ヒバナ、オーバードライブ DX!

戸影絵麻

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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!

#3 幻視される魔女①

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 気がつくと、ソファで寝ていた。
 ナミは目をこすりながら、身を起こした。
 見慣れた部屋である。
 机に突っ伏して、兄のナギが寝ているのが見えた。
 眼鏡をかけ、視力を取り戻すと、ナミは足元に落ちていた孫の手をナギの背中に向かって投げつけた。
「いてーなあ」
 ナギが目を覚ます。
「お、人間界に戻ってる」
 椅子から立ち上げると、自分の手足を眺めてうれしそうにつぶやいた。
 二度目のリセットだった。
 一度目は、目が覚めたら知らない学校で、英語の授業を受けていた。
 今回は、どうやら自分の家らしい。
 新たなスタートとしては、その分気が楽だった。
 外はすっかり暗くなっている。
「きょうは何月何日?」
 ナミは訊いた。
「11月8日、日曜日だね。あれからちょうど一週間経ってる」
 ナギが卓上時計に目をやって、答えた。
 あれから、というのは、ナミとナギがヒバナと緋美子の合体技によって、異界もろとも光の粒子に分解された日から、ということだろう。
「明日から学校かあ。って、また学校変わったりしてないだろうな」
 世界がリセットされると、観測者の微妙な認識の違いのせいか、細かい誤差が色々と生じてくる。
 ナギはそのことをいっているのだった。
「そんなことより、ナギ、あんた、覚えてる?」
 ナミは煙草に火をつけ、灰皿代わりの空き缶を手元に引き寄せた。
「ちょ、ちょっと、僕の部屋で煙草吸わないでよ! ここ、禁煙だっていっただろ? また僕がパパに叱られちゃうじゃないか」
 ナミが大急ぎで窓を開けながら、抗議した。
「あんたって、ほんとに人間ちっちゃいよね」
 馬鹿にしたように、ナミが鼻で笑う
 煙草を消す気など、さらさらない。
「それは悪うございました。で、覚えてるって、何をさ」
 不満そうに頬を膨らませて、ナギが訊く。
「ここに転生する前、ほら、五次元空間みたいなとこに、あたしたち浮かんでたじゃない」
「うん」
「あのとき、最後にちらっと見えたあれって」
「ああ、あのごちゃごちゃしたシュールな都市?」
 そう、やはりあれは"都市"だったのだ。
 非ユークリッド幾何学の粋を凝らしたような、不思議な形状をした漆黒に耀く都市。
 漆黒に耀く?
 その言葉の矛盾に、なんじゃそれ? と自分で自分に突っ込みを入れながら、
 しかし、実際そんな感じだったのだ、とナミは思った。
「あれ、何だったと思う?」
「さあねえ、強いて似たものを挙げるとしたら、やっぱ、あれかなあ」
「あれじゃわかんないわよ」
「あのさ、ラブクラフトって作家、知ってる?」
「知ってるわよ、そのくらい、クトゥルー神話でしょ」
「そう。で、その人の小説に出てきた都市ってのが、ちょうどあんな感じだったような・・・」
「ルルイエね」
「そうそう、旧支配者クトゥルーを封印してあるとかいう、異空間の都市だよね。ってまさかナミ、あの時見たのが本当にルルイエだと思ってるの?」
「思ってちゃ悪い?」
「だってあれ、小説の中の話でしょ」
「馬鹿ねえ」
 ナミは軽蔑のまなざしを兄に向けた。
「観測者が変わったんだよ。あんたもあの光の女神が、窮鼠猫を噛む的逆転必殺ワザで、人間界の観測者を抹殺するところ、見たでしょ?
 ってことは、今度の、つまり第三の観測者の嗜好次第では、クトゥルー神話の現実化もありえるってことじゃない。この前は和風ファンタジー系だったから、次は西欧神話系って可能性、充分アリだと思うけど」
「なるほど」
 ナギがうなずいた。
「で、どうすんの?」
「あれを人間界に召喚するんだよ」
「ルルイエの浮上を企む悪の邪教集団かあ、なんかよくあるパターンだよなあ」
「よくあるパターンだからこそ、実現しやすいんじゃないの」
「でも、ツクヨミがいなくなっちゃったから、ちょっと難しそうだよね。そういう、次元移動みたいなものって。しかも、あれ、相当大きかったし」
「まあね」
 ナミが二本目の煙草に火をつける。
「だけど、最後の最後にね、あたし、見たんだよ」
「あ、ひょっとして、あの女の顔・・・?」
 そう。
 都市を幻視した直後、もうひとつのイメージが、ナミの脳裏に閃いたのだ。
「あれって、麗奈だよね」
 ナミはいった。
 麗奈。
 前の前の世界で、ナミたちと同じ、禍津神の"死天王"だった女である。
 本来なら、前の前の世界で、ヒバナに倒されたはずだった。
「やっぱりそう思う?」
 ナギの目が耀いた。
 麗奈はフェロモン全開の妖艶な魔女なのだ。
 一応男の端くれであるナギが喜ぶのも無理はない。
「この世界では、あいつ、生きてるんだわ」
 ナミはつぶやくと、テーブルの上にあったナギのノートパソコンを立ち上げた。
 すばやい指使いでキーボードを操作する。
「つかまえた」 
「早!」
 ナギが横から画面を覗き込む。
 南国っぽい海と青空を背景に、エンタープライズ号のような形の真っ白な建物が立っている。
 その右上に代表者の顔がコラージュされているのだが、それはまさしくあの麗奈その人だった。
 相変らず、吸い込まれそうになるくらい妖しい美貌である。
 写真はバストアップのもので、豊かな胸の谷間までばっちり写っている。
「うわ、マジ本当だ。元気そうで何よりだなあ」
 ナギがにやついた。
「でも、"天国への階段"って、何だろう? 宗教団体かな」
「自己啓発セミナーみたいだけど、たぶんそうね。あの女の考えそうなことだよ」
 麗奈は以前、『聖ソフィアの会』という怪しげな会社を立ち上げて、心霊グッズの通信販売を生業としていたのである。
「でも、これとルルイエとどういう関係が?」
「あのとき、ほとんど同時にイメージが閃いたってことは、麗奈が何らかの形でルルイエに関わってるって証拠じゃない。きっとこの教団は、ルルイエ浮上を目的にしてるんだと思う」
「そうかな、そんなこと、どこにも書いてないけど」
 HPにあるのは、
『人生を楽しく生きる10の方法』とか。『愛され女に変身するための3つの魔法の言葉』とか、そんなコラムばかりだった。
「馬鹿ねえ。公共の場でそんなこと大々的に書くわけないじゃないの。こうなったら本人に直接会って聞いてみるのが一番だわ。本部の所在地はどこになってる?」
「島みたいだね。愛知県は三河湾の・・・って、けっこう近いじゃないか」
「御門島? どっかで聞いたこと、ある気する・・・」
「やばいよ」
 ナギがふいにいった。
 心なしか、顔色が悪い。
「ここ、あいつの住んでるとこだ」
「あいつって?」
「大和田玉子。ヒバナのチームの、ちびっこ魔道師さ」
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