を離し、瞳をじっと覗き込んで訊く。
「もうおなかいっぱい」
 ヒバナが幸せそうな顔で微笑んだ。
 2つ年上なのに、妹のように可愛い。
「じゃあ今度は」
 緋美子はゆっくりと股を開いた。
「私を触ってくれる?」
「いいの?」
 ヒバナが小声で訊く。
「うん」
 緋美子はうなずいた。
 ヒバナの手をとり、秘部へと誘った。
 恥ずかしいほど濡れている。
「ヒバナがあんまり可愛いから、興奮しちゃった」
 うわずった声で、いった。
「好きだよ」
 ヒバナがささやいた。
 緋美子の自我が溶け始めた。

 前も後ろも上も下も見えない虚無の空間。
 手足の感覚も体の感覚もない、
 あるのは意識だけ。
 こんなんで、どうしろっていうのよ?
 ナミの思念に、
 だよね。
 と答えたのは、ナギである。
 ツクヨミと酒呑童子が消滅した今、あたしに残されているのは何?
 暗黒細胞で、八岐大蛇と酒呑童子を合体させ、最強の怪物をつくってやろうと思ったのに、それがどうよ? このていたらく。
 先にヒバナと緋美子の合体技にやられてしまったのだから、世話はない。
 八岐大蛇はどこにいったのだろう。
 やはりあの氷の異界とともに消えてしまったのだろうか。
 だとすると、何か代わりになるものが欲しい。
 あの”女神”に勝る、超強力な兵器が・・・。
 ナミがそんなことを堂々巡りするように考えているときだった。
 ふいに、ナギの思念が大きくなった。
 あれ? ナミ、あそこに何か見えるよ。
 ナギの呼びかけに、
 え?
 ナミは意識を集中した。
 闇の底の底に、確かに何かが光っている。
 奇妙な形の、都市だ。
 非ユークリッド幾何学を極めたような、ありえない外観をしている。
 あれは、もしかして・・・。
 見つけたよ、ナギ。
 気分が高揚してくるのがわかる。
 ナミは微笑んだ。
 これで。
 勝ったね。
 そう思ったのだ。
 
 
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